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映画・ドラマに映る韓国女性のリアル (20) 母と娘、娘の‘彼女’と同居生活 映画『娘について』

成川彩2025.01.16

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2024年に韓国で公開された映画で、韓国内で評価の高かった一作はイ・ミラン監督の映画『娘について』だ。原作はキム・ヘジンの同名小説で、日本語版も出版されている。一人暮らしの母(オ・ミネ)のところへ経済的に行き詰まった娘(イム・セミ)が恋人(ハ・ユンギョン)と共に転がり込んでくる。恋人は女性だ。「娘には男性と結婚して家庭を築いてほしい」と言う母と娘の間には深い溝がある。

『娘のために』は、イ・ミラン監督の長編デビュー作だ。イ・ミラン監督はイ・チャンドン監督やチャン・リュル監督のスクリプターを務めた経験もある女性監督で、『娘のために』は、韓国の映画雑誌『CINE21』や、人気映画評論家イ・ドンジンさんの2024年韓国映画ベスト10にランクインした。

韓国では中高年の女性が主人公の映画やドラマが近年増えている。映画『娘について』の主人公も初老の女性で、介護の仕事に携わっている。認知症の高齢女性の介護は精神的にも体力的にも大変だが、家族以上に心を尽くしてケアをする。高齢化が急速に進む韓国では最近「認知症」や「介護」への関心が高まっている。

一方、LGBTQに関しては日本に比べて根強い偏見があるが、これも映画やドラマによく登場するようになってきた。昨年公開された映画では『娘について』のほか、『大都会の愛し方』も同性愛にまつわる映画だった。少しずつ理解が広まっているということではあるが、まだまだ抵抗も大きい。昨年9月、大田(テジョン)市が男女平等週間のプログラムとして予定していた『娘について』の上映を撤回し、話題になった。理由はクィア映画ということだが、それこそ男女平等のテーマに沿うもので、さらに介護の問題や契約職の問題など女性にまつわる様々な問題が込められた作品だ。LGBTQへの無理解が露わになった出来事として残念だった。

映画『娘について』の娘は大学の講師だが、同僚がLGBTQを理由に授業ができなくなり、抗議の運動に参加して大学側と衝突する。はっきりとは分からないが、経済的に行き詰まった背景の事情のようだ。母としては、娘の同性愛を受け入れたくない感情もあるが、娘が世間の厳しい目にさらされてほしくないという思いもある。

前述の通り、この映画は同性愛にまつわる映画というだけでなく、契約職の問題についても触れている。娘は正規職の教授でなく、契約職の講師だから不安定な立場だという点もそうだが、母が介護の方針をめぐって勤め先の上司ともめて、失職した後にも出てくる。求職のためハローワークのような窓口に履歴書を提出すると、「大学を卒業してこんなに経歴の充実した女性は雇用主が嫌がるから、もう少し簡単な履歴書に直してほしい」と言われるのだ。高学歴の女性ほど再就職が難しいというのが韓国の歪なところだ。ドラマ「ロマンスは別冊付録」でも同様の矛盾が描かれていた。

娘に結婚してほしいと願うのは、自分が介護を担当している高齢女性が身寄りがなく、それゆえ介護施設で軽視されていることとつながっている。自分が介護施設で見聞きした経験から、娘には年老いて一人寂しく過ごしてほしくないと思うのだ。だが、娘の恋人は問う。「なんで一人寂しく老いると思うんですか?」と。

同居生活の当初は娘の恋人につらくあたっていた母は、二人の仲睦まじい姿を見て次第に心境が変化する。婚姻届けを出せなくても、寄り添って生きる「家族」にはなれると感じ始めるのだ。娘と娘の恋人との共同生活を通し、母が一回り成長する姿に希望を感じた。

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成川彩

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。2017年から韓国に渡り、ソウルの東国大学大学院で韓国映画について学びつつ、フリーのライターとして共同通信、中央日報など日韓の様々なメディアに執筆。2020年からKBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」で韓国の本と映画を紹介している。2020年、韓国でエッセイ『どこにいても、私は私らしく(어디에 있든 나는 나답게)』出版。

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