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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 ゆく年くる年ドイツ編

中沢あき2024.12.16

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あっという間に今年も最後の月。過去数年の暖冬に比べて今年のドイツの冬はひと昔前のような寒さでやってきた。11月半ばからはぐっと冷え込み、ドイツの中でも割と温暖と言われるこの地域でも日中の最高気温は5度を下回る日々が続き、積もりはしなかったけれども雪も舞ったほど。と思えば、いきなり春のような暖かさと暴風が一瞬来たり。やっぱり異常気象ですかね。
その暖かくなった週末に始まったクリスマスマーケットに行こうと出かけたものの、その日は「死の日曜日」というキリスト教の慣わしで一部のマーケットしか開かない日で閉じられたフェンスの前で立ち尽くす私たち親子…。いや、去年も同じ失敗をしていたので、事前にインターネットで調べていったのだ、私。
「市の公式サイトで調べて、そこには日曜日は昼からオープン、って書いてあったから来たのに、「死の日曜日」は休み、なんて情報は載ってなかったよ!」

仕方がないので一旦家に戻り、早めの夕ご飯を食べてからもう一度、「死の日曜日」でも夕方からオープンする別のマーケットに向かう。ここは去年、夕方のオープン時間を待って入ったところなので確実だ、と思いきや、なんと今年から入場制限をしていて、事前予約がない人は長い行列に並んで入れ替えを待っている。そんなルールはネットにはなかったし、なんなの急にこの対応は!と、相変わらずドイツの行政のいい加減さにブリブリ怒りながら「明日、幼稚園の後に出直そう」と子どもをなだめ、帰宅したのであった。
気持ちが収まらないので、家に帰ってからりんごの薄切りをフライパンで焼いて、棚に残っていたクリスマス菓子のスパイスを振りかけて、これまた冷凍庫にほんの少し残っていたバニラアイスとホイップクリームをかけて出してやる。クリスマスマーケットの味でしょ?と、お手軽お安い夜食のアイディアに満足した単純な私たちであった。

さてその翌日、出張があった私抜きで、子どもをクリスマスマーケットに連れていった相方の話。我が家はクリスマスマーケットでいつもライべクーヘンという、ハッシュドポテトに似たポテトパンケーキを食べる。直径が12cmほどの丸い形で1個からでも買えるが、普通は3個セットでそこにりんごのピュレを添えて食べるのが定番だ。帰宅した私に楽しそうに「食べたんだよー、おいしかったー」と言う子どもの報告に続いた相方の報告は「3個セット、りんごピュレ付きで8,90ユーロだった。だから2枚だけ、ピュレ無しで買ったよ」。
このライベクーヘン、7〜8年くらい前は4か5ユーロくらいだった。その前はもっと安かった。年々物価は上がっているとはいえ、昨年はもうちょっと安かったはず。今年はさらにまた値上がったのか!日本円に換算したら約1400円である。たかだかポテトパンケーキにこんな値段を払うのか…。

ウクライナとロシアの戦争が始まって以来、物価高に拍車がかかって、大変だと言われてきたが、昨年からはその値段が各所でちょっと落ち着いたように感じていた。が、この数ヶ月、様々なところで再び、それもかなりの値上がりを感じる。乳製品や公共交通費、挙句には幼稚園の給食費まで。その場その場では払えない値段ではない。けれども総合的に積もってくると、家計にはかなりの負担で、たまにの贅沢ですら手が出ない感じになってくる。そもそも、楽しもうという気持ちが萎える。こんなサービスにこんな値段を払うのかよ!と、そもそも不満があったサービス内容は改善されていないわけで。

さて自分が書いてきた今年のコラムを見返すと、うーん、どれも明るい話題がほとんどないなあ…。でも現実なのだからしかたがない。その現実の中からこの一年を振り返ってネガティブなこと、ポジティブなことを並べてみようかな。題して、ゆく年くる年ドイツ編。

まずはゆく年2024年を振り返り。

連立政権崩壊。SPD、FDP、緑の党の連立が崩壊した。予算の補填に新規の借り入れをしたい政権にNOを突きつけていたリントナーFDP党首が財務大臣の座を解任され、FDPが切られたということだ。発足当初から足並みの揃わない政権だったが、よく3年ももったものだと思う。もっと早い段階での政権交代を望む世論は多かったのに。来年2月とも4月とも噂される解散総選挙はしかし未定のまま。ショルツ首相は頑としてその座をまだ譲らない。自党が勝てる見込みをしっかり立ててから解散したいのだろうが、連立無しでは政権維持はまず無理。その連立相手はどこになるのかも微妙だ。
メルケル元首相がいたCDUが次の政権奪回を狙い、その大いなる可能性も報道されている首相候補のCDU党首メルツ氏はこれまたゴリゴリの保守派であり、強硬な対移民政策も対ロシア政策も主張する中、戦争に巻き込まれていく気がしてならない。
そして極右政党が支持を伸ばしているとはいえ、政権を取ることはないであろう中、SPDやCDUがどこと手を組むのかが注目されている。緑の党は入るのだろうけど、非現実的な政治であることが見えてしまったこの政党がどこまで国民の支持を今後得られるのだろうか。今年、旗揚げして自党を結成した「姉さん」こと、ヴァーゲンクネヒト氏の党が政権に入り込めば、少しはストッパーとして機能するだろうか。

鉄道をはじめとしたインフラ機能不全。今年報じられた「ドイツ鉄道の5分以上の遅延率は4割以上」にはもう驚かない。日々実感しているからね。経営陣はあと数年で各地の大工事が終わって運行は安定するだろうと言っているけれども、私も私の周囲も誰もその言葉を信じていない。大工事だけが問題なのではなく、各地の線路や信号システムの老朽化に加え、人材不足など、長年放置されてきた根本的な問題をトップは見ていないからだ。そこにお金も努力も注がず、デジタル技術で綻びを隠そうとしても無理である。遅延をいちいち知らせてくれるアプリなんて要らないよ…。車社会から変わらないどころか、もっと進むかもしれないな。環境に優しい社会からまた遠のくね。

その人材不足は鉄道インフラだけではなく、保育園から学校、病院、商業店舗から飲食店舗、工業とあらゆる分野の大問題だ。保育園が人手不足で頻繁に閉鎖になることはこのコラムでもたびたび書いたけど、その状況は全く変わっていない。ここでもトップエリートたちからデジタル技術への期待は大きい。
AIなどで補填していこうという話はたびたび出るけれども、例えば介護や看護、保育や教育の現場まですべてAIやロボットでできるわけがない。理論的にはできるのかもしれないが、それだけの投資の資本もなければ、そもそもロボットに子どもを預けたいなんていう親が、ロボットに介護されたいと思う人がいるだろうか?そんな話をドイツ人の友人としていたら、彼女はあっさりと「だからそこには移民の人たちがいるじゃない」と言った。弱い人の立場でものを考えて、曲がったことが嫌いで、厳しいけれども優しい彼女を尊敬していた私にはその発言は正直、ちょっとショックだった。

その移民問題。60年代からすでにドイツの経済や社会はゲストワーカーと呼ばれる移民の労働者に大きく依存してきた。そして移民を受け入れ、彼らが既存のドイツの社会に融合してくれることを望んだ。でも、特に欧州以外の国からやってきた彼らには異なった文化や価値観がある。それも受け入れていかなければ移民はドイツ社会には暮らし続けてくれない。メルケル政権の時にはそれを促すための統合政策という取り組みもあって、私は語学コースに通うときなどにその恩恵を受けた一人だ。ドイツ市民も移民も両者ともに融合の努力はしていたと思う。
それでも異なる価値観を擦り合わせていくのは容易ではない。2015年以降の大量の難民流入は、その移民政策の方向性を大きく変えることとなった。難民は移民とは違う。やむをえずに祖国を出てきた人を手助けするのはよいが、そのコストの負担とともに、移民となってこの社会の働き手となってくれればという目論見は外れた、というより甘かったのだろう。
政策のスキを極右政党に突かれることにもなったが、そもそもこのドイツの社会はエリートを上とするヒエラルキーがあって、中流以上の共働き家庭では掃除は掃除婦を雇うのが普通だった。学校でも日本のように生徒たちが自ら掃除をすることはない。掃除婦任せである。この「分担」の意識がある限り、ドイツは移民を必要とするだろうけれども、いまや、かつて移民として働いてきた人たちの収入や生活レベルも上がってきて意識が変わってきている。となるとドイツは新たな移民を探さなければならないのだろう。そういえば今年、ショルツ首相自らベトナムを訪問して、働きに来てくださいとお願いしていたっけ。

さて、人材不足で、それもあって人件費の上昇が止まらないドイツの産業界ではアウトソーシングが始まった。ドイツの産業経済を支える自動車メーカーのフォルクスワーゲンや鉄鋼メーカーのテュッセンクルップが立て続けに国内の工場閉鎖と数千人単位の人員削減を発表した。身近でも有名なメーカーに勤めていた知人がクビになったというから驚いて聞けば、彼の部署が丸ごとベトナムへアウトソーシングになり、閉鎖となったのだそうだ。来年はこの手の話をもっと聞くことになりそう。

コロナ禍に始まり、その後のウクライナ・ロシアの戦争による各種の値上がりは物価を押し上げた。昨年後半からはそれが若干下がってやや落ち着いたように思えたが、今年の夏頃から再びまた物価の上昇が肌で感じられるようになってきた。家庭でのエネルギー費は昨年に比べて落ち着いた感じに思えるのに、食料品や交通費、外食などでその値上がりっぷりに驚かされる。中でも、子どもの保育園の給食費が10年ぶりとはいえ、来年春からいきなり1,7倍に値上がることには驚いた。エネルギーや材料費の物価高が原因とされているが、おそらく人件費の値上がりもかなり響いているはずだ。
結局のところ、ストライキを繰り返して給料が上がっても、回り回って自分たちの身に跳ね返ってくるんだよね。というか、我が家はフリーランスで収入はほぼ上がっていないままなので、かなりきつい。さらに我が街では市の財政事情が悪いとのことで、この給食費の他に市内交通機関の値上げ、各種文化施設の入場料や使用料、駐車料金なども来年から爆上げになると報道された。こうなったら行政に頼らず、自分でできることをやっていくしかないなと思案中。

戦争といえば、一年前のハマスの襲撃に対する掃討作戦として始まったイスラエルの継続的な攻撃により、ガザは国連の調査団をして「まるで原爆が投下されたかのようだ」と言わしめるほどの様相だという。しかし、ついにネタニヤフ首相に国際刑事裁判所から逮捕状が出た今でも、ドイツ政府はイスラエル支持の立場を変えず、世論やマスメディアの報道もイスラエル寄りのままである。
映画やアートのシーンにおいても、パレスチナ連帯の表明はドイツでのキャリアの終焉を意味する、と言っても言い過ぎではないと思えてくるほどに、この表明をしたアート関係者はことごとく批判され、芸術への公的な支援をカットされ、その結果アーティストたちがドイツから去っていくという状況が始まっているという。マイノリティへの共感や気づきを促してきた現代アートの役割はいずこへ?自由や尊厳を唱えるアートシーンに冷めた視線しか送れなくなっている自分がいる。私がかつて感銘を受け、学びたいと思ったこの国の芸術文化のシーンはハリボテだったのか?とすら思えて哀しくなる。

と、ここまで書いて、全然明るい未来が見えてこないですね。暗い時代への生き残り術を考えて身構えてしまうよ。うーん、何か明るい話題はないかなあ。あ、そうそう!

今年の5月、かつて香川選手が活躍したことで日本でも有名になったサッカーブンデスリーガのチーム、ボルシア・ドルトムントが3年間のスポンサー契約をラインメタルと結んだと発表され、話題を呼んだ。何が話題かというと、ラインメタルはドイツの武器メーカーの大企業であり、ウクライナ・ロシアの戦争が始まって以来、大きな収益増でいまやドイツの経済を大きく支えている会社である。
平和のシンボルともなるスポーツのクラブチームのスポンサーに武器メーカーがついてもいいのか?ということでサポーターの反発は大きく、ドイツ国内外のメディアが報じる出来事となった。武器メーカーが国の経済を支えているということ自体、嫌なことだと思っていたのに、それが表立ってブンデスリーガのスポンサーになるなんて世も末だわ、と私も思った。そのことを恥と思う多くのサポーターたちはダンボール紙で作った戦車と共にこのスポンサーについての反対デモも行っていたそうだ。
それがつい先日の11月末のこと。BVBのクラブ運営団体の総会で、多数の団体員がラインメタルからのスポンサー契約に反対を表明したという報道がされた。かねてより論議を巻き起こしていたこの問題について、早期の契約解消を求める提議に約7割が賛成票を投じたのだ。その理由は「社会が軍事産業を受け入れることを促すような、こんな契約はボルシア・ドルトムントにはそぐわない」
やるじゃん!これだよ、これ。「正しくない」ことに対してNOとはっきり物申す人たち。権力に屈せず、諦めない人たち。それも市井の人たちだ。これこそドイツ社会を作ってきたものじゃないの。私が好きなドイツだよ。ちょっと、もっと頑張ってよー!とちょっぴり希望と元気をもらった。

ともすれば戦争に巻き込まれていきそうな今のドイツにあって、ちゃんとこうやって抵抗する人たちがいる。先の見えない暗い今だけれど、そんなことに希望を見出していきたい、くる年2025年。




©︎ : Aki Nakazawa

ケルン大聖堂の広場のクリスマスマーケットはキラキラ輝いて、楽しげな人々で混み合う中、大聖堂側の中央駅の構内に設置された今年のKrippe(クリッペ)。クリスマスの時期になると、キリストの生誕劇を人形で表したクリッペという伝統の展示が街のあちこちで見られるのですが、このKrippeは斬新すぎるというか…。第二次大戦末期に連合軍の爆撃で街の8割が破壊されたケルンの大聖堂近辺の街並みの様子を再現したものだそうで、小さなクリスマスの屋台もあります。世界のあちこちで続く戦争が早く終わるように願いを込めて作られたこのクリッペはその狙いの大胆さに驚きつつ、哀しくもなりました。来年こそ、戦争が終わるといいのですが…。明るい年、なんてなかなか言えないのですが、希望の光が差す年になることを願ってやみません。

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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