今回は男性からの相談です。
フェミカンのカウンセリングは基本的に女性が対象ですが、私の場合、ごくまれに男性の相談を受けることがあります。(本人了解のうえ、内容はアレンジしています)
Kさんは30代後半。趣味の音楽を通じて出会った妻と2人暮らしです。
高学歴で大手企業勤務というエリートコースを歩いていましたが、10年前に退職。放浪の旅にでるなどして、自分がやりたいことを探してきました。今は、やりたいことに出会い、仕事として自営するに至っています。ただ、専門性のある特殊な分野だけに、安定した収益を得るにはまだ難しいようです。収入が不安定なため、パートの仕事をかねていますが、フルタイムの妻の収入が生計の柱です。
結婚5年目。同い年の妻は当初は夫の考えや仕事の理解者でした。でも、自分に生活がかかっている負担感、夫の収入をあてにできない苛立ち、そろそろ子どもを産んで子育てに専念したいと焦る気持ちなど、夫への不満や怒りが募ってきているようです。最近は辛辣な非難、暴言でKさんを罵倒することもあり、話し合いになりません。「将来が見えない」と関係のリセットを示唆することもあります。
「2人で暮らしても辛いし一人になりたいとも思えない。自分の立ち位置を確認したい」Kさんです。
今回のように男性の話を聴く立場になると、男のジェンダーの縛りとしんどさを改めて考えます。
「男なんだから」「稼げない」「情けない」「クズ」など、妻の攻撃はかなりの激しさです。Kさんは心の中で「そこまで言うのか」と思っています。でも、自分の中に男としての不甲斐なさやひけめがあって、妻の不満や怒りを受け止めざるをえない、彼女の気もちがすむよう、収まるように努力しているというのです。
妻の不満や焦りの気もちに、理解できる部分もなくはない。だからといって、何を言ってもいいわけではないでしょ。感情をぶつけているだけでは、話し合いになるはずありません。
言葉の暴力、人格の否定は精神的暴力というDVですよ。
女性のDV被害やモラハラ被害の現場でいつも感じてきたこと。それは、加害/被害を生んでいる元凶は、歪んだジェンダー観、女性蔑視意識にほかならないということです。
「食わせている」特権意識、優越感と「食べさせてもらっている」劣等感は、いまだに男女の支配構造の定番です。昔ながらの古き悪しき時代が延々と続いているのが現実。一体、どこが男女共同参画やねん!と言いたくなる。いまだに潜在的な男尊女卑意識は深く浸透していること、このうえない。こんなことだから、相変わらず暴力や人権侵害ははびこっていて、やりきれないことだらけです。
日本の時代錯誤な女性蔑視思想は、男性優位主義と特権意識によるものなのに、国のトップを担う人たちには問題意識がないどころか、そのことをまったく悪びれないのですから、根の深さは計り知れません。
でも、あきらめたら負け。私の関わっている女性相談は、最近は行列ができるほどの忙しさ。これって、何とかしなくちゃいけない人たちがいることだし、その人たちが何かを求めて動いていることですから。
さて、Kさんのケースは、ジェンダーの男と女、表裏一体の問題といえます。
女性からの「男のくせに」「稼げない男は情けない」「(私を)食わせてなんぼだろ!」こういった言動の背景も私たちの中にしみ込んだジェンダーバイヤスです。
夫婦や家族は共同体なのに、「食べさせてやっている」という意識そのものが特権的です。女性であれ、男性であれ、やはり力の不均衡と役割を強要する(してもいい)特権意識が潜んでいるからでしょう。妻の攻撃に対するKさんのひけめは、男性にあるジェンダーバイヤス、女性から男性への縛りと抑圧が生んでいるのです。
どちらの性であれ、一方が自分を犠牲にしなければいけないとしたら? 2人の関係はどうなのか、Kさんに考えてもらうしかありません。
では、2人の問題はなんでしょう? 経済的なこと? Kさんの仕事のこと?
今、見えているのはそこかもしれません。
では、もし、Kさんの仕事や収入の問題が解決したら?
妻の不安や不満はなくなるのかな?
2人の関係は回復するのでしょうか?
子どものことなど、将来のことはどうかな?
根っこは、たぶん、お金だけじゃないはず・・・
Kさんは、彼女が自分に求めていること、求められていることを、どう思っているのか?
2人のどちらか一方が、自分を犠牲にしないとやっていけない関係だとしたら?
ここでは、あなた自身がどう生きていきたいのか、再考してみましょうか。
Kさんの仕事は専門的でマニアックな世界です。「この仕事だけで生活するにはまだ難しい」というのもわかる気がします。
現実は、日々の生活にお金はいります。霞を食って生きるわけにはいかないし。この道を決めたKさんは、自分が望んだ道だから覚悟のうえはあたりまえでしょう。
ただ、妻には妻の思いがありますものね。エリートコースを生きてきたプライドもあるはずだし、夫のキャリアにだって魅かれたかもしれない。
恋愛中は誰しも盛り上がるもの。でも、結婚してみてわかること、見えること、受け入れられないこと、こんなはずじゃなかった・・・残念ながら、後になって見えてくるものって、山ほどあるからね。
妻の不満の中身は、「人並み」の結婚や家、夫の職業や経済的余裕だったり、子育てに専念できる環境だったりと、そんなことが透けて見えます。
自分たちがどんな形の暮しを望んで、どんな夫婦でいたいのか、そこは2人が自分を壊さないで生きていけるようどう譲り合えるか、落としどころを見つけるしかありません。
面接を通して、Kさんが妻を必要としていること、分かりあいたい人、通じあえる人としていとおしく思っていることが伝わってきました。
そして、面接をした2カ月ほどの間に、2人の関係はあわただしく動きました。
話し合い、妻の家出、引っ越し、離婚話の浮上、夫婦カウンセリング、別居、合意・・・
いったん離れてみて、物理的な距離をとることで、2人がともにお互いを必要としあっていることを確認しあったようです。
「結果的に彼女とボクの関係は悪くなってない。ボクは彼女を愛している。もう1回やってみよう、ということにした。ものすごく彼女を必要としていたんだとわかった。会うと元気になるので、時々会うのは悪くないな。こうやって生きてきたことは、これから長いスパンで考えるテーマになる。全部なくならなくてよかった。自分には、彼女という人がいて、それが居場所だった・・・」
面接は4回で終了しましたが、彼らの関係は継続しています。
それにしても、Kさんはクールです。
彼女の感情的な高ぶりや非難や暴言も気になりましたが、それも含めてKさんは冷静で淡々と話します。そこは気になっていたところでした。
(面接終了後の余談)
ところで、彼女と話すときも、そんな感じなの?
ケンカしててもそんな感じだった? (「まあ・・・」)
そうなの。 う~~ん、相手にしてみたらムカつくかもしれないね~。
自分のことなのに、なんだか他人事のようにしゃべってたもの。
「そうなんです、言葉で煙幕をはってるのかな・・・確かに、他人事のように相手から引いてしまう・・・」
あら、それは何のため?
「う~ん、怒りを受けるのはイヤだから・・・」
そう・・、で、なんで怒りがイヤなんだろね? (・・・)
もしかして、ここからがあなたのカウンセリングの本題になるんじゃない?
最後の最後に「自分のことなのに他人事のよう」というKさんがコロリと出現。彼自身、「今回のカウンセリングの最大の発見」とこれからの課題を見つけたそうです。自分の課題を発見したなら、大収穫ですよ。「長いスパンで考えて」くださいね。
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猛暑、酷暑の異常な夏。最小限の仕事だけこなして、自宅でひたすら静かにおとなしく過ごした骨折&松葉づえ生活も1カ月が過ぎました。こんなにのんびりできたのも、ケガのおかげ。ギブスもとれたし、あと少しで自由になれそう。
一時的ですが、まさかの杖や車いすの世話になってみて、ふだん当たり前だったことができなくなって、ま、いっか~が増えました。気が長くなった気がします。自分の身体とのつきあい方、何もしない時間を味わういい機会になりました。