ツイッターの #私が父親を嫌いになった理由 が、ツラい。もう、肉体レベルでツライ。自分の記憶が掘り起こされもして、読んでてそのツラさに身をよじる。
嫌なことを無理矢理される、嫌だと言っても聞き入れて貰えない、相手に言葉が届かない、あの無力感。人前にその姿がさらされ、拒絶の声が大人たちの笑いによってかき消される、あの屈辱感を、わたしは今でも覚えている。
文献調査であちこちの図書館に通って、警察の機関誌を集中的に調べていた時のこと。機関誌は、警察版社内報とでもいえばいいだろうか。事件の概要や検挙に貢献した警察官のエピソード、各警察署や駐在所の紹介、職員たちによる趣味や旅行についての記事、誰が結婚したとか誰に子どもが生まれたといった情報が載っている。
職員が自分の子どもを紹介するページに目がとまった。子どもから父親へのメッセージ、父から子どもへの返信、という形をとり、そのやりとりのほほえましさをも含めて、読者に見てもらおうという趣向のようだった。そこで、見てしまったのだ。小学校低学年の女の子が、父親に対して、タメ口っぽいメッセージの後、「時々キスするのをやめてください」と書いているのを。小学校低学年の女の子が、「やめてください」と父親に丁寧語で書く。その前の、タメ口のような親しげな文体とのギャップに釘付けになった。それに応えて父親は、「キスはお嫁に行くまで続けるぞ」。何、これ……。
「分かったよ、やめるね」ではなく、「嫌だったんだね、ごめんね」でもなく、嫌だと言ってもやるぞ、という宣言。もっとも、当の父親の中では、娘は「やめてください」と書いてはいるものの、本人はそれを嫌がってはいない、ということになっているようだった。嫌がっていることが分かっているのだとしたら、娘に嫌がられている情けない姿を披露していることになるわけだし。かといって、家長として威厳のあるところを、嫌がる子どもに無理矢理唇を押しつける自分の日常を紹介することで、職員たちに知らしめたいのでもないだろうし。
「やめてください」という言葉が都合よく解釈され、その意味をはぎ取られている。まさに、No means Yes. 「やめてください」という「お願い」は、娘の恥じらいの表現にすぎないとでもいうようだ。
父親から幼い子ども(といっても、立派な小学生だ!)に対する「キス」は性加害にはあたらないとも思っていそうだ。もちろん、嫌がる子供に「キス」をするのは性虐待だ。自分が責任を問われるようなことを、それを取り締まるのが仕事の警察官が、同僚や上司に向けた機関誌に書くとは思えない。自分の行為が性加害だと思っていないから、あっけらかんと書けるのだ。
そして、たとえ、彼女が No means Yes. のつもりで「キスをするのをやめて下さい」と書いたのだとしても、「お嫁に行くまで続けるぞ」はないだろう。「お嫁に行くまで」ってどういうこと? 娘はあんたの所有物じゃない。
そもそも、親が娘のことを大事に思うのならば、嫌なことは嫌だと言えるように、自分の意思を相手に伝えることを、まず、教えるべきなんじゃないのか。
こんなことを書ける父親もおぞましいし、それが警察官だっていうのも絶望的。機関誌の編集・発行は警察本部で、掲載される原稿は何人もの幹部の決裁を通っている。これが掲載されたということは、幹部達がOKを出した、問題ないと判断したということで、でもって彼らも皆警察官だということで、何重にも絶望的。
これを読んだ職員達やその家族達は、「ほほえましい父娘」として読んだのだろうか。読めたのだろうか。たぶん、そう、読んだんだろう。そのことで、この父親の行為は容認される、加害/被害は隠される。そりゃあ、性犯罪被害を警察に届け出ようとしても、落ち度があるとか抵抗してないじゃないかとか言われるわけよ。自分たちがこんなふうに加害を容認しているのだから。
もっとも、わたしが見た機関誌は20年以上前に発行されたものだから、今はこのようなことはないのかもしれない。ないことを切に切に願う。
よく言うでしょう。女の子は、お父さんとお風呂に入ってくれなくなる時が来る。お父さんを疎ましく思う時が来る。お父さんの下着と一緒に自分の衣類を洗われたくないと言う時がくる。これ、全部、当の女の子の問題にされてるけど、父親を毛嫌いする娘の問題にされてるけど、果たしてそうなのだろうか。と、わたしは常々思ってきた。それなりのこと、お父さんたち、やってないか。原因は父親にあるんじゃないのか。
幼い頃体を触られた、いやだと言ってもやめてくれなかった、勝手にクローゼットの中を見られた、しまっていた下着を家族みんなの前で広げられた、ポルノを持っていた、母親に暴力を振るっていた、等々。その「意味」を理解したとき、猛烈な嫌悪感がわいてくる。そういうことじゃないのか。
娘の、女の問題じゃないから。それ、父親の問題だから。男の問題だから。あなた自身が招いたことだから。
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