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映画・ドラマに映る韓国女性のリアル (19) 男性作家によるフェミニズム小説原作、映画『韓国が嫌いで』

成川彩2024.11.12

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男性作家によるフェミニズム小説が、男性監督によって映画化された。昨年の釜山国際映画祭開幕作として上映され、今年8月に韓国で公開されたチャン・ゴンジェ監督の『韓国が嫌いで』だ。原作はチャン・ガンミョンの小説で、日本でも翻訳出版されている。

映画の冒頭、主人公の20代後半の女性ケナ(コ・アソン)は、恋人や家族に見送られてニュージーランドへ飛び立つ。旅行でなく移民だ。理由は韓国が嫌いで。韓国での人生に疲れたのだ。

特別貧乏なわけでもなく、安定した仕事に就いていて、大学時代から長く付き合っている恋人もいて、家族との仲もいい方だ。何が不満かと思われるかもしれない。だけどケナ本人は耐えてきた。早朝の出勤、職場での男性上司の言動、恋人の両親のケナを馬鹿にした態度。ここまでは日本でベストセラーになったチョ・ナムジュのフェミニズム小説『82年生まれ、キム・ジヨン』と通じるところがある。違うのは、ジヨンは耐えて耐えて精神のバランスを崩してしまうが、ケナはそうなる前に韓国を離れる選択をしたという点だ。



韓国を離れたいと言うケナに、恋人は韓国の一人当たりのGDPは世界的に見ても上位だと言って説得しようとするが、ケナは言う。「じゃあなんでOECD加盟国で自殺率が1番高いの? 私は人間らしく生きたい」。もっともだ。「人間らしく生きたい」は、私が新聞記者時代、母に言った言葉だ。東京で一人暮らしの私の家に来た母が、ほぼ空っぽの冷蔵庫を見てため息をついた時、「私も人間らしく生きたい」と、つい言ってしまった。それ以来、母は私が新聞社を辞めることを止めなくなった。この映画を見て、自分に重ねる人は日本でも多いと思う。

もちろんニュージーランドに行けば天国というわけでもない。アジア系に対する差別的な態度にも遭遇する。韓国で会社勤めをしていたケナは、ニュージーランドでは英語を十分に話せず、飲食店でアルバイトからスタートする。ニュージーランドでの新たな生活が展開する中で、過去の韓国での生活が回想シーンとして登場する。ケナが韓国が嫌いな理由はいろいろあるが、一つは寒いこと。暖かいニュージーランドで過ごすケナは、それだけで韓国にいた時よりも伸び伸び生きているように見えた。一方、ケナの周りにはニュージーランドに適応できず、韓国に戻りたがる人もいる。どこがいい悪いでなく、人それぞれ合う場所、合わない場所があるのだ。



原作小説が韓国で発売されたの2015年。「ヘル朝鮮」「脱朝鮮」という言葉が流行った頃だ。ヘルは地獄のHell。若者にとって生きづらい韓国、脱出したい韓国という意味で使われる。背景には熾烈な受験戦争や就職難がある。やっと就職しても、ソウルの地価が高騰し、生活は苦しいまま。原作発売から10年近く経っても、あまり状況は変わっていないようだ。

原作者のチャン・ガンミョンさんは「小説を書いた当時、韓国社会の問題と考えていた一つは、未来がとても不安な点。今一生懸命働けば10年後、20年後に豊かな暮らしが待っていると思えたら子どもを産むことも考えるが、そうではない」と語っていた。韓国の合計特殊出生率が2023年、0.72まで落ち込んだ背景だ。

チャン・ゴンジェ監督は奈良県五條市を舞台にした日韓合作映画『ひと夏のファンタジア』(2014)で日本でも知られている。小説『韓国が嫌いで』の映画化に関して「個人の物語を通して、韓国社会が見えると思った」と話す。海外へ移住した人や、移住しようと準備している人たちに実際取材し、韓国が嫌いというよりも、人生の別の選択肢を探ろうと移住する人が多いと感じたという。

日本であれ、韓国であれ、ニュージーランドであれ、どこへ行っても一長一短。だけども合わない場所で我慢して生きるよりも、より自分らしく生きられる場所を探してみてもいい。今いる場所がすべてじゃない。ケナの物語は、新聞記者を辞めて韓国へ移住した私自身の話のようにも感じた。ちなみにチャン・ガンミョンさんも新聞記者出身の小説家だ。

写真提供©NKコンテンツ

 

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成川彩

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。2017年から韓国に渡り、ソウルの東国大学大学院で韓国映画について学びつつ、フリーのライターとして共同通信、中央日報など日韓の様々なメディアに執筆。2020年からKBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」で韓国の本と映画を紹介している。2020年、韓国でエッセイ『どこにいても、私は私らしく(어디에 있든 나는 나답게)』出版。

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