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田中美津さんのブログ『ネズミとも対話のできるネコになりたい』

北原みのり2024.09.10

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先月亡くなった田中美津さんのブログを見つけた。
ずいぶん更新していないので、存在を知らなかった。もしかしたら知っていたかもしれないけれど、忘れていた。

最後に更新されたコラムは2016年、「ネズミとも、対話のできるネコになりたい」。
美津さんの凜とした美しい声を思い出しながら読んだ。

コラムには、美津さんが参加した平和集会の場で、哲学者の長谷川三千子さん(自他共に認める安倍さんの応援団でした)が発言したことに触れている。実は私もたまたまそこにいて、この時のことを拙著『奥様は愛国』文庫版のあとがきに、こう記している。

2014年1月のことだ。「戦争反対!女性大集合」という集会が参議院で開かれ私も参加した。福島みずほさんが呼びかけ、フェミニストたちが集まったのだ。戦争できる国へ向けて法律が整っていく危機感、深まる貧困、野放しのヘイトスピーチ、特定秘密保護法案など、安倍政権に抵抗する女性たちが次々にマイクを持った。
まさにその最中だった。「安倍首相の応援団です~」と立ち上がった女性がいた。長谷川三千子さんだった。文字通り安倍さんを支持し、その復活に力を貸したといわれる言論人だ。会場はどよめき、 “あの”長谷川三千子が何故ここに?と一斉に彼女を注視し会場は静まりかえった。長谷川さんはそんな反応を楽しむように静かに微笑み、ゆっくりとこんな風に切り出したのだ。
「(女性でつながるというのなら)史上最大の空母をつくると誇らかに宣言しているかの国(←中国のこと)の女性たちとも手を結び、それぞれの国の政府に平和を訴えることで、『女性大集合』の力は増すでしょう」
参議院の地下の大会場、200人近くのフェミニストが集まっている場で、女どうしで繋がるというのなら、別の国の女たちともおつながりになったらいかが? という挑発を、笑いながら放ったのだった。(『奥様は愛国』文庫版 北原みのり)

こう記しながら、今もあの時の長谷川三千子さんの声色と、ざわつく会場の緊迫感を鮮明に思い出す。私はあまりのことに虚を突かれながらも、「リアル長谷川三千子だ!」とミーハーなワクワクをどこかに感じながらも黙っていたのだが、なかには長谷川さんの発言に反発し苛立ちの声をあげる人もいた。美津さんはその中でこんな発言をした。


「たとえ彼女が敵だとしても、1人でやってきて、黙って聞くだけ聞いて帰ればいいのに、わざわざ名乗って反論を展開するなんて、敵ながらアッパレじゃないですか。アッパレの人には、アッパレに対応しませんか」(「ネズミとも、対話のできるネコになりたい」)

実際には美津さんがあの時に仰ったのは、少し美津さんの記憶とは違っている。(当時の記録を文字起こしした)

「ここでわざわざ安倍さんの応援団なんてこの人言わなくたっていいのよ。反感買うに決まってるじゃない。でも、そういう自分の立ち場を明かにした上で、反戦は大事なんだって言う。(略)ぜひこういう人には、適正な距離をもってつながっていきたいなって、私なんか、逆に思う。(略)正しさばかり溢れている集会はこれ以上、伸びないよ。(略)あら面白いじゃん、ということがないと、集まっている意味ないじゃん!」

 そして美津さんは、コラムの中で、なぜそんな発言をしたかについてを、こんな風に書いている。

論に対して論を戦わせることなしに、「依って立つところの違い」をもって断罪していくというのは、一番やってはいけないことだ。黙っていたら私もそういう側の人間だと思われてしまうぞ。それが厭さに私は発言を求めた。(「ネズミとも、対話のできるネコになりたい」)

美津さん、やっぱり私は美津さんが好きだ。
200人ものフェミニストが集うなかで「安倍首相の応援団です~」と笑う長谷川三千子さんを、私は「なめてるな〜」と呆れたものだけど、そんなフツーの人間の感覚を遙かに超え、「アッパレにはアッパレで」とスッと平常心の声で立ち上がる美津さんの瞬間瞬間を生き抜く覚悟というものは、それはそれはアッパレなのだった。記憶の言葉と実際の発言の言葉とは違うけど、それでも、美津さんは、あの時、長谷川さんを「認めた」のだった。そして美津さんの発言によって、場は急に明るく一体感を伴ったような力と輝きを持ったのだ。みんなが自分の言葉で語り出したくなるような勢いが生まれたのだ。

ネズミとも対話のできるネコになりたい。
ネズミとも対話のできるネコでありたい。
私はネズミかもしれないけれど。

美津さんには到底及ばないけれど、それでも、私もアッパレな女を目指したいと思う。自分の言葉を手放さない、自分を手放さない女でいたい。拠って立つところの違いをもって断罪しちゃぁ、おしまいよ、そんなアッパレな感覚を握りしめながら。

でも、なんだかそういう感覚を自ら捨てに行ってるフェミニスト、なんだか少し増えてないですか? ちょっと怖くないですか? 空気を読まない女であること自嘲気味に主張しながら、誰かが決めた正しさの基準にはびくびくと怯えながらも空気を読みまくる。一方で、正しさの方向が違う女のことは徹底的に潰しにかかる。それも男たちと一緒にね。そんな感じが怖いんだよね、美津さん、なんてことを話そうと思っていた矢先の死でした。やっぱり寂しい。

美津さんを追いかけた吉峯美和監督作品「この星は、私の星じゃない」が上映されます。上映後のトークに出ることになりました。9月29日渋谷のユーロスペースです。美津さんへの手紙を書いていこうと思います。一緒に映画を観て、一緒に美津さんのこと思い出しましょう。ユーロスペースで会いましょう〜。
そして映画には、なんと長谷川三千子さんが「制作支援者」として名前を連ねていました。そんな風に、美津さんは、「私は私で私の言葉で考え語る」と立ち上がる女を、きちんと尊敬し、関係を築いていた。それが美津さんの強さだった。

映画情報はコチラ

http://www.eurospace.co.jp/works/detail.php?w_id=000801

美津さんのブログはコチラ

http://nazeabeseiken.blog.fc2.com


<追記>

美津さんのブログでは「あの集会」がこんな風に記されている。

「あなたのような人がよくここに来られたもんだ、出て行きなさい」
という感情的な反論がまずなされて、その後場内はシーンと静まり返って、なにやらマスヒステリー的な空気が濃くなっていくような・・・・・・。これはまずいぞ、と私は思った。
論に対して論を戦わせることなしに、「依って立つところの違い」をもって断罪していくというのは、一番やってはいけないことだ。
黙っていたら私もそういう側の人間だと思われてしまうぞ。それが厭さに私は発言を求めた。((「ネズミとも、対話のできるネコになりたい」)

実際には、長谷川三千子さんは2回発言している。一回目の発言で「安倍応援団の長谷川三千子です」と挑発的な挨拶をしたことに対して、会場から「NHK経営委員会のあなたが、自ら総理の応援団と言うのは問題がある」というまともな反論があったのだ。それに対して長谷川さんは再びマイクを握り、「私は俗受けを狙う悪いクセがありまして。みなさんがあんまりアベはけしからん、と言うのでついつい安倍応援団だと自称してしまう・・・」というような話をされた直後に、ほとんど間を置かず「あのさぁー」と美津さんは語り出したのだ。
美津さんの記憶のなかでは沈黙とマスヒステリーな時間があったと記されているが、実際には長谷川さんの発言中に嘲笑したり、苛立ちの声をあげる人はいたけれど「あなたのような人がよくここに来られたもんだ、出て行きなさい」というような発言は公にはなかった。そもそも、美津さんはほぼ間を置かず、むしろ長谷川さんの声に被せるような勢いで発言を始めている。でもそれは、美津さんのなかにある、そういったモノへの強烈な警戒心が嗅ぎ取った鋭い嗅覚故なのだろう。大げさではあるけれど、それは美津さんの真実だったのだと思う。

*田中美津さんの写真は松本路子さん撮影

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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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