ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

banner_2212biird

映画・ドラマに映る韓国女性のリアル (17) 韓国の美しい景観、実は一人の女性の「作品」だった ドキュメンタリー『地に書く詩』

成川彩2024.07.29

Loading...

景観を造る「造景家」、チョン・ヨンソンさんを描いたドキュメンタリー映画『地に書く詩(原題)』(チョン・ダウン監督)が韓国で話題だ。1941年生まれの女性で、半世紀にわたって韓国の美しい風景を造ってきた。80代の今も第一線で活躍するチョンさんは「造景は地に書く一編の詩になり得る」と語る。

「造景家」という言葉自体、一般にはあまり知られていなかったが、2023年、チョンさんが韓国人として初めて造景界最高の名誉賞とされる世界造景家協会の「ジェフリー・ジェリコー賞」を受賞したことが、注目を集めるきっかけとなった。

 
チョンさんはいち早く「持続可能性」を意識し、生態系を守りつつ、公園や樹木園など公共のプロジェクトや民間の庭園やリゾートの造景に携わってきた。映画ではチョンさんの「作品」が紹介されると共にそこに込めた想いを本人が語っている。生態系を守ろうとするチョンさんは、国土開発を進める行政と意見が対立することも多かった。詩が好きなチョンさんは、詩を引用しながら相手を説得したこともある。

人と景観の関係を大切にして都市をデザインするチョンさんの代表作の一つは、ソウルの真ん中を流れる漢江(ハンガン)の仙遊島(ソニュド)公園。かつて浄水場だった所をリニューアルし、2002年に公園としてオープンした。浄水場の土台や柱などをうまく利用しつつ、緑あふれる独特の風景を造り出し、ミュージック・ビデオやドラマの撮影にもよく使われる。

仙遊島公園

汝矣島(ヨイド)セッカン生態公園、京春(キョンチュン)線森の道など、都心の憩いの場となっている多くのスポットが、チョンさんの「作品」だったことを知って驚いた。チョンさんがいなければ、もっと人工的な場所に変わっていたかもしれない。

京春線森の道 

チョンさんはソウル大学環境計画研究所の第一号大学院生として、70年代から造景のプロジェクトに参加し、87年には造景設計会社「ソアン」を設立。設計のみならず、現場で細部までこだわって指揮を執る姿が映画に登場する。時に妥協を許さない厳しい顔も見せる。

一方、自宅の庭で見せる顔は柔らかい。韓国に自生する植物の宝庫となっていて、毎日丁寧に手入れしながら、草花に家族のように語りかける。



チョンさんの優しさを感じたもう一つは、ソウルアサン病院だ。病院の敷地に森のような場所があり、所々にベンチがある。患者や家族、医療陣にとっての癒しの場になっている。チョンさんの夫が闘病生活を送っている間、病室から葬儀場が見えるのが辛かったと言う。韓国は病院に葬儀場が併設されている。この経験から、ソウルアサン病院の造景を担当することになり、緑あふれる庭を造った。病室の窓から、あるいは外に出て、木々の生命力を感じてほしいというチョンさんの心遣いだ。

国立現代美術館の展示

『地に書く詩』の劇場公開が始まった4月から、国立現代美術館ソウルでは「チョン・ヨンソン:この地に息づくすべてのもののために」という展示が開かれている。チョンさんの造景にまつわる設計図や模型、写真、映像などの記録資料が見られる。済州島の「オソルロック・ティー・ミュージアム」をはじめ、チョンさんが造景を担当した庭園はソウルのみならず韓国各地にある。

私は韓国に暮らして9年になるが、映画と展示を通し、韓国にこんなにも美しい風景があったのかという発見があり、実際に訪れようとリストアップしたほどだ。まずはこの夏、大邱の樹木園「思惟園(サユウォン)」に行くつもりだ。今年の大ヒットドラマ「涙の女王」のロケ地にもなっていた。

展示は9月22日まで。『地に書く詩』は日本でも来年公開の見込み。

写真提供 ©sumomo.inc 

Loading...
成川彩

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。2017年から韓国に渡り、ソウルの東国大学大学院で韓国映画について学びつつ、フリーのライターとして共同通信、中央日報など日韓の様々なメディアに執筆。2020年からKBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」で韓国の本と映画を紹介している。2020年、韓国でエッセイ『どこにいても、私は私らしく(어디에 있든 나는 나답게)』出版。

RANKING人気コラム

  • OLIVE
  • LOVE PIECE CLUB WOMENʼS SEX TOY STORE
  • femistation
  • bababoshi

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOPへ