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TALK ABOUT THIS WORLD フランス編 フランスはどこへ行くのか

中島さおり2024.07.02

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フランスでは今、史上初の極右政権が生まれようとしている。6月30日、日本の衆議院選挙にあたる国民議会選挙の第一回投票で、極右政党RN(国民連合)は、選挙協力した共和党右派と合わせて32%の得票をした。577議席を争うこの戦いで、RNはすでに36議席を確保し、7月7日の第二回投票に383人の候補が残っている。(第一回投票で50%以上の票を得た候補がいるとその選挙区の当選者となり、50%を超えた候補がいないと、得票率によって上位2名、あるいは3名で決選投票が行われる。)

「フランス人優先」という極右政党が掲げる党是は、人種主義、排外主義、差別主義に根ざしており、共和国の価値観と相容れない。極右が年々、勢いを増しているのは知っていても、このフランスで、まさか政権を取る日が現実に来ようとは、私はつい最近まで考えもしなかった。しかし、気がつけばもう秒読み段階に入っていた。

かつてRNの前身、国民戦線は、際物扱いされた弱小政党だった。創設者ジャン=マリ・ルペンは数々の人種差別的な失言で人々の顰蹙を買っていた。が、父の党を引き継いだマリーヌ・ルペンは、党の印象をソフトに変えることに成功した。そして今、弱冠28歳のジョルダン・バルデラという弁の立つリーダーを得て、RNは大躍進した。Brexitの失敗から、EU離脱のような主張も控えるようになった。つい最近、憲法に書き加えられたほど妊娠中絶の権利が広く女性の権利として認められいるフランスで、極右といえども、もう「中絶反対」を口にすることはない。「普通の党」になった極右政党に政権を任せてみても良いと、人々は思うようになった。

物価高に悩む人々に、付加価値税(消費税にあたる)減税など購買力強化を訴える政策は訴える。ウクライナ戦争にも一歩引いた姿勢が好ましく映る。社会党も共和党もマクロンの新党もみんな試してみたが、一つも良くなかったと思う庶民は、一度、極右に政権を担当させてみたらどうかと思う。

極右の本質は変わっていない。国籍の出生地主義を見直して、フランス国籍取得を制限しようとする。「フランス人」でも出まれながらの「フランス人」と「帰化した重国籍者」の間に区別を設け、重国籍者に対し職業差別を導入しようとする。職業においても、住居においても、社会保障においても「外国人」を不利な立場に置き、不遇な環境から犯罪に走れば、監獄と国外追放が待っている国にする。学業不振の子どもは中学に入る前に職業コースへ振り分け、差別を促進させる…。でも、身近に移民や外国人がいなければ、そのような不正への怒りも感じないかもしれない。自分の身に害が及ばなければ、他のことを優先するかもしれない。人々はRNの甘言に惹かれ、醜い面には目を瞑るようになった。そうして、RNはマクロン政治への不満を糧にして怪物化した。

そもそもどうして突然、総選挙が実施されることになったか。それは6月9日の欧州議会選挙で、極右政党RN(国民連合)が31.37%もの票を得て30議席を占め、かたやマクロンを支える与党の得票が14.6%で、RNの半分にも満たなかったことがきっかけだ。頭に来たマクロンが、「国民の審判を問う」と言って国民議会を解散してしまったのだ。

誰もが唖然とした。マクロン政権への制裁がはっきりと表れたのは確かだが、だからと言って欧州議会の結果を国民議会に転化し解散総選挙をしなければならないという規定は全くないからだ。第一、ここまで支持が落ちている時に解散したら、RNに政権をくれてやることにしかならない。

それはマクロンの大博打だった。今となっては間違いだったことを現実が証明しているが、極右政権実現阻止という大義のため、保守も左翼も一丸となって大統領率いる与党を支持し、それを背景に与党の求心力を取り戻すつもりだったようだ。

欧州議会選は1回限りの比例代表制だが、国民議会選挙は小選挙区の2回投票制だ。決選投票では第1回投票で敗れた候補の票が決選投票の候補に流れる。1回目の投票で首位であっても議席にはつながらないことも多い。大統領選の時のマクロンがそうだったように、決選投票で積極的支持でない票を大量に獲得して当選することができる。

マクロンが国会解散を考えた時、左翼はズタズタに分裂していた。2022年の大統領選挙後の総選挙でNupesという連合を組むことに成功した左翼は、一旦それぞれ議席を占めてしまうと分裂して対立するようになり、その後は絶えず互いに非難し合い、欧州選挙でも統一リストを出すことができなかった。保守の方も、かつてシラクやサルコジが率いていた共和党は往年の影もなく、単独では力がない。極右を前にすれば、すべての勢力が与党につくだろう…。

ところがこれは計算違いだった。分裂していた左翼勢力が、一夜のうちに統一戦線を組む合意をしてしまったのだ。欧州議会選挙では13. 83%と、ほぼ与党と並んだ社会党、前回の国民議会選挙でNupesをリードしたLFI(不服従のフランス)そしてエコロジー党と共産党は、極右政権誕生の危機を前に、今までの因縁を捨てて結束した。マクロン大統領が当てにしていたに違いない中道左派の社会党が、「極左」と言われて何かと排除の対象になっていたLFIと手を結んだのだ。

マクロンやその側近は、自政権が国会を無視して成立させた年金改革や、極右の主張を盛り込んで成立させた改正移民法などの後で、社会党が、マクロン政治への批判票を集める方を選択することを予想できなかったのだろうか。しかも左翼の連合は、1930年代に史上初の左翼政権を実現した「人民戦線」に倣って「新人民戦線」(NFP)を名乗り、たちまちのうちに明確な選挙公約を策定して公表した。極右政権の実現を阻止するための拠り所というポジションは、マクロンの党ではなくNFPのものになった。

右派は右派で、マクロンが当てにしていた伝統保守政党の生き残りである共和党(LR)は、あろうことか、そのトップがたちまちRNと選挙協定を結んでしまった。流石にこれにはついていけなかった分子が残って共和党は分裂したが、右派もまた、マクロンの思い通りにはならなかったわけだ。

こうして、あっという間に、大統領の思惑とは違う総選挙の布陣ができてしまった。そしてマクロン派は、極右と極左を両極端として同等に断罪するキャンペーンを繰り広げた。つまりLFIを敵視し、新人民戦線とともに極右と戦うという姿勢を見せなかった。メディアもメランションの率いるLFIを「極左」として散々叩いた。しかし全体の中で最左翼にいるという意味では極左であっても、憲法に反し、反共和主義的であるという意味での極左という概念に、LFIは当てはまらない。共和国のルールに違反することもなく資本主義国の仕組みを変えようという意図もないからだ。コンセイユ・デタ(国務院、政府の法的な諮問機関)がそのように答申している。LFIが極左に見えるのは、フランス全体が右傾化してしまったからにすぎない。現在、LFIとメランションには「反ユダヤ主義」のレッテルが貼られて差別主義者のように言われているが、これも言いがかりである。イスラエル・ガザ戦争(フランスではイスラエル・ハマス紛争と言う)が始まって以来、パレスチナの擁護をすると「反ユダヤ主義」という短絡したレッテルが貼られるようになってしまった。イスラエルを批判することは、ユダヤ人を差別することとは違うのだが、故意にか、なぜか、混同されている。

そんな選挙戦が終わり、第一回投票の結果が出た。左翼のNFPが28.1%を獲得し、マクロンの与党は20%と大きく水を開けられた。NFPを構成する各党は、選挙結果が出るとすぐ、第二回投票で極右政権を阻止するための共闘を中道、保守政党に呼びかけた。具体的には、決選投票に立候補する権利が上位3人に与えられた場合、RN候補が1位でNFPが3位であれば、NFPの候補は立候補を取り下げると発表したのだ。NFPは、マクロンの党や共和党が同じ態度を示すことを期待した。

しかし時代はすでに、極右反対で他の全てが共闘できる「共和国戦線」の時代ではなくなってしまったようだ。マクロンと現在首相を務めるアタルは、RNを当選させないため3位候補を取り下げるように自党に呼びかけたけれども、LFIの候補に関しては候補ごとに考えるとしている。かたや共和党は何も呼びかけていない。

7月7日、フランスはどのような選択をするのだろうか。RNが絶対多数を取って、政権の座につくか、「共和国戦線」がある程度効を奏して絶対多数は阻むことができるか。しかし、いずれにしても、国民議会の第一勢力が極右になってしまったという、信じられない事実は、もう変えようがない。

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中島さおり

中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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