YURIさんのフェミカンルーム83 どうする!?離婚後共同親権制度のこれから
2024.06.24
先月5月、「離婚後共同親権」の改正民法が国会で可決、成立しました。
現在の親権は、婚姻中は「共同親権」離婚後は「単独親権」です。婚姻中の父母に認められている「共同親権」が離婚後も可能となる、それは共同できない相手と離れて自由の身になった人にとって、もっとも怖れていたことです。
4月の「共同親権を正しく知ってもらいたい弁護士の会」による院内集会では「非合意強制型共同親権問題」として、「合意をすることすら合意できない父母に、親権の共同行使を義務づけて子どものためになるのか」と問題提起されました。法改正の根幹に関わるものなのに明確になっていません。
現行法では、非合意の場合に強制されることはほとんどないのです。
そのほか「『急迫の事情』文言が誤解を招く問題」など、17項目が提起されています。
以前から、DVや虐待の支援をしている団体や女性相談の現場で、また支援に奔走する弁護士は、共同親権法案が通ったらこれまでやれていたことがどんな影響を受けるのか、支援にどんな支障がおきるのか、そんな危惧を抱いて反対していました。
その危惧は現実に脅威となって現れるかもしれないのです。
これまでの被害者支援が委縮しないか、閉塞した状況に陥らないかと心配です。
法制審議会の採決は全会一致とならず、反対署名は23万筆を越えました。
国会の審議中、国会前では緊急集会が開かれ全国から駆けつけた人たちがスタンディングして法案への抗議の声をあげました。
その様子はSNSで拡散されましたが、メディアの報道はほぼありません。日本では、こういうことがよくありますね。
「別れても子どものことは協力するもの」と言われたら、確かに、一見して子どものためにはいいことのように見えるかもしれません。
もちろん別れても協力している人たちはいるし、それができる関係なら問題ありません。
でもね、協力が難しい人たちに、相手への信頼が失われた関係で別れる人たちに、あるいはやっと離れてケリをつけることができた元夫婦にとって、それたやすいことでしょうか。それが「非合意強制型共同親権」なのです。
共同親権となった場合は、これまで単独親権だからできていたことが、共同でないと違法とされ損害賠償の対象となる制度です。日常生活で、子どもの学校生活にいたるこまごましたことは限りなく起こります。予測のつかないこともありありです。それらについて、どこまで別れた相手(別居親)の了解をえなければいけないのか、国会でも審議に上がりましたが、あいまいでうやむやな答弁に終始して、法案の具体的な中身と運用にはますます疑問が膨れ上がります。今後、ガイドラインを作るようです。
法律が、こんなに漠然としたまま、周知もされないままで、拙速な採決を強行、可決したのが事実です。
いったい、なんでこれほど急いで決めたかったのか。モヤつきます。しかも、メディアは、法案が可決してからやっと腰を上げて報道するありさま。
さすが報道の自由度ランキング70位の姿がこれか、と腹だたしい。
法案は通った以上、今さらですが取り返しがつきません。誰のせいでもないけど、押しとどめるだけの力が足りなかったとも言えます。
誰がなんのためにそれを望むのかを考えると、離婚後も相手を困らせたがる人たちはいるし、なんでもやる人たちっているから。そこが怖い。
薄気味悪い不気味なベールにまとわりつかれたようで、気分が晴れません。77年ぶりの法改正は、2年後施行されます。
以前傍聴したDV離婚裁判を思い出します。
被告Aさんは、夫からのモラハラに耐えかねて子どもが幼少の頃に家を出て、最高裁まで争ってようやく離婚。別居後は裁判所の命令にしたがって面会交流もやってきたけど、数年たって子どもが会いたくないと言うようになり、面会交流をSTOPして家庭裁判所で決めなおす申し立てをしたら、元夫側からAさんに対して地方裁判所で損害賠償請求訴訟が起こされたというものでした。
受任した弁護士が原告夫から攻撃されたり、何度も懲戒請求を受けて辞任したこと、その後引きついだ弁護士も、何度も懲戒請求を受けていることが語られていました。
Aさんに対しては黙って家を出たことや、何年も続いた面会交流のうち、約束通り面会できなかった月があるとかで、びっくりする金額の損害賠償請求がされていました。
黙って家を出たことも、面会できなかったことも、Aさんの話を聴く限りそれぞれ事情があり、こんなことで裁判になるなんて、とても難しい相手との事件だと思いました。
その日傍聴席には、原告夫を応援に来たとみられる男性たちが陣取っていて、なんだか異様な雰囲気。
やられた。動員かけたな。席がないのがわかって残念そうに出ていく人が何人かいて、被告の関係者かなと気の毒だった。
私は数少ない応援団だったけど、傍聴席からAさんを応援していました。
思い出されるのは、なんていうか、皮膚にじわじわまとわりつくような気味悪さが漂っていたこと。
原告は、もしAさんが前にいたら簡単に押し倒せそうだなと思えるガタイ。私には実際以上に大きく見えたのかもしれないけど。
原告席でわざと堂々と見せてるふうに感じられ、それ傍聴に来た応援おっさんたちにみせるためかよと思えるものでした。
小柄で華奢なAさんが逃げた勇気を尊敬する。相手と決別するため、子どもを守るために戦いを諦めなかったAさんを尊敬する。
絶対に勝たないといけない裁判だった。そして、裁判は勝った!Aさんは負けなかった!
その後、DV事件に詳しい弁護士にじっくりインタビューする機会がありました。
「海外には“リーガル・アビューズ”という被害者問題がある。リーガル・アビューズとは司法手続きを使ったアビューズ。そのためにオーストラリアは(共同親権の)法律をシンプルな形に変えたという。
さらにDVを“ドメスティック・アビューズ”に変えた。バイオレンスではなく虐待の関係性ととらえている。しかもDVのDもとって“ポスト・セパレーション・アビューズ”。
DVは離婚や別居で終わらない。離婚後もアビューズがずっと続きうる問題だと。
養育費不払いは“ポスト・セパレーション・エコノミック・アビューズ”。養育費不払いは暴力であるというのが海外のとらえ方」と教えてもらった。Aさんの事件は「リーガル・アビューズ」だったんですね。
日本で#MeTooの時代を動かした私たちの声は小さくない。私たちの声と行動が、社会や法律を変えてきたのは確かです。
昨年、性犯罪刑法が改正され「不同意性交罪」が成立し、家庭内で起きる問題がフォーカスされ、夫婦間であってもレイプになること、DVや虐待の関係性があれば意に反するものになると、意志に反するものが明確化された規定になりました。
「DV防止法」改正、「困難女性支援法」が成立して、6月には性犯罪歴を確認する「日本版DBS」法が成立したばかりです。
希望をもっていただけに、共同親権制度は「加害者側の声が通った最悪の法改正」という弁護士の声もあるだけに、残念です。
かといって、このまま弱音を吐いてへこんでるわけにはいきません。私たちが今まで積み上げてきたものを信じたい。内閣府もその流れにあります。
それは簡単に壊れない。壊させちゃいけない。
支援が後退しないよう、同意のない共同親権が強制されることのないよう、法律が正しく周知運用されるよう目を光らせていかねば、臆すことなく委縮せず、と心新たにしております。