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映画・ドラマに映る韓国女性のリアル (16) 戦う海女さん 映画「密輸 1970」

成川彩2024.06.20

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海女といえば、海に潜って魚介類を採る女性たちだが、映画「密輸 1970」(リュ・スンワン監督)に出てくる海女たちは海に沈められた密輸品を回収する。一見のどかな港町で、密輸による収益をめぐって全国区の密輸王や地元のチンピラ、税関職員と、海女たちの戦いが繰り広げられる。

時代背景は1970年代、港町クンチョンが舞台だ。クンチョンは架空の地名だが、群山(グンサン)がモデルとなっているようだ。そもそもこの映画の企画は、群山のとある博物館にあった史料がきっかけとなっている。70年代に群山で密輸が横行していて、海女たちがそこに加担していたという史料だ。そこから想像を膨らませてできたのが「密輸 1970」だ。

主演はいずれも海女役のヨム・ジョンアとキム・ヘス。ヨム・ジョンアがリーダーのジンスク、キム・ヘスがジンスクの親友チュンジャを演じた。海女たちはもともと魚介類を採って生計を立てていたが、海が工場排水で汚染され、魚介類が売り物にならなくなる。そこへ入ってきた密輸の話。密輸品を船上でやりとりすると目立つので、いったん海に沈めて、海女が回収するという方法だ。密輸に携わるうちに、地味だった海女たちも羽振りが良くなり、服装も派手になっていく。

ところが、密輸品の中に金塊まで紛れ込み、だんだんリスクが高まってきた矢先、税関の取り締まりで船員や海女たちが捕まってしまう。この時、一人現場から逃げ切ったのが、チュンジャだった。これがきっかけでジンスクとチュンジャの友情に亀裂が走る。

数年後、ソウルで暗躍していたチュンジャが密輸王クォン(チョ・インソン)と共に再びクンチョンにやってくる。新たな密輸を持ちかけるためだ。ところが、かつてジンスクとチュンジャの弟分だったチャンドリ(パク・ジョンミン)が、いつの間にやらクンチョンの密輸を牛耳っている。ちなみにチャンドリはあだ名で、「金づち」という意味だ。

映画のクライマックスは、終盤の水中アクション。酸素ボンベを背負って武器を手に追いかけるせこいチンピラどもを相手に、海女たちはチームプレイで戦う。普段から海女の仕事はチームプレイが重要だ。海は常に危険と隣り合わせだからだ。特にジンスクはリーダーとして海女たちを守ることが最優先という責任感の塊のようなキャラクターだ。

喫茶店のマダム、オップン(コ・ミンシ)の活躍も光った。色仕掛けでチャンドリや税関職員から情報を聞き出したり、偽の情報をつかませたりして、海女たちを助ける。コ・ミンシは主演の2人に引けを取らない名演で、青龍映画賞新人女優賞を受賞した。「密輸 1970」はシスターフッドを描いた映画とも言える。

ところで韓国で「海女」といえば、よく知られているのは済州(チェジュ)島だ。近年はドラマ「私たちのブルース」(2022)や「サムダルリへようこそ」(2023)でも済州の海女たちが登場した。済州島に行くと、「海女の家」という名前の食堂が海沿いにたくさんあって、海女が採ってきた海産物の料理、例えばアワビ粥などが食べられる。

済州島は「三多島」とも呼ばれ、風、石、女の三つが多いとされる。女性が多い理由としては、男性は船で漁に出て遭難事故で亡くなることが多かったというが、それは昔の話で、やはり海女の存在感が大きい。もちろん済州の女性の中で海女はごく一部だが、女性がたくましいイメージはある。

済州島が舞台ではないが、たくましい海女たちのアクション映画「密輸 1970」は韓国では昨夏公開され、500万人を超える観客を動員した。
日本では7月12日公開予定。



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成川彩

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。2017年から韓国に渡り、ソウルの東国大学大学院で韓国映画について学びつつ、フリーのライターとして共同通信、中央日報など日韓の様々なメディアに執筆。2020年からKBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」で韓国の本と映画を紹介している。2020年、韓国でエッセイ『どこにいても、私は私らしく(어디에 있든 나는 나답게)』出版。

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