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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 幼稚園のお昼ごはん

中沢あき2024.06.18

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毎週月曜日、我が子が通う保育園の廊下の掲示板に「1週間のランチメニュー」が貼り出される。日本で言うなら、給食の献立表である。
荒い手書きでちょっと読みにくいのだけど、だいたいが同じメニューの繰り返しなので、数年経った今は、出てくるメニューはほぼ覚えた。
この市立の保育園は学校機関や企業などのケータリングを手掛ける会社に委託していて、週に一度、ほぼ調理済みの食品が大型トラックで配送されてくる。あとは園内のキッチンで調理師さんがその日のメニューを解凍し、スナックとして出されるリンゴなどの果物や野菜スティックなどはその日の配膳分がそこで用意される、というシステムだ。

その1週間の献立にはルーティーンやルールがある。
まず、月曜日はパスタの日、火曜日は肉の日、水曜日はスープとデザートの日、木曜日は卵の日、金曜日は魚の日という基本に沿ったメニュー展開なのだが、例えば月曜日は「スパゲッティにトマトソース、野菜スティック」や「チーズのラビオリ」。
火曜日は「牛肉のシチュー、じゃがいも添え」や子どもたちの大好きな「カレーソーセージとフライドポテトにきゅうりのサラダ」。
水曜日は「ブロッコリーのスープとパン、ゼリーやアイス」。
木曜日の卵はどうなるのかというと「パンケーキのジャム添え」「お米を牛乳で甘く煮たプディング、いちごジャム添え」。
金曜日はフライやソテーなどの数種類の調理法があるけれども使う魚は一貫して、スケトウダラ。安いからね。
ちなみに肉のメニューに豚肉が入ることはない。宗教上の理由で食べられない子どもたちがいるからだ。なのでソーセージは鶏肉のものだし、たまに牛肉が出るという感じ。加えて最近の菜食ブームで、ミートソースには大豆ミートが使われたりすることもある。

パンケーキや甘いライスプディングなんてデザートやおやつの類だろ?
カレーソーセージとフライドポテトはジャンクフードの類ではなかったっけ?
ときたま「Bioの肉です」とか、キリスト教文化に沿って金曜日は魚にするとか、環境や健康のことを考えて肉は週1回にするとか、一応ここにはドイツ的な「食育」の考えも部分的は入っているし、「肉食を減らし、野菜をもっと食べよう」というのは、いまや国策でも推進されるほどの思考なのだけど、トマトソースだけのパスタや野菜スティック、週1の肉食になるのはちょっと極端な気もするが、まあでもこういうメニューがドイツの一般の食事についての思考を現しているともいえる。
校内で調理された日本の学校給食を食べて育った私の感覚では理解が追いつかないときもあるのだけど、昼ごはんをちゃんと出してもらえるだけありがたいか、と今では受け入れている。子どもはおいしく楽しくおかわりするほど食べているようだし、足りないと思う分は家で作ればいいのだから。

ちなみにすべての保育園や幼稚園のランチの内容が必ずしも同じわけではなく、園内のキッチンで調理している近所の別の私立保育園(ただし市の傘下なので保育料は公立と同じ額)に子どもを通わせている中央アジアの某国出身のママいわく、そこでは味つけもさまざまでスパイスが使われたり、エスニックなカレーなども出るそうで「子どもだっていろいろな味を食べることはできるわよ。食育は大事よね!」
まあ、なんてうらやましい!とはいえ、うちの子の保育園で突然そういうメニューが始まったら、食べ残しが大量に出そうだけれども……。

健康志向が年々高まるドイツでは国を挙げて「健康的な食事とは何か」ということに取り組んできたが、そこに加えて「環境にやさしい食事とは何か」というテーマもこの数年加わってきた。
「肉食を控えて、野菜をもっと摂ろう」という意識のベースにあるのはこの二つで、社会の中に定着してきたと思う。
若い世代が中心だが、中高年の世代でもその意識は高まっているし、インテリ層ほどこの指数は高く、普段の会話の端々に感じられるのは、単なるトレンドではなくて、これは知的レベルを示す思考であるという誇りすら感じる時もある。

一方で「健康な食事を」と言いつつも保育園のランチの内容がこれかあ、と日本人の私は思ってしまう。
日本の給食並みにとは言わないが、1週間を通してみても、タンパク質の摂取量などが足りているのか疑問だし。
我が家の場合はその分、家の食事で補えると思っているが、ちらほら聞こえる別の家庭の話だと、夕食も出来合いのトマトソースをかけたスパゲッティだけ、野菜スティックとパンにハムやチーズ、おしまい、などなど。
もともとドイツの食習慣は、お昼ご飯にボリュームのある温かい食事をとり、朝は簡素にパンにジャムにコーヒー、夕食はチーズやハムを添えたパンと野菜はせいぜいきゅうりとトマトくらいで済ますというものだった。この場合はお昼でしっかり栄養が取れるのに加え、ドイツのパンはふすま入りのパンなど、ビタミンやミネラルが豊富なものが多いので、ここで栄養が取れていたのだと思う。
もっともこの伝統的な食事は塩気や脂に気をつけないと摂取過多になってしまうリスクはあるのだけど、でも頭も足腰もしっかりしたドイツの高齢の人たちを見ると、この伝統的な食事のスタイルもそれなりにバランスの取れたものなのではないかと感じる。
むしろぽっちゃりか細いかという両極端な最近の子どもたちの体型が気になるし、10代の子どもたちが肉を食べずに菜食だけとあちこちで聞くと、成長期に必要な栄養素が取れているのか、他人事ながら気になってしまう。

一方で、若い世代を中心に健康と環境にやさしい食スタイルとしてベジタリアンやヴィーガンが大流行のドイツだが、その食べ方を見ているといろいろと疑問に思うことも多い。
過去数十年の食習慣を振り返り、肉食を控えて野菜をもっと、というのはもっともだし、菜食主義を貫くのも個人の権利なのだが、疑問がわくのはそのやり方だ。
例えば植物性の原材料を使用した代替肉。
スーパーに行くと、ハンバーガーのパテからミートソース、さらにはブルドポークといった出来合いの食品から、それらを作るひき肉や一口サイズくらいの塊の肉まで、代替肉の商品がずらりと並ぶ。オーガニックやベジタリアン専門店の話ではない。普通のチェーンスーパーの棚である。
いかに消費者の関心が高いかを示しているし、またそうして消費者のニーズに応えるだけでなく、消費者に気づかせることもメーカーの責任でもあるという話はドイツ社会らしいけれども、では本当にこれが健康や環境の問題の解決になるのかという疑問も湧く。

昨夏、友人のカフェの調理場を手伝ったとき初めてこの代替肉を調理した。
乾燥させた大豆ミートは我が家でもたまに使うが、油脂が加えられて見た目も生のひき肉そのまま、というような代替肉を炒めたのは初めて。
普通のチリコンカンとベジタイプのチリコンカンの両方を作るというので、先に普通の動物性のひき肉をフライパンで炒め、そのあとに今度はこちらの植物性の代替肉を炒めたのだが、炒めている間、フライパンにべったりつくような感じの脂で少し炒めづらく、それが気味悪かった。
動物性の脂はフライパンの熱でスルスルと溶けていくのに、このベッタリと粘っこい脂が体の中に入ったら、ちゃんと消化されて排出されるのだろうか? そんなことを思った。
自分ではこの手のものは買って食べたことがないので、すべての商品がこうなのかは知らない。が、何年か前に仕事で訪れた食品添加物の見本市で、ヴィーガンマヨネーズを作るための添加物の展示を見て、私は普通のマヨネーズでいいやと思ったこともある。

ベジタリアンやヴィーガンなど菜食そのものが悪いとは思わないが、要はその方法の中での栄養の取り方や食べ方に気をつける必要があること、またその食事方法が体に合うかどうかも個人差があることや、環境にやさしいかどうかは食品廃棄やフードマイレージの問題まで考えなければならないが、せっかく注文したベジメニューを皿に大量に残していく子どもやそれを叱らない親を見たりすると、こうした根本的な問題がわかっているのかなあと思ってしまう。

さて、我が子の保育園の先週のお昼ご飯のことに話は戻る。
夕ごはんを食べながら「今日は幼稚園のお昼ご飯は何だったの?」と聞いたら、黄色いご飯、お米が出たよ、という。
へえ?マスタードかな?カレーご飯かな? 
「うーん、違う。でもすっごいおいしかった!」
で、掲示板に貼られた献立表の写真をもう一度見直した。
ああ、そういえばなんとかライスって書いてあったな。DとJって文字が読めたから、ディジョン?マスタードのごはんってこと?なんて適当に見ていたが、よく読むと違う。
Djuvec Reisって読めるけど、なんだ、これ?ドイツ語の綴りではない。
子どもいわく「保育園の先生も知らないって言ってた」。
そこで、ググってみると、すぐに出てきた!
「デュベチライス」というこのスパイスたっぷりの炊き込みご飯のような料理、バルカン地域発祥の料理なんだとか。バルカンってどこ?と訊く子どもに、セルビアにルーツのある友人や知人の名前を挙げて説明するが、いやー、今までのルーティーンメニューから逸脱するエスニック料理のサプライズである。
メニュー考案の担当者が入れ替わったんだろうか?それとももうすぐ始まるサッカー欧州選手権に合わせての特別メニューとかが始まるのかしら?と興味津々だった私だが、今週の献立表はいつもと変わらぬ、パスタのトマトソースがけ、とかチキンナゲットにフライドポテト、とか、甘いふわふわパンケーキ、とかであった。
我が家の夕食メニューのイワシの煮付けと野菜たっぷり味噌汁で補うか。

©️ : Aki Nakazawa

掲示板に貼り出される手書きの献立表。
この週の火曜日(Dienstag)はドイツ名物スナックのカレーソーセージとポテトフライ。カレー粉の混ざったケチャップが添えてある焼いたソーセージです。日本の感覚ではジャンクフードになりそうですけどね。
ちなみにこの給食代は月に40ユーロ程度。
ドイツでは3歳以降の保育料は無償になるので幼稚園に払うのは基本的にこの給食代のみになります(3歳以下の保育料は各家庭の収入に合わせた月額になり、おおよそ50ユーロから高額収入家庭では500ユーロ以上にもなります)。
幼稚園に入って写真が撮れないので実際にお昼ごはんの内容を見たことがないのですが、子どもはよくおかわりをしてくるそう。
週1回のデザートは市販のプディングやヨーグルトやアイス。これも普段我が家では、砂糖が多すぎると思ってあまり買わないものなのですが。かかりつけの歯医者には「ドイツの幼稚園はとにかく甘いものを食べる機会がどうしても多いから、家ではあまり与えないように」と言われるほど。
まあ、家ではしないことを外で体験してくるというのも大事だからいっか!ごはんをちゃんと出してくれるだけ感謝と思うことにします!

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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