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UK SAMBA~イギリスのお産事情~ 第7回「女性に危ない避難所」(後編)〜疑ってみるくせつけたい母乳代用品〜

おざわじゅんこ2024.07.22

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母乳育児は女性と子どもの権利です。
母乳育児は人権の問題です。(参照)
イギリスにはEquality Act 2010(参照) という差別禁止法があります。年齢・障がい・性自認・結婚(同性婚)しているかどうか、人種・信仰と信条・性別・性指向とならんで「妊娠中・産後・授乳中であるか」もProtected characteristics(それらを理由に差別されるべきでない特徴)と定めています。
Equality Act 2010は公共の場や職場で、それらの特徴を持った人がそれを理由に不当に扱われないようReasonable adjustment をするのは事業者・責任者の役目であると、差別を防ぐことの責任の所在を明らかにした法律です。妊娠中や授乳中のひとを差別することは違法で、それを防ぐ策を講じる義務を果たさない責任者は罪に問われます。
しかし2014年、ある高級ホテルのティールームで女性が授乳する姿を隠せと言われる事件がありました。その女性は「授乳を隠せと言われちゃった!」とSNSに写真を発信して話題になりました。その発信を見た授乳中の女性のグループがそのホテルの前で授乳Standingし、女性と乳幼児にとっての授乳の権利を主張しました。当時授乳中だったわたしと仲間はこれぞまさにシスターフッドと力強く感じたものです。(参照)


日本の母乳育児は女性の義務?
それに対して、日本で母乳育児というと権利というより義務のようなイメージがあるのかもしれません。よくある言説を検証してみましょう。

・母乳は乳幼児の発育に一番適した食べ物で、
→こちらは正解。

・母親はそれを与えることに喜びを感じるべき
→こちらはそういう人もいるけどそうでない人もいる。

・母乳育児は困難がつきもの
→間違った医療が原因の困難がある。また困難もサポートがあれば一過性。

・「よい」母親は文句を言わずに我慢して母乳で育てろ
→よい母親などない。家父長主義。

これらの言説は素っ頓狂ですが広く言われていることかもしれません。宗教右派が大好きな母性! 母乳育児義務説です。そのような押し付けには反発したくもなりますよね。
厄介なことにこのようなメッセージこそが母乳代用品マーケットにとって利益につながります。母乳育児を押し付けられる女性はお気の毒、どうぞ代用品で自由を手に入れてください、というまやかしのマーケティングです。

母乳代用品製造会社の思惑通り、母乳と母乳代用品が対立の構造になっているのが昨今の日本のメディアにある母乳育児像。この対立構造は女性の地位が低く、子どもの健康や教育を女性に押し付ける日本にみられる特徴です。
そもそもの子育て全般が支援不足で自己責任に問われるそんな地獄みたいな状況だから、母乳育児をしているひとだけに支援があるなんてずるい!という感覚になるのでしょう。


母乳代用品のマーケティングに関する国際規準 母乳育児を守るのは社会の義務
1981年にWHOが定めた「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」というものがあります。世界の80か国以上が批准しており、日本の批准は1994年でした。
こちらで言われる母乳代用品とは乳児用調整乳(乳児用ミルク)やフォローアップミルク、そのほかの母乳にとって代わる乳児用食品のことです。この国際規準の規制の対象は食品だけでなく哺乳びんや人工乳首(おしゃぶり)のマーケティングも含みます。(参照)(参照)

母乳代用品とそれに関連するものの広告やマーケティングが野放しであることこそが母乳育児を困難にします。そのため、広告や商戦を制限することで母乳育児は守られるのです。(参照)

すべての女性には、十分で偏りのない情報を得た上で自分の家族にとって最適な栄養法を選択する権利があります。国際規準は、女性の意志に反して母乳育児を強いることが目的ではありません。母乳代用品の製造と販売を禁止するものでもありません。
母乳代用品のマーケティングの規制=広告を規制すること、乳児栄養の正確な情報があることと、母乳代用品が必要な時には可能な限り安全に使用されるよう保証するための基準です。(参照)
この国際規準が法制化されている場所(北欧やブラジルなど)では母乳育児を選択した女性はよりラクに母乳育児を楽しめており母乳育児率が高いです。そしてそこでは母乳代用品はより安価に手に入ります。製造会社が広告に費用を使わなくて済むからです。(参照)

一方、法制化が進んでいない国では母乳育児率が低いだけでなく女性はより苦労しています。日本は批准したもののちっとも法制化がすすんでおらず、母乳代用品製造会社はほぼ宣伝したい放題。企業による母乳育児の宣伝を規制するのは行政の責任なのに、それは放棄され企業の倫理観に任されています。かつては内閣府主催の防災イベントで母乳代替品のお試しサンプル商品を無料配布、など明らかなWHO国際基準違反もありました。(参照)この結果、個人の健康と国の医療保険予算は大きく打撃を受け、災害時に乳幼児が犠牲になっています。(参照)


母乳育児支援は最大の防災
母乳育児をしている女性は持ち物すくなく乳幼児とさっさと逃げられるので、逃げ遅れが少なく、避難できた先での感染症にかかるリスクも、食べ物が手に入らないリスクも、そして精神的なトラウマのリスクも最小限です。 (参照)
最近は自宅に被災用物資(簡易トイレなど)を一週間分備えておくことが励まされているようですが、一週間分の母乳代用品にはたくさんのスペースと費用が必要です。(参照)
平時・普段の生活でも違いは明らか。母乳だけを飲んでいる乳幼児と暮らすことは母乳代用品を飲ませている場合より手間がとても少なく、その乳幼児との暮らしをとてもラクにします。

災害の多い日本では、この面を理解し平時からの母乳育児支援が必須です。
繰り返しますが女性に向けて母乳育児の促進(という名前の押し付け)をするというのではなく、母乳育児をできる環境を周りが整えるということです。
間違った情報、広告、害のある医療介入などから女性と乳幼児を守る=WHOの国際規準を守ることです。(参照)


女性を責める風潮
WHOの国際規準は社会にその義務があることを明記しています。女性を励ましても、もしくは責めても大した変化は期待できないです。そもそも女性はもう十分頑張らされてるよね。
世の中には女性を脅して儲けようとする輩が山ほどいます。女性に向けた情報は脅すものが溢れかえっています。母乳育児の情報でよくあるのが大変・痛い・量が足りない・赤ちゃんが寝ない、など呪いの言葉だらけです。(参照)

産科医療とメディアによる「お産=痛い・怖い・いのちがけ」キャンペーンもまったく同じ。儲かる人がいるからそんな不正確で否定的な情報が出回り、その悪質な情報を信じ込まされていることにより本当に苦労する人がいる。んで次世代にも更なる苦労を味合わせてしまう。

日本では母乳の肯定的な面を話そうとするとそれを母乳教・母乳狂とか母乳神話などと揶揄する風潮があります。どこまでも冷笑系。「母乳神話」なんて広告代理店が考え付いたとしか思えない狡猾さ。
それを受けて「母乳! 母乳! と騒いで女性がうつになっては大変、女性を責め過ぎないで」という、頓珍漢な気遣いを社会全体、ひいては医療もしている、そのような泥沼です。


産科施設が母乳育児に与える影響
WHOの国際規準に則ったと認められたBaby Initiative Hospitalで生まれる赤ちゃんは日本で生まれる新生児全数の4%弱。つまり大多数の新生児はWHOの国際規準に則していない産科施設で生まれ、母乳育児の確立を邪魔されているのが現状です。

母乳育児を楽しむための最大のカギは産んですぐの女性と生まれてすぐの赤ちゃんが邪魔されず、Skin to skin (早期母子接触)で最低でも3時間一緒にいることです。
生まれてすぐの赤ちゃんに点眼など必要のない介入をしない。体重測定など、生まれてすぐにしてもしなくても変わらないことは3時間以降にする。
入院中も退院してからもずっとskin to skinをしておくと母乳育児はたいていうまくいきます。(参照)

産科医療施設に元気な赤ちゃんを集めて入れておく新生児室があり(病気で観察や治療が必要な新生児用の新生児室とは違う)母子分離が理由もなくされていたり、母乳代用品の準備の仕方を習う「調乳指導」があったり。そんなWHO国際規準違反な産科施設が日本には山ほどあると聞きます。
退院時のお土産に母乳代用品を持たせる、などはもっての外です。産科施設に母乳代用品販売元が資金提供しているような場所では母乳育児は守られません。
女性の医療が軒並み自費で、産科医療自体が経営の心配をしないといけない医療制度を放置している行政の責任は重いです。(参照)


隠されたメッセージ
母乳育児を守る=母乳代用品の情報を減らすために、できることはたくさんあります。公共施設にあるピクトグラムをWHO国際規準に則ったものにすることもそのひとつです。
左の絵は母乳育児の国際的なシンボルマークで(参照)右は母乳代用品の哺乳瓶とおしめを替える設備があることを示すピクトグラムです。
右の図が授乳室に使われることはWHO国際規準に則っていません。
母乳代用品の使用は「普通」とわたしたちに思い込ませるトリックはこのように小さく、その辺にあふれているものです。その害は計り知れません。
身近な公共施設の授乳室のマークがどちらなのか、どうぞ気を付けてみてみてください。その場所の責任者に左のマークを使うようにリクエストすることは簡単で効果的な母乳育児保護です。

情報は誰が・どのような意図で?
企業・医療・行政が発している情報は適正なものでしょうか。最新のものでしょうか。隠れた意図があるのかもしれません。わたしたちを脅して儲けようという魂胆がないと言い切れるでしょうか。不安を掻き立てられた市民は消費行動を操作されやすいです。(参照)

わたしたち女性は環境問題でも消費者・労働者権利運動でもずっとまず「最初に」立ち上がってきました。(参照)からだの声をきき、仲間と連帯すれば、権力に騙されない冷静さと己のことばを取り戻すことができるのです。


付録・いままでの世界と岡山の動き
参考までに母乳代用品のマーケティングにまつわる世界の動き、それを題材とした映画の情報のリンクをどうぞ。

・ネスレの販売員は看護師のような服装をして女性に粉末母乳代用品を宣伝していた時期がありました。詐欺のような手法にそそのかされ、安全な水のない場所に住む女性たちが母乳代用品を使ったことで乳幼児の死亡率が増加していることを暴いた「The baby killer」は1974年の出版です。これらは今も終わっていないネスレボイコット運動に繋がり、WHOが国際規準を出すに至りました。 

・全世界のフェミニスト必読の書、母乳育児のポリティクス。女性のからだが金儲けと権力に利用され続けていることが冷静に、かつ生き生きと描かれています。
「The Politics of Breastfeeding」
日本語訳もあります。「母乳育児のポリティクス-おっぱいとビジネスとの不都合な関係」

・わたしの出身地岡山ではネスレボイコットは目立ちませんが森永製品非買運動は根強くあります。森永ヒ素ミルク事件は1955年に起きた12000人以上(130名死亡)の乳幼児に影響を与えた食品汚染事件です。企業の非を見つけた医療が、企業と行政に圧力に負け口をふさいだ、恥の事件でもあります。
森永ヒ素ミルク中毒事件資料館

母乳代用品会社の非倫理的なマーケティングが低所得国の乳幼児の健康と声明を危険に晒している現状を内部告発したひとの映画 「汚れたミルク/あるセールスマンの告発」

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