4月13日、オーストラリア・シドニーのボンダイビーチの近くにあるショッピングモールで残酷な通り魔事件が起きました。被害者は警備員の男性一人を除き全員が女性。加害者はJoel Cauchiと呼ばれる40歳の男性でした。加害者は女性の警察官の警告にも従わず凶器を振るい、射殺されました。
警察によると彼は10代で深刻な統合失調症を診断され、QLD州から急にシドニーへ移住を決め薬物治療を中断していたらしいです。しかし加害者の親は後日「息子が女性だけをターゲットにしたことに関してどう思うか」と言うインタビューに素直にこう答えました。
「彼はずっと彼女を欲しがっていたが、(病気のせいで)社会性がなくて女性とうまく関係を築くことができずイライラしていました」
「私たちにとってはただの病弱な息子だったが、皆にはモンスターにしか見えないでしょう。被害者の遺族には深くお詫びを申し上げたい」
同じ精神疾患を抱えていても何故大体の凶悪犯罪は男性が犯してしまうのか。
その疑問は後回しにして、今回はこういった事件に対する「国によって違う対処」について語りたいと思います。まず上のインタビューの質問の内容でも気づかれた方がいると思いますが、この事件が起きてすぐオーストラリアの人たちが注目したのは「何故多くの女性が被害者になったか」でした。それは亡くなった被害者の身元が明かされる前からあった疑問であって、男性の被害者が一人いたのにも関わらずとにかく被害者の性別が偏っている時点で「ただの通り魔の事件としてみてはいけない」という常識があったのでしょう。
その後、オーストラリアではこの事件が女性嫌悪犯罪として取り扱われ、大規模なデモが全国各地で行われました。中には「男が問題なのだから我ら男が解決するべき。女性への暴力をやめろ」と書いたピケッティングを持っている男性もいて、女性の人権への「基準」がこんなにも違うんだなぁと実感するきっかけになりました。
なぜなら、韓国で起きている女性を対象とした多くの犯罪は女性嫌悪事件として認めてもらえないからです。2016年、江南のあるカラオケのユニセックストイレで女性が殺害される事件がありました。犯人はトイレに女性が入ってくるまで待ち伏せをし被害者を殺害しました。
明らかに女性を狙った殺人。しかし韓国の検察はそれを「ただの通り魔事件」だと公表しました。その理由はなんと「加害者は過去に彼女を持っていた経歴もあり、女性を嫌悪するような人物ではない」と判断したからだとか。
それから何年も経った2022年。シンダン駅で勤務していた女性駅員が同僚の男性に殺害される事件が起きました。加害者は被害者女性を3年以上もストーキングしていた人物で「何故付き合ってくれないのか(왜 안 만나줘)」と女性を殺害したのです。しかし韓国ではこの事件に関しても「DVやストーキングは女性が多くされる犯罪である。女性だから殺されてしまった、これは女性嫌悪犯罪である」という意見と「そんなことを言うなら男性にだって被害者はいる。しかし人々は男性が被害に遭った時はいちいち男性嫌悪犯罪と騒がないじゃないか。これはジェンダー問題として扱ってはならない」という意見にわかれています。
どれだけ統計が事実を証明していても、現実から目を逸らしている社会。一体何が起因しているのでしょうか? それを考えている中、私は面白い(しかし決して笑えない)あるオンラインコミュニティを見つけました。
それは옥바라지(オックバラジ)と呼ばれているコミュニティです。刑務所(監獄の獄)を指す옥と、世話をするという意味の바라지が結合した言葉の通り、そこは刑務所に入っている犯罪者たちの刑が満期になるまで待ちながら彼らの面倒を見る人たちのたまり場でした。
犯罪を犯す人は大体が男性のため、そのコミュニティで活動をしている人の多くは女性。ほとんどが犯罪者の母や妻、彼女などの、面倒をみる立場の女性たちでした。
「愛する人を信じて待つ」のが目標だというそのコミュニティでは驚くべきことに、被害者への二次加害はもちろん、刑を軽くする反省文を書くコツをシェアしたりと、さも第二の犯罪組織かのような投稿が数多く書かれていました。囚人服を着た彼が素敵すぎて惚れ直したという理解しがたい投稿もありました。
ああ、女性嫌悪社会は男性だけの力で築き上げられたモノではないんだなと絶望を感じました。ダメ男を最後まで支えようとする女性たちが居るからこそ社会は変わらない、そう思えました。
悲しいことにそれは限られた一部の人の話だけではありません。2023年、婚約者の女性を190回刺して殺害した加害者の母親は放送で「私の子供だからそう感じるのではなくて、息子は本当に良い子なんですよ」とインタビューに答えていました。(その姿が私の妹にセクハラした犯罪者を庇う自分の母親の姿に重なって吐き気がしました) その本当は良い子のはずの息子は遺族には一言の謝罪もせず、裁判官の前でだけごめんなさいとワニの涙(※)を流した後、宣告された17年の刑も重すぎると控訴したと伝わっています。
何があっても周りの男が無欠に見えて決して手放せない病気——。それは子供の頃から常に都合の良い女になるよう教えられ育ち、ガスライティングされ自我が持てなくなった女性たちの一種の宿命なのでしょうか?
韓国の異常な男溺愛文化は次回にも続きます。
※偽りの涙。自分で殺しておきながら犠牲者の為に泣いているかのような偽善的な様子。ワニが捕食しながら涙を流す生態からきた言葉と言われている。