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フィクションとリアルの区別ってなに?

牧野雅子2017.07.26

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 このところ、オシゴトの一環で、普段手に取らない類いの雑誌を読んでいる。いわゆる大衆紙と呼ばれる、オジサマ方を読者に想定した雑誌だ。朝イチで図書館に行き、大きな机に陣取って、山と積まれた雑誌と格闘する。わたしが今調べているのは、性暴力事件やセクハラをエロとして消費しようという魂胆の記事や、レイプモノや痴漢モノAVを紹介した記事など。読み慣れないせいもあって、なかなかページが進まない。その上、内容があまりにあまりなので、真剣に読んでいたら、いちいち腹がたって仕方がないのだ。

「思わず手がお尻に」何が思わずだよ、ざけんじゃないよっ! 「相手が拒まなければ“OK”!? 」んなわけねーだろ! 勘違いも甚だしいわ! 「触らせておいて通報とは」 だーれが、触らせた、だ! てめーが触った、だろぉがああああぁっ!

 最初はツッコミ入れながら、怒りながら読んでいるのだが、そのうちに、だんだんと気力が萎えていく。暑さのせいもあるかもしれない、連日の図書館通いで疲れが溜まっているせいもあるかもしれない。でもでもでも。ああ、辛い。ツライツライ。

 事件のレポートでは、いつだって被害女性の身体特徴が事細かに描写される。デビューしたばかりの若い女性タレントに、痴漢経験を根掘り葉掘り聞く二次加害そのまんまなインタビュー記事。最後に、痴漢に遭ったのは女性としての魅力があるからだよ、ってそれ、全然フォローになってないし、っていうか、読者に、そう刷り込んでいるだけだし。性暴力モノAVの撮影で、「リアルさ」を出すために女優は何も知らされていなかったことが、その作品の素晴らしい点として賞賛される理由が皆目分からないし、実際の電車内で撮影された痴漢モノAVの詳細な「メイキング」記事には「は?」としか言葉が浮かばない。記事にはそれぞれ、内容に見合った写真がついている。大体そういう紙面ってビジュアル先行だから、写真満載なのだ。

一応、オシゴトであるわけだから、辛いからとほっぽり出すわけにもいかず、一つ一つ頑張って読む。必要な記事はコピーする。とはいえ、このコピーがまた一苦労なのだ。図書館の資料は勝手にコピーができるわけではなく、複写申し込みが必要で、図書館によってはセルフコピー禁止のところや、著作権チェックが大変厳しいところもある。痴漢出没路線ランキング! とか、必見AV! なんて記事を、チェックしてもらう気持ちといったら! 図書館スタッフのみなさんは、大変真面目に「サイズはどうしますか? カラー? モノクロ? モードはどうしますか? 写真がはっきり写るようにもできますし、文字が読みやすいようにもできます」と聞いて下さる。もちろん、スタッフはそれが仕事なのだし、プロとして、きっちりと丁寧なコピーを用意してくれ、著作権チェックもしてくれる。それも込みでの、複写代金だ。そして、わたしはといえば、ごめんなさいごめんなさい、こんな記事ばっかり扱わせてごめんなさい、心の中で謝り続ける。

 性暴力が男のエロとして消費されているのを知ると、消費目的で制作されている男のエロの中に性暴力が潜んでいるのと知ると、フィクションとリアルの区別って何? と思わずにいられない。性暴力を扱ったAVや漫画やゲームはフィクションに過ぎず、欲望をそこで解消することによって現実の被害を減らせるのだから、むしろリアル女子を守っているのだ的な主張を目にすることがある。でもね、リアル女子は、そういうメディアがあるということを知るだけで、そこに「女子」がどんな風に描かれているか知るだけで、そのこと自体がすでに苦痛なのだし被害なのだよ。

 思い出す。わたしは中学のある時期と高校以降、電車通学をしていた。苦痛だったのが、サラリーマンたちが、電車の中で、平気でフーゾク記事やポルノグラフィ満載のスポーツ新聞や雑誌を読んでいることだった。これから仕事に行くという通勤電車の中で、周りに、自分の娘と同じくらいの女子学生たちが乗っているのに、自分の女性の同僚や部下も乗っているかもしれないのに。大人の男たちがそういう記事を公然と読んでいるという事実、わたしたちの前でも読めるという事実、そして何よりその事実を目にしなければいけないということに、傷ついたのだった。傷ついたという言葉が適切でなければ、ショックだった。大人の男の人って…。その気持ちを、図書館で資料の雑誌をめくりながら、今、思い出している。

 そうそう、勉強になった記事のことも書いておこう。『週刊ポスト』(2016年2月12日号)によれば、海外ではレイプモノAVは、犯罪を助長するという理由で厳しく規制されているんだそうだ。でもって、契約以外のことを出演者にさせるのも御法度。ってことは、レイプモノのAV、しかも「リアルさ」を求めて、女優には撮影の詳細を教えないなんていう撮影は、二重にあり得ないわけだ。日本では、レイプモノや痴漢モノのAVは根強い人気らしいですが。

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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