自民党が歴史的大敗をした都議選で草の根デビュー
私は民主主義だフェミニズムだとパソコンのキーボードを叩き、スマホに打ち込むネトフェミ、特に夏は冷房がきいた屋内のひきこもりっきりの人間である。しかし、この政治情勢で、さすがの私もこうしてばかりいられないと、この間猛暑の中打って出ることにした。
まずは、7月1日、都議選の共産党公認候補の福手ゆう子さんの応援演説。直前に女子会友だちである文京区議(ぶんきょう未来)の松下純子さんからある日「来て、思いを言ってよ」とメッセージが届いた。パヨク(反日左翼のことらしい)とどこかで罵られることもある私だが、実は共産党に票を投じたことはない。しかし、今回の文京区の都議選候補者は、民進党からちゃっかり都民ファーストに鞍替えした男性前都議(当時、今は都議…)、自民党の男性現職。こんな選択肢の中では、福祉の充実を訴える福手さん以外にない。迷うはずもない。選挙運動ができるラストの7月1日18時少し前、地元文京区の西片交差点に赴く。なんと志位和雄共産党委員長のご挨拶の前座という、マジですかという大役が用意されていた。私でいいんですかマジですかと思いながらマイクを握ったらスイッチが入った。実際にはiPhoneから目を離してしまいこの通りではなかったが、以下が準備した原稿だ。
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都議会といえば、私は女性都議に対するセクハラ野次問題が忘れられません。
早く結婚した方がいいんじゃないか
産めないのか
こんな、女性の人権を損なうヤジをしたのは、男性都議たち。発言者は大田区の自民都議ひとりだけしか特定されませんでした。
その都議はいったん会派を離れましたが自民党都議では居座り、今回も何食わぬ顔で自民として大田区で都議選にでています(鈴木昭宏)。誰に申し訳ないというのか、身内である自民に頭を下げているだけとしか思えません。都議会でセクハラ野次はおさまったそうですが、男女共同参画社会推進議連は復活したものの、3年中2回しか会合を開かなかった上、セクハラをテーマにしたことすらないそうです(「「セクハラやじ」から3年、都議会や女性議員のあり方は変わったか 塩村文夏さんに聞く 都議選2017」ハフィントンポスト2017年6月16日吉野太一郎記者 )。セクハラが女性の人権を損なうものだという認識がないまま、触らぬ神に祟りなし、で済ましている。
セクハラ野次議員をあっさり公認する自民党が「女性の活躍」を掲げる?女性の人権を尊重しないけど働けと言われているような気がしてなりません。
私たちは、キャッチフレーズがほしいんじゃない。
個人を尊重する政策をしてほしい。女や、老人や、子どもや、障がい者だったりする、さまざまな個人を個人として尊重してほしい。福手さんなら個人を尊重する政策を目指してくれるはず。2議席目を争う福手さんと自民党候補のどちらに票を投じるべきかは明らかではないでしょうか。
都政と国政は違う、なんて悠長なこと言ってられない。
さまざまな疑問が国の内外で問われたのに、あざわらうようなふざけた答弁のみで共謀罪を強行採決した政権与党。あざわらわれたのは、野党議員だけではない。あざわらわれたのは、主権者である私たちではないでしょうか。
森友加計問題、行政を歪め、首相のお友だちを優遇し、権力を私物化している疑惑にも答えようとしない政権与党。
そんなこと許さない、という意思表示の機会はまさに今です。
意思表示を今しないと、熟議をぶっ飛ばして改憲に突き進むことにお墨付きを与えたとみなされてしまいます。
安倍首相が初めて応援演説会をした文京区で、自民党候補を落選させて政権与党にノーを示しましょう‼
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要所要所で「そうだ!」と合いの手、拍手。あたたかかった。
ところで、私がへたくそなアピールでもあたたかなエールをいただき高揚していた西方交差点からほど近い秋葉原駅前、2時間前ほどの午後4時過ぎ、大変な騒ぎだったそうだ。議選でようやく安倍首相が最初で最後の街頭演説を行った。「安倍辞めろ」の横断幕を安倍首相の目に触れさせないようにとばかりに「自民党青年局」のノボリ旗が多数たったのは異様だった。自民党青年局は自民党青年局で各所で気炎をはけばよいのに、「お殿様に非礼があってはならない」と思い込んでいるかのようだ。日の丸の小旗をふった青年たちはなんと横断幕を引きずり下ろそうとまでしたらしい。しかし、警察はこうした乱暴な行動は止めたとはきかないが、安倍首相に100万円を返そうとやってきただけの森友学園の籠池前理事長を力ずくで排除した(!)。田中龍作氏と同じく、「この国では表現の自由どころか、演説をきく自由すら奪うのだろうか。カネを返そうとすると、予防拘禁されるのだろうか」と唖然とする(田中龍作 ジャーナル「[都議選]アキバに響いた「安倍辞めろ」王様は裸だった」2017年7月1日)。
ところで、福祉の充実と食の安全を重視する福手候補の演説はおだやかで誠実な人柄も感じさせ、じんとした。当選してほしい。心から願ったが、なんと…。たったの215人の差で落選。都民ファーストの候補がトップ当選、2位が自民都議。安倍首相が応援演説を行った他の3人の候補は落選したのに、辛勝とはいえ当選させてしまった文京区が哀しい。もっともっと前から地道な草の根活動が必要だった、と反省する。とはいえ、自民党が過去最低の38議席をも下回る23議席という歴史的な大敗北を喫したことは嬉しい。ちなみに、3月に安倍首相は「公明党抜きで単独で勝利するいい機会だ」、二階幹事長は「自民党の底力を見せ」る、と言っていた(笑、2017年3月14日産経ニュース )。底力がこの程度とわかったいい機会であった。
「私たち」と「こんな人たち」を対決させるのが民主政か
秋葉原駅前の安倍首相の街頭演説に戻ろう。「辞めろ」コールに怒った安倍首相はあろうことか、コールのする方向を指さして、「こんな人たちに、私たちは負けるわけにいかない」と言い放ったのである。
共産党の組織的活動だろうといった憶測というかデマを放っている人もいるが、常識的に考えて共産党だって福手さんほか党公認候補の応援で目一杯だったはずだ。なんと「同じようなプリントが並んだ→組織的な工作ではないか」との陰謀論もあったそうだが、便利なネットプリントをご存じないのだろう(久保田直己 よう知らんけど「民主主義のプラットホームとしてのコンビニ」2017年7月9日)。現場のレポートによれば、自民党が配布した日の丸を持つ、左翼にくくれない人も反安倍的行動をしていたらしい(「都議選の「安倍やめろ!」は尋常ではなかった 選挙戦最終日、安倍首相の目の前で大逆風」安積明子 東洋経済オンライン2017年7月9日 )。
公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない(憲法15条2項)。とりわけ、内閣総理大臣には、「お友だち」や支援者ばかりでなく、日本に住むすべての人々の人権や利益に思いをはせて政策を策定し実施していくことを期待してはいけないのか。
小野次郎元参議院議員の7月1日のツイート「安倍「こんな人たちに負けるわけにはいかない」(7/1秋葉原街頭) この方は、自分に反対の考えを持つ人々は国民ではないと思ってる。 総理になって何年も経つのに、この方は全国民のために選ばれた職にある自覚は持ち合わせない、遺憾ながら。」は、同氏のツイートでは空前絶後のアクセスがあったらしい。「僕の呟きは面白くないのに」そこまでに達したのは、「総理の対応が今回の自民党の大敗のシンボルになったようです」という7月4日のツイートにも頷く。面白くない、自明のはずのことを確認したくなるご時世なのだ。
自分に反対する人は「こんな人たち」と指さし、奉仕する気などさらさらない。さすがに、自民党内からもちらほらと苦言がつぶやかれた(それも首相が「熟読して」と言った読売新聞が報じている!読売新聞2017年7月7日 )。
「問題ない」が口癖の菅官房長官もさすがにちょっとは苦言を呈すだろう…という見立ては間違いだった。菅官房長官は、記者会見で、「極めて常識的な発言」と擁護したのだ(2017年7月3日朝日新聞)。
東京新聞編集局が6月30日に、「安倍首相は都議選の応援演説で、ヤジを飛ばす聴衆に「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と力説しました。かなり離れた場所で、黙って演説を聞いていたお年寄りが「こんな人ってなんだ。都民だ、国民だよ」と急に声を上げました。震えながら声を出す姿が印象的でした。」とツイートした。安倍首相も菅官房長官も、このお年寄りの「こんな人ってなんだ」という言葉が理解できないのだろう。江川紹子さんが言うように、「こんな人たち」発言は、「対決型を推し進めることで、政治はますます粗雑になり、できるだけ広範な人たちの合意を得ていくという地道な努力をしなくなっていった」、安倍首相自身の個性に由来する政権の体質を可視化したといえるだろう(江川紹子「「こんな人たち」発言にみる安倍自民の本当の敗因」2017年7月3日 )。
「こんな人たち」もリスペクトされる政治を目指して
さて、地元での地道な活動の重要性がわかった私は、7月9日、ぶたちゅうの街宣に参加させていただいた。ぶたちゅう?もちろんご存じないだろう。衆院東京2区(文京区、台東区、中央区=ぶたちゅう)の野党統一候補を後押しするための活動を始めた市民グループ だ。暑い。暑すぎて出歩いている人があまりいないような気がしないでもなかったが、根津神社入り口から始まった街宣に参加した。
そして根津駅前で私はスピーチさせていただいた。以下が用意した原稿だ。
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7月2日の都議選、自民党の歴史的大敗は嬉しかったです。
共謀罪の成立、本当に悔しかった。政府は、テロ対策の国内法整備は既にしているのに、この法案をテロ対策だと騙そうとしました。それでも、表現の自由やプライバシー権を不当に制約し、監視社会が強化される、と内外で批判が強まっていました。にもかかわらず、政府は、野党の追及をあざ笑うかのようなふざけた答弁を繰り返しました。その挙げ句、与党と維新の圧倒的多数で占められた国会は共謀罪を強行採決して成立させてしまった。熟議がこんなふうにぶっとばされるなんて、民主政といえるのでしょうか。愕然としました。
しかし愕然とすることは、初めてではない。民主政が機能するためには、私たちは何が起こっているか知る必要がある。政府に不都合な情報こそ知る必要がある。そうでなければ、政府を批判しようもない。ところが、政府が勝手にこれは秘密、と指定してしまう特定秘密保護法が2013年に成立してしまった。実際、最近の森友加計問題で、私たちが知りたい情報が書いてある文書をないだとか個人のメモで行政文書でないとか言って隠そうとする様子を見ていると、秘密かどうかだって恣意的に切り分けられてしまうことは明らかです。
そして、多くの憲法学者らが憲法9条に反すると指摘したのに、集団的自衛権の行使を可能とする安保関連法も2013年に強行採決されてしまいました。
こうしてみると、私たちはもはや主権者ではないのではないかとまで思えてしまいます。いったん多数の議席を渡しても、熟議は必須。それなのに、白紙委任されたとドヤ顔されてしまっています。
その挙げ句、お友だち優遇の「総理の意向」で「行政がゆがめられ」ているとしか思えない。
ゆゆしきことといえば、防衛大臣が、「自衛隊としてお願いしたい」と自衛隊を自分のおつきのものかのように自民党の都議候補を応援する演説をしたこと。彼ら彼女らの目には、権力は自分のものと写っているのではないでしょうか。
都議選前日、安倍首相は、秋葉原で「辞めろ」コールに怒り、指さして、「こんな人たちに負けるわけにいかないんです!」と叫びました。菅官房長官は「民主主義国家ですから」「極めて常識的な発言」と擁護したのです。「ちがうだろー」。いけない、豊田議員が乗り移りそうになりました。ともかく、理解できません。民主主義国家だからこそ、政治家は、自分を批判する人々を「こんな人たち」と分断し「負けるわけにいかない」と敵意を向けるのではなく、耳を傾けるべきです。豊田議員のいう「あたしが違うっていったら違うんだよ!」「豊田真由子様に向かって!」というフレーズがリフレインします。安倍首相も、「あたしがこういったらこうなんだよ!」「安倍晋三様に向かって!」と言いたかったのではないでしょうか。
「憎悪や誹謗中傷からは何も生まれない」という秋葉原での安倍首相の言葉は、そっくりそのまま首相に向けるべきです。
「女性が輝く」とか「○○ファースト」といった上っ面のフレーズはいりません。だいたい、「○○ファースト」なんて、「○○」以外を排除する危険な臭いがします。小池百合子都知事が国政をにらんで「国民ファースト」といったとき、ぞっとしました。排外主義的な在特会系列の団体で講演をしたこともあることから、尚更です。
様々な差異がある私たちを「こんな人たち」と指をささず、それぞれを尊重する政策を考えてほしい。女や、老人や、子どもや、障がい者だったり、エスニシティも様々、LGBTであったりする、さまざまな個人を個人として尊重してほしい。女性の活躍といいながら選択的夫婦別姓すら認めず女たちの権利を認めようとしないとか、ありえない。「こんな人たち」ではないお友だちと仲良く権力を私物化する政治はまっぴらです。
まっぴらだからといって慌てないようにしたい。地道な活動が必要だとつくづく思いました。文京区では都議選は最悪、都民ファーストと自民党を当選させました。よりにもよって、安倍総理が最初に屋内応援演説に来た人を当選させたなんて断腸の思い。受け皿だと都民有権者の多くが思ってしまった都民ファーストは選挙の翌日には何らの民主的な手続もなく、党代表が替わりました。これまた権力の私物化ではないでしょうか。二元代表制から問題がといわれてもそれ選挙時も明らかでした。選挙の時だけのエアー代表なんて有権者をだましたようなもの。そして、内部で民主的な手続を重視しない党が、民主政をリスペクトすることも期待できません。
私たちはこんな政治はまっぴらだ、と不支持の意思表示をすべきです。でも、同じように非民主的な政治に突き進みたくない。あれもこれもだめとケチをつけていたらきりがないけれども、せめて、私たちを「こんな人たち」と排除せず多様な個人として尊重しようとするそんな政治を目指していきたい、そう強く思います。
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草の根活動、頑張らねば。早速、都民ファースト都議 に、「代表が民主的な手続でなく交代したことについてどうお考えですか。党内で民主的な手続を重視しない政党が、民主政をリスペクトできるとは思えませんが」という趣旨の質問を送った。
不断の努力、頑張ろう。