前回に引き続き、災害避難所に関するコラムになるが、お付き合い願いたい。
3·11東日本大震災から13年。当時は夜間定時制高校に勤務していた。地震発生からしばらくして、九州にも津波が来るというニュースが出ていた。当時の勤務校は海に近いところにあったため、生徒には夕方の給食を食べさせずにすぐに帰宅を促した。教職員には「生徒に給食を食べさせないのだから」と、学校周辺の食堂で各自夕飯を取るよう管理職から指示が出た(給食は生徒教職員分すでに出来上がっていたのに)。
津波が来るというのに、いつもと同じようにその日の勤務は続いた。幸い大した津波ではなかったため地震による影響はなかったが、勤務時間が終わって海辺の道を車の運転をして帰って大丈夫かと不安に駆られ、遠回りして一本内陸側の道を帰ったと記憶している。
後日、地震を想定した避難訓練が行われた。津波を想定して、校舎の屋上へ垂直避難する訓練だった。携帯電話に懐中電灯機能がついたのもこの頃ではなかったか。夜間の避難訓練に懐中電灯は欠かせない。日頃から懐中電灯がどこに置いてあるか、把握しておく必要性を感じていた。
いまの職場は全日制のため、夜間の避難訓練はしないが、日中の避難訓練は年に2回程度実施される。万が一に備えた災害備蓄もしている。災害備蓄品を入学時に購入して、使わなければ卒業時に生徒に渡す。災害備蓄の担当者に備蓄内容を聞いてみた。すると、一日分の食料(ご飯と缶詰)、水、簡易トイレ程度とのこと。「翌日には帰る(保護者に引き渡す)」想定での備蓄だった。備蓄品に生理用品はなかったため、女性職員トイレに生理用品の備蓄があることを担当者に伝えた(保健室にも生理用品の予備はあるが)。
県立学校は地域によって、地域住民の避難所として使われるところもあれば避難所とはならないところもある。本校は地域住民の避難所に指定されている。場所は貸すが、運営は市町村になる。市町村の運営に県立学校の職員が口を出せるのか定かではないが、施設を貸し出すなら、避難してきた人が安心して心地よく生活できるような避難所運営に助力したい。
100年ほどその風景が変わっていないと言われる日本の避難所。不衛生で少ない基数のトイレ、冷たい食事、床に雑魚寝。欧米との差が大きいと言われていて、避難所で亡くなる災害関連死も多い。そこで最近注目されているのが、「TKB48」だ。「TKB48」とは、「T(快適で十分な数のトイレ)、K(キッチン=温かい食事)、B(簡易ベッド)を48時間以内に整備」を表す(決して「坂道」の仲間ではない)。日本と同じ地震国のイタリアに学んでいるらしい。
工事現場などで使われることの多い日本の仮設トイレは、その多くが和式で高齢者にとっては使いづらい。快適な洋式トイレの普及が大きな課題の一つという。バリアフリーの視点が必要なところだ。また、おにぎりや弁当が中心となる食事は、冷たいものが多くなり栄養への偏りも心配になる。イタリアでは自治体が大きなキッチンカーを持っているらしく、温かい食事の提供が可能だそうだ。
床に直接雑魚寝するのも、ほこりや雑菌を吸い込みやすく避難所での感染症を広げる要因になるとのこと。段ボールベッドの普及・備蓄が急がれる。
加えて、空調の整備も必要だ。学校の体育館はまだまだエアコンが設置されていないところが多い。夏は暑く、冬は寒い。温かい食事と簡易ベッドがあっても、酷暑・極寒では心も体も疲弊してしまう。防衛費にお金をかけるならそのお金を防災備蓄・防災設備に回した方がいい。
前回のコラムでは避難所運営にジェンダーの視点が必要だという話を書いたが、『週刊金曜日』2024年の3月8日号ではセクシシャル・マイノリティへの配慮についても触れられていた。セクシャル・マイノリティへの無理解や偏見から、困難や我慢が強いられている状況は東日本大震災以降、指摘されてきたという。災害対応にも性的指向・性自認の視点が欠かせない。
『週刊金曜日』で指摘されていたセクシャル・マイノリティの方の困難の例をいくつか挙げると、「避難所に届いた支援物資が登録されている性別ごとに配布されたため、性自認にもとづく肌着や衣服などを入手することができなかった」「避難所のトイレは男女分けのものしかなく、見た目の性と性自認が不一致であったため利用しにくかった」「避難所で同性パートナーの所在を確認しようとしたところ、親族でないことを理由に情報提供を拒まれ確認できなかった」「復興支援住宅に同性パートナーとの入居を申し込んだが、親族ではないことを理由に共同での入居を断られた」などだ。
2023年4月9日の共同通信の記事によると、内閣府の調査で「21年度に災害救助法が適用された130市町村のうち、地域防災計画や避難所運営マニュアルなどにLGBTQなど性的少数者への配慮を盛り込んでいるのが約14%の18にとどまる」という。ジェンダーの視点が平時から必要になるのと同様に、セクシャル・マイノリティの理解・視点も平時から必要だ。また、外国にルーツのある方々が住む地域も増えてきているため、地域によっては多言語の対応も求められるだろう。日常の取り組み方が非常時に現れる。各自治体の防災計画や職員対応マニュアルが、様々な多様性を受容し誰一人取り残さないきめ細やかな内容となっているか、平時からチェックしておきたい。