今年のカーニバルは早い。今は2月の第二週に入る週末で、カーニバルの真っ最中なので、街のあちこちでいつものコスプレ人間がうようよ。ここ数日は毎夜、近所からパーティーのクラブミュージックの爆音が聞こえてくる。コロナ禍もすっかり明けて、皆が自由に騒げるようになったのはいいことだけど、我が家は子どもが幼稚園で流行っているという胃腸性の風邪をもらってきてダウンしているので、友人たちとの予定はキャンセルしておとなしくしている。おそらく幼稚園のカーニバルパーティーのおやつビュッフェで拾ってきたとみた。この週末、遊ぶ約束をしていた同じクラスのお友達のママからも、うちも同じくダウンした、と苦笑マーク付きのメッセージが返ってきた。
さて、今週はこんな感じで皆さん楽しく街に繰り出して大騒ぎしているけれど、1月は別の理由で人々が街に繰り出していた。1月初旬に「コレクティフ」という調査報道団体が「昨年11月に極右政党であるAfD党の幹部や連邦議会員が集まった場で、違う人種の移民たちをアフリカへ移住させるという『移民の大量追放計画』が発表された」と報道し、かねてから現行の移民政策に反対し、排斥主義と批判されてきたAfD党や排斥主義者たちへの非難が一気に高まり、極右に反対し民主主義を守るというモットーの反対運動とデモが全国各地で大規模に行われていたのだ。毎週末、総計で数十万から90万人くらいの参加者があったという。連邦政府や政権も、民主主義を守り、極右に断固反対のメッセージを発しつつも、この極右政党が拡大する一因は自らの連立政権がうまくいっていないことだと認めているという。まあ、そうだろうね……。一因というより、主因だと思うよ。
そうした中で最近、偶然目にした『「性加害告発」「セクシー田中さん問題」で露呈したメディアのダブスタ…その先に待つ“恐ろしい未来”とは?(ダイアモンド・オンライン掲載)』の記事文中の『二つのムーブメントの行く末「トランプ誕生」直前の空気に酷似』にハッとした。ここではアメリカの状況と照らし合わせているのだが、これはドイツ、または世界中で起きている傾向だと思ったからだ。
何十万人もの参加者のデモで世論を盛り上げている、極右への反対運動だが、私の周りではこれについての意見が二つに分かれている。一つは、民主主義を守るための行動として当然!と支持するもの、もう一つは、極右を支持してはいないものの、しかしこの世論の盛り上がりを醒めた目でみているものである。その醒めた目線の理由はまさにこの記事で指摘されている、政治とメディアへの不信でしかない。そしてこの不信こそがおそらく、極右の支持者に共通しているものであり、メディアと与党や世論が極右を非難すればするほど、かえって彼らの不信感はいっそう強くなり、極右への支持が強く、増えていく、という悪循環に陥っていると思う。とはいえ、極右への反対者の多くにも、極右の支持者にも共通しているのは現連立政権への不満と不信だというおかしな事実もあるのだけど……。
この政権になってからの2年、戦争が起こり、インフレが起こり、それらを司る連立政権の中での対立や齟齬を見せつけられ、何ひとつうまく機能しているといえない矛盾だらけの政治を擁護する声(プーチンのせいだとか、環境のためだとか)はたまにあっても、褒める声は聞いたことがない。しかしながら、その政権や政党の代わりになる大きな受け皿がAfDという極右政党しかないという、なんとも歯がゆい現状なのである。報道によれば大規模な極右への反対デモが毎週のように全国各地で開催されているにもかかわらず、もとからAfDの支持者が多いザクセン州では、今も変わらず支持者や入党者が増えており、ザクセン州ではこの党の州首相が生まれる可能性が大きいという状況だ。これが示すのはつまり、そこではメディアの発信する情報など、まったく信用されていないということだ。この傾向が強く出ているのがザクセン、テューリンゲン、ブランデンブルグといった旧東ドイツ側の州であり、すると「元々東独の人間は共産主義、独裁主義で教育されてきたから」などと揶揄する声が西側で育ってきた人たちの間からは出るのだが、それもまた、悲しいかな、西側のフィルターを通してでしか見えていない世界だなと、さらに外側で育った私には思えてしまう。
一年ほど前のこと、とある取材のインタビュー起こしでAfD党やその他の極右と言われる政党の人たちの話を聞く機会があった。そこに収められていた彼らの主張は、それまで私が抱いていた印象を覆される、そしてこちらが戸惑うくらい、私がそれまでマスコミを通して知っていた情報とは違っていた。実際、そのAfD党員は、しばらく前に受けた全国テレビニュースの取材で自分の話が大幅にカットされ、違う主張になっていたと大きなため息をつきながら話していた。
私はものすごく混乱した。私が今、目の前で見ているものはいったい何だろう?ちなみにそのうちの何人かの話では、オフィスのドアや壁には何度も「差別主義者!」と真っ赤なペンキでいたずら書きがされ、車の窓ガラスが破られ、脅迫の手紙が届いていたという。彼らが本当に犯罪者であるかどうかは法が裁くべきことであって、一般の人間が個人的に制裁を与えていいわけではない。それこそ不法であるが、それは報道されない。しかもその話を周りにすれば、それはむしろ当然の報いだと「反・極右」の人たちが言ったりするのである。えええ? それでは同じ穴のムジナじゃないか。
もちろん、彼らの中にはいわゆる過激派のような危険な人たちもいる。それは本当だと思う。が、それが党全体がそうなのかというと、特にこの取材で見聞きした後ではそうとは思えなかったし、マスメディアの情報操作については別の件でもこの数年感じてきたことであったから、今回の件についても、マスコミで流れてくる情報をそのまま受け取る気がしないのだ。そもそも、本当に党全体が、そして支持者たちが皆、排斥主義者であるなら、この国はとっくに内戦状態に陥っているだろう。
それよりも、ではどうしてそんなに多くの人が、この政党の支持に回っているのか? その原因を突き詰め、徹底して議論することが必須のはずだ。この支持者たちが求めていることは単に移民や難民の「追放」ではなく、例えば実際に犯罪を起こしたり前科があったりする移民や難民を本国に返還しない国の政策についての疑問、そして怯える人も多くいるという現実のなかで納得のいく説明や対応がなされない状況への不満であるかもしれない。それは単なる人種差別主義と一緒くたにされていいものだろうか?
政治やマスコミが自らの失態を隠すためにダブスタを繰り返すならば、極右政党へ支持が集まるこの流れは止まることがないだろう。
さて2月に入り、「この会合で話されたことや状況の事実は報道とは異なる」という、この会議室を貸した家主のインタビューがスイスの新聞記事から出た。このスキャンダルをすっぱ抜いたとされるメディア団体「コレクティフ」の捏造の可能性もここでは指摘されているが、「コレクティフ」は取材者の安全保障を理由に回答していない。日本では舛添要一氏が毎日新聞での記事で「これはショルツ政権が仕組んだという話もある」と書いていて、舛添氏はいったいどこからその情報を得たのだろう? と驚いたけど、ドイツでは以降、この話題はそれほど大きくなっていない。とはいえ、迫るザクセン州での選挙や、AfD党以外の保守や極左の台頭とか、ドイツの政治は今年、大荒れになりそうで、年明け早々、おもーい気持ちになったりするのだった。楽しい話題、ないかなあ……。
©️ Aki Nakazawa
我が地区のカーニバルの行列は、カーニバルの最終日。友人たちと繰り出して、子どもも大人も、山車から降ってくるお菓子や花をつかんでは大騒ぎ。流れてくる「ダサい」昔の王道ポップやロックの音楽に合わせて踊りつつ、ダサいなあ、くだらないなあと思いながらもワイワイやるのは、やっぱり楽しかったです! 人生にはくだらない、そんな時間も必要だよね! なんて……。でもそれこそが幸せ、なのかもしれません。