能登半島沖地震から1ヵ月半になる。阪神・淡路大震災の時も、東日本大震災の時も、熊本地震の時も、性暴力被害や避難所での女性の生活のしづらさなどが問題視されていた。今回の地震でも、避難所での女性の困りごとが浮き彫りになっている。
高校の教員として、もし筆者の勤務している高校が避難所になった場合、どうすれば女性が安心して避難所生活を送ることができるのか考えてみた。
最初に挙げられるのは、避難所開設時の問題とその対策だ。避難所でのプライバシーや衛生問題等についてが開設時に問題となる。プライバシーが守られる空間が確保されず、着替えをするにも授乳をするにも苦労されたというケースが報道されていた。男女別の更衣室、授乳室に使える個室があれば、避難者は安心して更衣・授乳ができるし、人が着替えている様子を目にしなくて済む。
男女別トイレの設置は当たり前だが、足腰の弱った高齢者のことも考えて、和式だけではなく洋式トイレ、介助者も入れる多目的トイレの設置も必要だろう。子どもや女性が昼夜を問わず安心してトイレを使える場所に設置し、暗い場所には照明をつける。便器の基数は、女性:男性は3:1が避難所の世界標準らしい。女性用トイレに長蛇の列ができないためにも、女性用トイレの数を十分に確保したい。
当然のことながら、使った後のトイレ掃除は男女がそれぞれ行う必要がある。高校では普段から、生徒は男女問わずトイレ掃除を行っているが、自宅のトイレ掃除を行っているのは誰だろうかと考えると、母親が多いのではないかと想像してしまう。
一人暮らしなら自分でトイレ掃除をするだろうが、既婚男性が果たしてどのくらいトイレ掃除をしているだろうか。日頃からトイレ掃除をし慣れていないと、いざという時に当たり前に行動に移せないのではないか。そういえば、男性がトイレ掃除をしているCMには滅多にお目にかからない。トイレ掃除をしている女性が困っているところに、専門家風の男性が蘊蓄を披露する(商品の効能を説明する)というパターンはCMでよく見かけるが、中高年男性がトイレ掃除で困っていて女性の専門家がアドバイスするというケースはほとんど見たことがない。トイレ掃除をしている男性の姿を日ごろから目にすれば、家庭内のジェンダー平等も進み、いざというときの災害時にもその家事能力が発揮されるだろうに。
仮設の入浴場も当然男女別にして、隣り合わせではなく少し離して設置する方が良いだろう。女性たちが安心して利用するためには、交代での見張りや複数での利用など、運用面にも配慮が求められる。防犯ブザーや笛が配布できれば、万が一の時に周りの人が気づくことができる。洗濯場と物干し場も男女別にして、特に物干し場は外から見えないようにする工夫が必要だ。
続いて、避難所開設後の運営管理の問題だ。女性リーダーがいなかったので、女性ならではの悩みを言えなかったり、性暴力被害を含む様々な暴力が発生し、子どもや女性が被害にあったりと、ジェンダーの視点の欠如による問題も多々起こっているようだ。女性用品や育児・介護用品などがスムーズに供給されない避難所の運用面での問題も報道されていた。避難所での物資担当者が男性しかいなくて、生理用品や下着・授乳に関わる物資等、女性が要望を出しづらいケースもあったという。
避難生活の困りごとを解決するには、女性のリーダーの存在が欠かせない。自主防災組織や自治会の役員に女性がいないと、避難所の運営に女性の入る余地がそもそもないという恐れがある。
区長や隣保班長など、各地域の自治組織の役員に女性が少なくとも3割を占めて、防災訓練や防災備蓄に女性の意見反映がなされるようにする。女性のリーダーが一定数入れば、女性専用の相談窓口を設置することもできる。困り事のある女性は遠慮せずに要望することができて、その要望を受け止めて安全安心な避難所運営に生かすことができる。高校の防災避難訓練も、かつては「救護班は女子、搬出は男子」などと性別役割分業じみた役割分担があったが、今ではそんな役割分担の仕方をしていない。避難生活のルールや役割分担、巡回や食事作り等の各種当番決め等、性別に関係なく女性も男性も、若者も年配者も様々な世代が協力して避難所の運営に関わることで、一部の人にしわ寄せが行くのではなく、お互いに助け合いながらの避難所生活ができる。
防災備蓄品にどんな物資を確保しておくのかも、女性のリーダーの視点が欠かせない。生理用品、鏡、化粧品、ヘアブラシ、オムツ、おしりふき、ミルク、哺乳瓶、離乳食等、男性が日頃あまり使わないような品々は、備蓄品として認知されづらいかもしれない。子育て・介護をしている男性は気づくことができるかもしれないが。
女性の防災リーダーを育成していくことも大切だ。女性の防災士を育てることも必要だろうし、避難所運営訓練の段階で、女性を積極的にリーダーとして位置づけることも大事だろう。炊き出しを女性だけに担わせるような防災訓練はもってのほかだ。訓練の段階から、男女問わず様々な役割分担をしておきたい。
熊本地震では、避難所において女性の要望や意見が重視されない傾向にあったことが報告されているとのこと。女性が意見や要望を言うと避難所にいづらくなるのではという不安から、要望等を我慢する傾向があったらしく、責任者に女性も参画することが求められている。
避難者の中には、配偶者からの暴力、ストーカー行為、児童虐待の被害を受ける恐れがある方が含まれている場合もあるので、個人情報の管理を特に徹底しなければならない。これらのケースに対応するのも、女性リーダーの存在が不可欠だ。
避難所の開設後は、早期に避難者等の自治的な運営に移行することが大切だという。もし、勤務している学校が避難所になったら、避難女性たちが安全安心して生活していけるよう、ジェンダーの視点で避難所運営を軌道に乗せてから、自治的な運営に移行したい。