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「見下されている気がします」

牧野雅子2017.02.03

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 過去の新聞を調べていたら、こんな記事が目に留まった。2001年9月11日付の朝日新聞。東京に住む15歳の女子高校生からの投稿だ。

 「見下されている気がします」
 私は中学から女子校に通っています。校則ではゲームセンターもカラオケもだめ。校則をすべて守っている子はいないと思います。ではなぜいけないのか。先生たちはおっしゃいます。あなたたちは女性なんだから、と。そこに隠されている言葉は性犯罪です。痴漢対策としてはこうおっしゃいます。制服をきちんと着れば大丈夫だと。
 私は制服をきちんと着ています。それなのに何回も痴漢にあったし、ナンパもされました。なんか、おかしいですよね。なぜ被害者になってしまう側が我慢したり、対策を与えられるのでしょう。
 本当に必要なのは、加害者が増えないようにする対策ではないでしょうか。男女平等といってもまだ、女性は見下されているような気がしてなりません。男性が女性に被害を与えているのに、男性に守られるなんて変です。


 その通りだっ! と思った。ホントにホントに、まったくもってその通り。この投稿は、今から15年も前に掲載されたものだけれど、15年たっても状況は全然変わっていない、どころか、もっと女性が(ってことは、被害に遭う方がってことだ)気を付けろ、女性が気を付けないから「性犯罪」が起こるんだ、というメッセージがお上からアナウンスされる昨今だ。
 投稿者に申し訳ないという気持ちで一杯になる。15歳の高校生に、何度も被害に遭わせ、こんなことを考えさせ、おかしいと発言させているのは、わたしたち大人だ。だれも、彼女を守らなかった。それどころか、この声に応えることなく、状況を放置し、もっと酷くさせている。

 投稿から推察するに、被害に遭わないように気を付けろと言っているのは、男性教師なんだろう。こうした注意を与えるのは、生徒を守るためだと、言ってもいるのだろう。投稿者は、言われるまでもなく、制服をきちんと着ている。それでも被害に遭っている。教師の指導が全く的を射ていないことを、日々実感している。なのに、制服をきちんと着ていれば被害に遭わないと教師が言い続けられるのはなぜなんだろう。当事者の言葉を聞かず、被害者の現実を見ないでいられるのはなぜなんだろう。まるで、自分たちの思う「性犯罪」や「被害者」以外は犯罪被害ではないかのようだ。

 性暴力自体をなくしたいのなら、被害の現実を直視し、当事者の声に耳を傾けるのが筋だろう。そこから、対策を考えるのが筋だろう。けれど、実際にはそうではない。管理する側が、自分たちの考えの枠の中だけで「性犯罪」や「被害者」を定義し、それに該当しないものは排除して、当事者の責任に帰せる。制服をきちんと着ても被害に遭ったという事実も、被害に遭ったのだから服装の着方に乱れがあったにちがいない、という思い込みによって、現実がゆがめられてしまう。それは、あなたたちの実感や現実は取るに足らないもの、わたしたちに従いなさい、と言っているのと同じだ。支配と同じだ。そのコントロールで行使される力と、加害者が振るう力は、たぶん、かなり近い。
 女性を萎縮させ、男に力があることを認知させ、女性の行動を制限し、女性から主体性を奪う、それもまた、暴力だ。それが女性を「守る」という名目で行われている。それは、性暴力をなくしたいのではなく、被害に遭わないようにしたいのでもないってことなのではないのか。性犯罪をネタに、自分たちの力を誇示したい、性犯罪防止という名目を使って女性をコントロールをしたいってことなのではないのか。

 女は被害に遭い、助けを求めるしかない、のか? 女は被害に遭わないように男から逃げるしかない、のか? あるいは、加害者と同じ「男」のアドバイスに従い、女が自衛するしかない、のか?

 男が女に加害し、男がそれから守る。この構造、男たちの中で行われているパワーゲームと見てはいけないだろうか。女をめぐって、加害する/守る に別れて行われるゲーム。女に暴力を振るった男を違う男が追いかけるゲーム。女をある種の男から守るゲーム。女をめぐってどちらの力が強いかを競うゲーム。そこでは女性は、主体性など与えられてはいない。どちらの男に従うかの選択肢しか与えられていない。その選択を主体性というのなら、あなたは既に暴力を振るっている。
 時々、性犯罪(者)に対して怒っている男性に違和感を覚えることがある。性犯罪をネタに、男の中でマウントを取り合ってる感じがするからだ。被害当事者はそっちのけで、どうしたら性暴力をなくせるかの議論もそっちのけで、男対男の力の振るい合いになっている感じ。そこでは、女は道具。女を思い通りに出来るのも「男」なら、女を守るのも「男」。そのどちらにも、女性に対する敬意もなければ、主体性の尊重もない。
 性犯罪から女性を守るのが仕事のはず人たちが、部内の女性に酷い性暴力を振るったというニュースを目にするけれど、これもまた、男たちの中で行われるゲームだと思えば、そういうことが起きているのも納得出来てしまう。

 当時15歳の投稿者は見抜いている。この投稿から15年。彼女は今、何を考えているだろう。何を思っているだろう。

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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