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映画・ドラマに映る韓国女性のリアル (11) 一人暮らしが増える韓国、映画「シングル・イン・ソウル」

成川彩2023.11.27

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近年、韓国では一人暮らし世帯が増えている。韓国で11月29日公開の「シングル・イン・ソウル」(パク・ボムス監督)はシングル・ライフがテーマの映画だ。「一人がいいけど、恋愛はしたい」男女を描いた。

人口約5200万人の韓国の一人暮らし世帯は年々増えて、じきに1000世帯を超えると言われている。全世帯数の41%を占める。昨年の韓国の合計特殊出生率は0.78という驚異的に低い数値だったが、結婚、出産が減っているだけでなく、恋愛もしない若者が増えているようだ。今年6月、「韓国日報」が2001~2004年生まれの若者を対象に行った調査では、74%が「現在交際相手がいない」と答えた。理由としては、複数回答で最も多かったのが「適当な相手がいないから」(86.1%)で、「一人の自由を楽しみたい」と答えた女性は82.1%、男性が69.9%に上った。「シングル・イン・ソウル」は今の韓国をそのまま映し出している。

 「シングル・イン・ソウル」は映画の中で主人公ヨンホ(イ・ドンウク)が書くエッセイのタイトルでもある。その編集者がもう一人の主人公ヒョンジン(イム・スジョン)だ。二人を含む主要登場人物のほとんどがシングルで、パク監督は「ソウルに暮らす様々なシングルの姿を描いた」と話す。

イ・ドンウクとイム・スジョンは以前、数分の共演経験があった。イム・スジョン主演のドラマ「恋愛ワードを入力してください~Search WWW」で、イ・ドンウクがタミ(イム・スジョン)の元カレ役で特別出演したのだが、パク監督は「二人のビジュアルにドキドキして、この二人のロマンスがもっと見たいと思った」とキャスティング理由を語った。そういえばこのドラマでタミは独身主義者で、それが元カレと別れた理由だった。近年は独身主義をテーマにした映画やドラマも増えている。

 少し前まで、韓国では一人で外食や映画館に行きにくい雰囲気があった。人目を気にして、一人なら家で、という人が多かった。韓国語で一人は「ホンジャ」で、ご飯は「パプ」、映画は「ヨンファ」。近年は一人で外食や映画館に行く人も増えてきて、「ホンパプ」「ホンヨン」という略語が登場し、よく使われる。

ヨンホは過去の苦い恋愛経験から、「一人がいい」と思っている。予備校の人気講師で、仕事が終われば豪華な「ホンパプ」を楽しむのが日常だ。イ・ドンウクは「僕自身もかなり長い間一人暮らしで、食べたい時に食べたいものを食べて、横になりたい時に横になって、ヨンホと似たような生活」と話す。ヨンホの趣味は写真。ソウルの美しい風景を切り取った写真に文章を添えてSNSにアップするインフルエンサーでもある。SNSを見た出版社の方からエッセイ執筆を依頼するが、実は作家が夢だった。

一方のヒョンジンは恋愛願望はあるが、勘違いと妄想で一人で突き進み、現実にはうまくいかない。仕事はできるが、日常生活ではかなりおっちょこちょいだ。ちぐはぐな二人が、本を作るという共同作業を通して心を通わせていく。

ヨンホのセリフに「一人になって初めて見える。自分が誰なのか」という言葉があった。恋愛中は相手に合わせようと必死で自分の好みも何も見えなくなっていたのが、一人になって自分と向き合えるようになった、という意味だ。だけども、実は恋愛中でも、結婚したって、自分と向き合うことは可能だ。大事なのは恋愛や結婚に依存せず、「自分の足で立つこと」。自分と向き合えない人は、他人ともきちんと向き合えない。ヨンホの過去の恋愛の失敗は、まさにそれが原因だった。

映画の中でヨンホとヒョンジンのストーリーに出版社での本作りが絡むのは、「一人のようで一人じゃない」ということを感じさせた。ヨンホが一人でエッセイを書いているようでも、その本を出すには編集や校正、デザイン、レイアウトなど出版社のスタッフみんなが関わっている。シングル・ライフを描きながら、人と人との関係性を感じさせる映画だった。一人暮らしでも、一人で生きているわけではない。

ヒョンジンが務める出版社では「シングル・イン・〇〇」というシリーズを企画していて、ソウル編以外にもバルセロナ編がある。‘ホン作家’(イ・ソム)と呼ばれるバルセロナ在住の韓国人女性が書く。これは映画の中の話だが、実際にも、映画「シングル・イン・ソウル」の制作会社「ミョンフィルム」は世界各国のリメイク映画「シングル・イン・〇〇」企画を進めようとしている。世界各国のシングル・ライフはどんなものか、ぜひ見てみたい。

©2023 LOTTE ENTERTAINMENT

 

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成川彩

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。2017年から韓国に渡り、ソウルの東国大学大学院で韓国映画について学びつつ、フリーのライターとして共同通信、中央日報など日韓の様々なメディアに執筆。2020年からKBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」で韓国の本と映画を紹介している。2020年、韓国でエッセイ『どこにいても、私は私らしく(어디에 있든 나는 나답게)』出版。

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