連合の地方の定期大会に初めて出席した。同じ労組の執行委員で「女性特別代議員」として前回まで出席していた人が体調不良で出席できないため、その女性の代わりに「女性特別代議員」としての出席を依頼された。定期大会は平日の朝10時から夕方5時まで行われるため、有給休暇を丸一日取得しての参加だった。
会場のホテルの受付で並んでいると、一般の代議員と女性特別代議員の受付の列が違うと言われ、女性特別代議員の受付の列に並び直して順番を待った。順番が来て受付で代議員証を受け取ると、なぜかピンクの用紙に印刷された代議員証だった。他の代議員は黄色の代議員証のようだが、「女性」特別代議員だからピンクなのか? 連合はいまだにそんな色分けをしているのか、やれやれ…とため息をつきながら会場に入った。
連合には加盟する労働組合が様々あり、自治労や自動車関連労組、JP労組、電力総連、JR連合、メディア労組等々、30を超える労組が出席していた。大会代議員数は各労組組合員の人数に応じており、組合員の多い数十人の代議員の労組から、組合員の少ない数人の代議員の労組、代議員が1人の労組まで様々だった。女性特別代議員は各労組に1人だった。女性の参画率を上げるため、形式上各労組に女性特別代議員を1人設けているだけに見えた。女性の構成比率を鑑みれば、もっと沢山の女性の出席を求めるべきだろう。
会場の座席は労組ごとに指定されていたため、日教組の座席を探して座ろうとしたところ会場係の方から「女性特別代議員は会場の一番後ろ、傍聴席の隣ですよ」と案内された。会場には4人がけの長テーブルが縦に10列、横に7列ほど並べられていて、それぞれの列の1番後ろの列が特別代議員の席になっていた。隣に傍聴席があった。この座席配置、女性の意見を聞く気はないという印象を受けた。日教組以外の労組から出席している女性特別会員の方が、既に何人か最後列に座っていた。「女性特別代議員」とくくられているだけで、最後列のどの座席にどの労組の女性特別会員が座っているか全くわからない。女性特別代議員の席に、座席指定はなかった。
まず、資格確認が行われた。「代議員数〇〇人のうち、出席者数〇〇人、委任状○○人…、女性特別代議員数○○人のうち、出席者数○人…」。傍聴席の隣に座らされ、代議員の数には入らない別枠の特別代議員という位置づけ。女性特別代議員に定期大会での発言権はあるのか、議決権はあるのか、わからないまま大会は始まった。
議長が提案内容に質疑・意見のある場合の発言の仕方について説明した。質疑・意見のある人は、議長が気づきやすいように議案書を高く掲げて「議長〜」と大きな声で発言を求めるようにとのことだった。執行部や代議員等合わせて300人以上いる広い会場で発言するのはためらわれるなぁ…などと思いながら座っていた。同じ労組からの出席は数人。しかも、傍聴席の隣の女性特別代議員の席だと、周りは知らない人たちばかり。だが、この屈辱的な座席に追いやられている女性特別代議員の気持ちは、女性特別代議員の席に座らされた人にしかわからない。わざわざ有給休暇をとって出席してこの扱い。この差別性を指摘せずにはいられない。ここは一つ勇気を出して発言するしかない。議案のどこで発言するか、そのタイミングを見計らった。
すると、大会要項について質疑のある人が発言をした。「要項の中に『大会当日は、役員はネクタイ着用とする』という文言があるが、女性の役員はいないという前提なのか」という指摘だった。その発言を受けて、関連した質疑として発言した。「会場の最後列の、傍聴席の隣の、この差別的な座席に座らされて、朝から非常に不愉快な思いでこの会場にいます。出席されている女性特別代議員の皆さん、ご自身の出身労組の仲間の隣の席で、一緒に議案審議に参加したいと思いませんか」。
発言の後、会場がざわついた。どよめいたと言ったほうがいいかもしれない。後から聞いた話によると、いままで女性特別代議員の座席が最後列に一列なっていることに誰も疑問を抱いていなかったということ。言われてみればその通りだと、目から鱗が落ちた反応だったそうだ。
その後の休憩時間に、見ず知らずの女性代議員の方から複数声をかけられた。気づいていても声に出せなかった女性代議員も多かったようだった。これまでに何度も連合の定期大会に出席していた同じ労組の男性組合員からは「女性特別代議員の座席位置の差別性について、指摘されるまで全く気づきませんでした」と言われた。「足を踏んでる人には、踏まれている人の痛みはわからないってこと」と返した。休憩時間の間に、次回の定期大会から女性特別代議員の座席位置を変える話になったらしい。勇気を振り絞って発言してよかった。
休憩時間の後、議案はこれまでの総括から今後の方針へと移った。当日渡された分厚い議案書の方針案を急いで読み進める。重点分野に「ジェンダー平等」についての記載があった。「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の自覚を促す取り組みを推進するとともに、ジェンダー・バイアス、固定的性別役割分担意識を払拭する…云々」「女性の意思決定機関への参画を促進し、… 『ジェンダー主流化』を推進する」などと書いてある。そのために年に数回学習会を開催すると説明があった。
これは逃してはならないと質疑・意見に立った。「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の自覚を流す取り組みの推進、ジェンダー主流化、大いに期待しています。ただ年に数回の学習会をして終わりではなく、意思決定の場に女性がいるかどうか、そしてすべての運動・取り組みをジェンダーの視点でチェックしていただきたい。このあと出てくる予算についても然り。女性にも予算が使われているかどうか、ジェンダーの視点でチェックしていただきたい。もし意思決定の場に女性がいたら、先程の大会要項の『大会当日は、役員はネクタイ着用とする』の記述は削除した方が良いのではありませんかと、指摘できたはずです。ジェンダーの視点でチェックできていたなら、女性特別代議員の座席は、最後列に一列では良くないと思いますといった発言があったはずです。ぜひとも、すべての運動・取り組みをジェンダーの視点でチェックして執行していくようお願いします」。
これに対して執行部からコメントがあった。「ジェンダー平等については学習会などを通して進めていきたいが、ジェンダーの視点はなかなか難しくてよくわからない…云々」。すかさず追加で意見した。「ジェンダーの視点でチェックするのが難しければ、男女を入れ替えて考えてみればいいんです。男女入れ替えて考えたとき、なんだか違和感があれば、そこに差別がある、平等にする必要があるということに気づきます」。
その後、閉会行事に移った。新執行部の役員が会場の前列に一列に並んだ。女性は1人か2人。大半が男性だった。岸田内閣よりも格段に女性の役員は少なかった。この光景を「男女入れ替えて考えた」代議員は多かったらしい。定期大会が終わった後、役員による懇親会の場で筆者の発言が話題になったと同じ労組の仲間から聞いた。最後列の差別的な座席に女性を座らせるような大会、二度と出席するもんかと思っていたが、女性特別代議員の座席位置が変わった様子を見届けなければならなくなった。次回の定期大会にも出席するしかなさそうだ。