8月のコラムで『あなた、その川を渡らないで』の映画について書いたところ、読者からメールをいただきました。映画を観た方、観られなかった方、どんな感想をもたれたでしょう? 以下、原文ママをご紹介します(ご本人の了解を得ています)
(具さんへ) 「本当の愛」
老夫婦のあたたかい姿・・・
確かにこうなれる人が居たらすてきだとおもう。
あたしも昔は愛さえあれば何とかなる!なんて思って結婚したけど・・・そんなの通用しないって思ったな
自分はこのお金で買われて一生終るのか・・って
本当の愛なんて ずっとはないと思う
先立たれてあの世でも服が着れるようにと服をもやす・・・
どこまでも人を許せるような寛大な心がないと
どこまでも人に尽くす優しさがないと
どこまでも相手を思い合える心がないと
その老夫婦のようにはいかないよ
愛なんて期待しない
人生にも期待しない
あぁあ!今日は気分が良くない
家出しようかな(笑)
最後の2行は、なんだか、とてもいいなあ~って思いながら読みました。
「本物の愛」ってなんだろうなあ!? と自分への問いかけもこめて書いたコラムでしたが、こんな反応がくるとは思っていませんでした。なんだかうれしい。
このメール送信者は映画を観ていないそうで、ちょっと驚き。私はてっきり、観たから書いてくれたのだと思ったんだけど。そして実は、クライエントのRさんからだったとわかりました。
「私のこと、書いてもいいよ」と言ってくれたけれど、そう簡単には書けないことばかりだよ。でも・・・どうしてこんなメールを書きたくなったのか、彼女のために少しだけ、書こうかなと思います。
Rさんは30代半ば。両親はDVで、暴力(虐待)が日常茶飯事の家族の中で育ちました。「どんな家族だったの?」と聞くと、いつも誰かがケンカしていた、といいます。
子どもは親を選べません。親からどんなに身勝手な暴力をふるわれても、虐待を受けても、そこで生きるしかありません。
Rさんは、そんな暴力的な家庭環境の中で生き延びてきました。そして、18歳で家から、親から、脱出します。高校を卒業・就職したと同時に車を買って、「難民高校生」ならぬ「難民生活」を始めています。何年も、車での生活を送りました。とにかく家を出たかったから。仕事をしてお金を稼ぐことができるようになったから。
初めて聞いたときは驚きでした。信じられないよ。夏だって、冬だって、危険だってあるよ、どうしていたの? 考えられないような生活に違いないけど、彼女は自分の意思でその生活を選んで生きようとしたのです。
震災などでやむなく車上避難を強いられても、どれほど耐えられないことだろうと思うのに。
一人で生きるには、まだ十分な社会性や情報をもっているとはいえない18歳の少女でした。そんなRさんの異常ともいえる生活に、親はもちろん周囲のおとなや社会が、誰も気がつかなかったとも思えないのですが。
「愛さえあれば」と、期待した結婚だったのに・・・。
そういうRさんの現在の苦痛は、夫からのDV。そこからどう抜け出すのか?
複雑性PTSDの症状も深刻です。
壮絶な暴力のトラウマには、ODもリスカも現実逃避のために必要な手段だった。「すっとするんだよね」って言ったよね。そう、その感覚がほしかった。シラフではやってらんない現実、その苦痛に耐えるために解離してきたんだと思う。回避や感覚を麻痺させてやりぬいてきたけど、それが徐々に溶けてきたから、現実感覚を取り戻し始めると、逆にその苦痛ともまともに向き合わないといけなくなっちゃう。号泣できるようになったのもその証拠。楽になりたいのに、難しいね・・・。
虐待とDV、ほかの要因も潜んでいて、そのトラウマカウンセリングに私も手探りで格闘している最中です。
(Rさんへ) 「あなた自身のための愛」
「あなたはそのお金で一生買われて終わることはない」よね。
「人を許すことも、
尽くす優しさも、
自分を犠牲にしてすることじゃない」と思うよ。
映画のあの老夫婦は確かにステキな人たちだった。
どこまでも相手を思いあえる、そんな人に出会ったから。
そこはうらやましいよね。
「愛なんて期待しない」
「人生にも期待しない」
でも、ほんとは期待したい、そんな気持ちの裏返しに聞こえるよ。
誰かからもらう愛に期待する?
自分を愛するのは好きなだけ自分でしてもいい。
あなたの人生なんだもの。
どんなふうに愛していいかわからないから、迷ってしまう・・
気分がよくなったら、家出、しちゃう!?