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「あなたがまもる東京。」

牧野雅子2016.07.28

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 様々なニュースが流れては忘れられていく。怒りをもって見聞きしたニュースですら、あっという間に過去のものになってしまう。当事者にとってはそれが紛れもない現実で、いつまで経っても現在の問題であるにもかかわらず。そして、メディアでほとんど取り上げられることのない、いや、違う、「本土の」メディアではほとんど取り上げられることのないニュースがある。
 沖縄・高江ヘリパッド建設問題。米軍のヘリコプター発着場工事を強行するために、機動隊が市民を「排除」する映像を、見た。それは暴力に他ならないと、思った。
 機動隊員は、全国から派遣されていて、その数は500人に上るという。出動服に身を包んだ、屈強な男性警察官たち。沖縄の豊かな緑にあまりにも不釣り合いな、警視庁の車両も映されていた。わざわざ東京から車両を運んでまで振るわれる暴力。
 けれど、きっと彼らはそれを暴力だとは思っていない。命令に忠実で正当な職務執行。誇りと使命感を持って、それは行われているのだろう。その時のために訓練を受けてきたのだから。その時のために、集められた人たちなのだから。

 昨年の8月30日、安保法案に反対する12万人(主催者発表)の人たちと共に国会前にいた、その時のことを思い出す。
 女性たちのグループに合流するつもりで、目印の建物に向かって歩道を歩いていたとき、人の流れが大きく変わった。デモに参加する人たちが車道に出ないようにと警察によって設置されていた柵が、「決壊」した瞬間だった。
 車道に出ようとする人たちの流れと、そこにとどまろうとする人たちとに挟まれ、わたしの体が渦に巻き込まれたような状態になった。腕が引っ張られ、足が払われて体が傾いた。ふくらはぎが地面についた感覚があったと思ったら、顔の前に男性のお尻が迫っていて(ああ!)、これはもう、踏まれるか下敷きになるかだと、最悪を覚悟した。
 以前から、柵が設置されている方が危険だと、狭い所に大勢の人たちを無理やり押し込める規制方法には問題があると、指摘されていた。
 わたしの目の前といってもいいほどのすぐ近くに、警察官がいた。デモに参加している人たちが柵から出ないようにと、いわば柵を守っていた警察官たちだ。軽く10人は越えていた。
 彼らはわたしを視野にとらえた筈だ。もみくちゃにされながらも、その何人かと目が合ったのを覚えている。でも、その目はわたしを見ていなかった。誰も、こちらには関心を向けなかった。見ていないのでも、見えていないのでもなく、自分の意志であえて見る対象からはずす、そんな感じ。その目に、見覚えがあった。
 今にも踏まれそうになっているわたしを抱え上げ、安全な場所に逃がしてくれたのは、警察官ではない、デモの参加者たちだった。あの状況で、わたしを踏まないでいるだけでも大変だったのに。自分たちだって危険だったのに。

 助け起こされて人の波に押し流されるようにして前に進んだその先に、国会議事堂があった。遠いと感じた。わたしたちの前には、警視庁の輸送車が楯のように停められていて、その車体越しにしか、それを視野に入れてしか、国会議事堂の建物を見ることが出来ない。警察官の姿も目に入ってしまう。中で民主主義が実現されているはずの国会議事堂が、国家の暴力装置を楯にして、わたしたちと距離をとろうとしている。
 象徴的だと思った。そこで守られているものは何なのか。主権者をそこに近寄らせないために整列する警察官たち。
 こんなに大勢の警察官が国会前に配置されていても、東京の治安に問題がないのなら、いっそのこと、予算を削ってしまえばいいのにと言いたくなる。痴漢に注意しなさいと、女性たちに自衛を強要し、あまつさえ、被害に遭った人の注意不足が問題であるように扱うのなら、痴漢が多いといわれる路線を制服姿で警戒したらどうなんだろう。そんなに警察官がいるのなら。警察官が電車に乗っていることを知ったなら、少なくとも、被害者は今よりは声をあげやすくなる。そちらの方が、ずっと市民を守ることになるんじゃないか。

 今年度の警視庁の警察官採用ポスターのキャッチコピーは、「あなたがまもる東京。」なんだそうだ。活動服と呼ばれる制服を着た男女の警察官が年配夫婦とおぼしき人と談笑している写真と相まって、志願者に東京を守っている自分という自己像を重ね合わさせ、自尊心をくすぐる。ソフトで市民に寄り添う警察組織というイメージも載せて。女性の活躍推進を掲げているだけに、女性警察官もしっかり写っている。男女の仕草に違いがあるのは、書き込まれた警察の求めるジェンダー役割を読み取れということなのだろう。
 そこには、沖縄の高江の映像で見た涙も、暴力も、叫びも、見ることは出来ない。東京を守るというその一方で、沖縄に、高江に、市民に振るわれる暴力。現実が切り離されて、隠される。それこそが、守ることなのだとしたら、なんと恐ろしいコピーだろう。

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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