映画・ドラマに映る韓国女性のリアル (10) 性犯罪をライブ配信? 映画『配信犯罪』
2023.10.26
韓国社会を震撼させた「n番部屋事件」をご存じだろうか? 2019年に明るみに出た大規模なデジタル性犯罪事件で、連日報じられる犯罪手口を見ていると、いつ誰が巻き込まれてもおかしくないと感じた。日本で10月13日に公開された映画『配信犯罪』(チェ・ジュヨン監督)では、主人公の恋人がデジタル性犯罪に巻き込まれる。
被害者が少なくとも70人を超し、「史上最悪」と言われた「n番部屋事件」。加害者、被害者の多くが10~20代だった。加害者はSNSを通じて被害者に接触し、性的な写真や動画を送るように脅迫したりして、通信アプリ「テレグラム」のチャットルームで流布し、ルーム入室料としてビットコインなどの仮想通貨を受け取っていた。
主犯格の20代の男チョ・ジュビンは児童・青少年の性保護に関する法律違反などで懲役42年の刑が確定した。デジタル性犯罪においてはかつてない厳罰だったが、それでもデジタル性犯罪は後を絶たず、模倣事件も相次いでいる。デジタル性犯罪を支えるのは、見る側の需要だ。軽い遊び心で、犯罪という認識もないまま閲覧する人が少なくない。「n番部屋事件」に閲覧者として加担した人は数十万人と言われている。
『配信犯罪』の主人公ドンジュ(パク・ソンホ)の友人たちも、隠し撮りの動画サイトを一緒に見て無邪気に楽しんでいた。それを知ったドンジュの恋人スジン(キム・ヒジョン)は怒ってドンジュに会おうとしない。ドンジュ本人が見ていたわけではないが、そんな友人とつるんでいるのも許せないのだ。スジンの誕生日なのに連絡がつかず、イライラするドンジュ。
気をもんでいる間に、遠隔操作なのか勝手にドンジュのパソコン上で隠し撮りのライブ配信が始まる。そしてそこにはスジンの姿。スジンは隠し撮りに気づいていない様子だ。どうにかスジンを助け出そうとドンジュが焦って興奮するほどに、ライブ配信のホスト‘ジェントルマン’(パク・ソンウン)はおもしろがり、コメント欄も盛り上がる。生身の人間が被害に遭っているのに視聴者はゲーム感覚で楽しんでいる。仮想と現実の境界に鈍感になっているようだ。
目の前で恋人に危険が迫るのを目撃しているようで、それはパソコン画面の中だ。ドンジュは警察に通報しようと電話をかけるが、肝心の「場所」の情報が伝えられない。観客はドンジュと一体になって焦燥感にかられる。
この映画は「警鐘」だと思った。娯楽として何の罪悪感も感じず見ている性的な動画や写真、「被害者が恋人や家族だったら?」という投げかけだ。
チェ・ジュヨン監督は女性で、『配信犯罪』は長編デビュー作。プロデューサーとしては『消された女』(イ・チョルハ監督、2016)、『共謀者たち』(キム・ホンソン監督、2012)など社会問題を扱った映画を作ってきた。『配信犯罪』に関するインタビュー記事を読めば、シナリオを書くために実際の動画コメント欄を見ながら、その内容の酷さに感情的にとてもつらかったという。それでも作ったのは、「どんな問題であれ、知らなければ予防できない」という思いからだった。
実際の「n番部屋事件」については、ドキュメンタリー映画を通して知ることができる。ネットフリックスオリジナル作品として2022年に公開された『サイバー地獄:n番部屋 ネット犯罪を暴く』(チェ・ジンソン監督)だ。実際の事件を取材した記者や捜査に携わった警察官らのインタビューなどで構成され、デジタル性犯罪を暴いていく過程が描かれた。
印象的だったのは犯罪心理学者イ・スジョン氏の「n番部屋事件は消費者がいなければ成立しない。ニーズがなかったらチョ・ジュビンも誕生しなかった」という言葉だ。閲覧のために課金した人まで罰しない限り、デジタル性犯罪は止められない。
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