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UK SAMBA~イギリスのお産事情~ 第3回「会陰切開、必須でえいんかい?」(前編)

おざわじゅんこ2023.10.31

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「みなさん、ご自分のクリトリスがどこにあるのか、ご存じですか?」うふふ、Love piece club 読者に向かって野暮なこと訊いてみました。ちなみにこのセリフは私が通った高校の家庭科担当教諭長谷川さん(あだ名はハセ)のことばです。自分のからだ、性器の名称や形状を「あそこ」などではなく正確に知ることは性教育の第一歩、とよく言われますよね。長谷川さんの発言もそのような意図あってのものだろうと思います。

そしていま、わたしが皆さんに訊きたいのは「みなさん、ご自分の会陰(えいん)がどこにあるのか、ご存じですか?」ということです。会陰とは外性器(女性の場合は膣)と肛門の間の部分で英語ではPerineum。会陰は毎日の生活で大活躍していることを意識しない部分かもしれません。骨盤底筋群やそのトレーニングに対する関心が高まっているので、知ってるよ、わたしの素敵な会陰、という人もいるかも。性器を含むからだのすべては鏡をつかってでも見て、そして触って親しめるとよいですよね。

今回のコラムでこんな質問をする私の意図は、会陰、とくに会陰切開にまつわる誤解を解きたい、そして医療のフリした性暴力への注意を喚起したいからです。

直立歩行のうちらの縁の下の力持ち、会陰。そんな会陰は経腟出産のとき素晴らしい活躍をします。ヒトは進化のいきつく先まで来た、もうどこにも進めない、そんなどん詰まり感のある哺乳類です。生まれる赤ちゃんの大脳が大きく、それを入れておく頭蓋骨も女性の骨盤とジャストフィットです。それによりお産には時間がかかる。お産の最中、女性は子宮の収縮を強く感じます。ほかの哺乳類と比べさらに多めにオキシトシンやらエピノルフィンやらいろんなホルモンが関わります。ヒトのお産はとても奥が深いです。身体的なことだけでなく精神状態やら環境やらいろいろなものによって左右され、かつその後の女性と赤ちゃんの人生や関係も左右します。子宮の収縮により子宮口がだんだん開き、赤ちゃんがゆっくりと骨盤をとおり膣(産道)を経て出てくる。その時、膣・外性器と会陰は素晴らしく伸びます。骨盤を回りながら降りてくることや、骨盤底筋群・会陰に押し戻されながらだんだん頭を出して生まれてくることで、赤ちゃんの頭蓋骨・脳みそにかかる圧力は程よく調整され、頭の直径を最も小さくし姿勢を整えながら生まれます。赤ちゃんの頭が押したり引っ込んだりすることで会陰は伸び、裂けを避けることに繋がります(駄洒落1)。ほんと、わたしたちのからだって理に適っていて素晴らしいですよね。

そんなこんなでお産のときにきずができてしまうことはあります。イギリスの公共医療機構のウェブサイトには出産時の会陰や陰唇のきずは初めての出産のときは10人に9人くらいに起こり(うち会陰切開は1割半くらい)、4割くらいがきずを縫う必要がある、とされています(参照)残念ながら日本の厚生労働省からはこうした数の発表はありません。全体像を把握して管理することが優先順位でないんですよね。産科医療施設によって会陰切開数は大きく変わり、その情報に女性がアクセスできないのが現状です。

会陰の伸びには人種による差があるとかないとか言われてますけど今のところ信用のおける調査はありません(参照)。よって、場所によって会陰切開を含む会陰のきずの率に違いがあるのは、ひとえに産科医療が提供しているケアの差異によるところでしょう。 

さて、お産のときに、会陰のきずの率を下げるためにできることはたくさんあります(参照)。調査によってわかっているものは、お産の姿勢。前かがみや四つ這いだと圧力が分散され会陰はきずになりにくい(参照)。水中出産も水が圧になって助けるのできずが少ない(参照)。(助産師が触ってこないからかもしれませんね)女性が自由な姿勢を取っていること、自由に動けるような環境にいること(参照)、関わっている助産師と妊娠中から知り合っており人間関係があること(参照)、などなど。妊娠中、会陰マッサージをしておくことは、特に初産のときに効果的という調査があります(参照)。お産においては陣痛促進剤を使っていないこと(参照)、麻酔(Epidural)を使っていないこと(参照)。鉗子や吸引のお産でないこと。赤ちゃんが出てくるときの姿勢も関係あります。多くの赤ちゃんは頭から出てくるんですが、たまにその顔や頭に手を当てて出てくる個性的な人がいます。そうするときずがやや増えます(参照)。お産をより軽く心地よく過ごすためにできることでもっとも効果的なのはお産について「知る」ことですが(参照)、会陰のきずを防ぐのもお産について正確で肯定的な情報を知っておくことが大切です(参照)

会陰のきず(会陰裂傷ともいう)には度合いがあります。会陰の皮膚だけに傷がついたものが1度、筋肉層も傷がついたものが2度、肛門の筋肉に傷がついたものが3度と肛門まで切れたものが4度。会陰切開は2度扱いです。3度と4度は珍しいですがそのリスクは赤ちゃんの体重が4㎏以上であるときや鉗子や吸引のお産のときに上がります。会陰切開からさらに裂けて3度になる、ということもあります。

 

女性が自分のからだの感覚に集中でき、それに従って自由にラクな姿勢に変えられることは、胎盤(赤ちゃん)への血流、子宮の収縮を効率よく使える、心地よさ、女性が自分にコントロールがあると感じられることなどたくさんの理由からとても大切です。(参照)わたしの経験からいうと、お産のときに四つ這いや前かがみの姿勢をラクと感じる女性が多いです。そして会陰のきずのことだけを考えても、女性がからだに集中していると不自然ないきみ方が減り、ちょうどよい速さで赤ちゃんは生まれ、会陰が伸びるため姿勢は自由なことが重要です。また、一緒にいる助産師と関係性があることで女性は力みがとれるかもしれないし、その助産師が言うことが何を意味しているかわかることでいきみの調節がうまくいくのかもしれません。

つまり逆に言うと、会陰にきずができるリスクの高いお産というのは分娩台など体を動かす自由が利かないところで、仰向けで、そのとき初めて会う助産師と、お産のことをよく知らないままに、陣痛促進剤と麻酔を使ってするお産ってことになっていきます。もしかするとこれはいまの日本のよくある出産のシナリオなのかもしれませんね。

会陰に手や温かいおしぼり的布を当てて圧力をかけることと、赤ちゃんの頭も押さえて頭が急に出てこないように調節することで、きずを防ぐという技があります。日本ではよくされているように聞きます。わたしは日本のいくつかの産科施設でお産を見る機会があったのですが、当時私が見たお産ではどの施設でも全例なされていました。当時はルーチンで行われていたのかもしれませんね。

対して、わたしが働くイギリスではこのように助産師が会陰に手を当てて介助することはHands on management やPerineum ironing と呼ばれルーチンでされるものではありません。このHands onの手技により会陰のきずを防げる、という調査結果と、Hands onでも見守るだけのHands offでもあまり違いはない、という調査結果があります(参照)。よってこれはやはりそのときの会陰やそのほかの事柄次第であり、またその女性が触られることを合意しているか次第です(参照)

繰り返しになりますが妊娠中に、産む時の姿勢や、からだの声を聴くこと、自分のラクな姿勢を取ることなどを知っておくことは、お産を肯定的に捉える助けになり会陰のキズを防ぐことにもつながります。会陰に助産師が触れることできずのリスクを下げる(かもしれない)手技があるがそれを試したいかどうかこそ、妊娠中に話し合っておきたいですよねえ。お産が始まってから急に触られていいもんじゃないですよ、会陰は。

なぜならお産は「邪魔されない」ことがとても大事なのです。 

会陰は性器。お産の真っただ中、女性は子宮の収縮の波に乗って体に集中しているとき、まさに赤ちゃんが骨盤の中、絶妙にからだを回して出てこようとしているそのとき、性器を誰かに触られることがどんな影響を与えるのか。女性にとって「普通」なのか。それが気にかかるところです。また、出ようとしている頭を押さえられることに対して、赤ちゃん本人はどう感じるでしょうか。触ってよいかどうかの合意を赤ちゃんは表明できないから、勝手にされているわけですが、そんなことされたらこんがらがって骨盤内でどっちの方向に回るつもりだったかわからなくなることもあるかもしれませんよね。

わたしたちがこの会陰にルーチンで触らないことのもう一つの理由は縫合をだれがするか、というのも関係するかもしれません。イギリスやヨーロッパでは会陰切開も会陰裂傷の縫合も助産師資格の範疇です(参照)。先に書いた裂傷の度合いのうち、2度までの裂傷は助産師がお産が起こった場所で縫います。助産院でも自宅のお産でもまたは産科医療機関でも、その場で縫います。痛みの対処には局所麻酔と笑気ガスを使って、わたしたちが縫います。1度は出血が多くない限り縫合しないことが多いです。2度の場合は出血を止めるためと、筋肉をそろえて縫うことで回復を促す目的で縫合を勧めることが多いですが、縫合をしないで治す、という方法もあります(参照)。女性が感じる、膣への挿入による性的快感の大部分はクリトリスとそれにつながる神経が担っています。産後に骨盤底筋が弱っている場合には性交時のクリトリスの勃起が弱くなることがあり、性交により受ける感覚が変わることもあります。二度の会陰のきずには縫合が効果的で、骨盤底筋群を鍛えることは出産後の性交を楽しむためにも尿漏れを防ぐためにも有効です。

イギリスで実施された助産師と産科医の縫合の比較調査によると、感染症や治り方・痛みに大差はないが女性は助産師に縫合された方が満足度が高いことがわかりました。これは縫合の間にも助産師は女性と赤ちゃんがSkin to skinで一緒にいられるよう工夫したり、授乳の手伝いをしたり、縫合後のケアについてもより詳しく説明しており、女性は尊重されたと感じることによります(参照)

妊娠もお産も産後も、もし何も邪魔がなかったら8割は正常に終わります。大半の妊娠・出産・産後のケアは助産師のみの関りで足りるということです。 
イギリスに住む女性は妊娠・出産・産後すべて助産師だけが関わった場合、自分が健康で安産だったから助産師だけで足りた、と肯定的に捉えます(参照)。このように助産師は正常の専門家として女性に求められているので縫合も張り切ります。

(さて日本の事情は? 後編につづく)

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