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 先日、大学(心理系学部と教育系学部)の<思春期のセクシュアリティ>シリーズの「デートDV」講義のことです。10年ほど前からこのテーマをとりあげていますが、今年は半数に近い学生が、中学や高校で「デートDV」を学習したことがある、というのです。もちろん、初めて聞く話、という学生もまだ半数はいますが、教育現場での取り組みが確実に広がっているんだなあ、と実感しています。

 これまではタイトルを「恋愛と暴力」にしていたのですが、今年はズバリ「恋愛とデートDV」に変えました。このほうが、ダイレクトに学生の関心を引いたようです。恋愛の経験、未経験にかかわらず、彼らにとって恋愛は、夢とあこがれ、想像と未知の世界、そして現実が入り混じっていて、そのハザマでゆれ動いている「今」があるといえるでしょう。

 今月のネタにしようと思ったのは、今年の学生たち、特に男子学生たちの反応に変化を感じたからです。これまでよりも、自分の交際相手との間で起きていた被害、そして加害について、感想シートにけっこう書いてくるのです。いつもより多い気がします。ん、なんで? と、ちょっと驚いているのです。どちらかといえば、あまり自分を語らない傾向にある男子が多かったし、相談に来るのはほぼ女子か、女子の友だちを心配した男子学生でした。当事者としての自分を開示して語ってくれるのは、もちろん歓迎です。
 障害児教育や心理臨床、保育・学校教育などの現場を目指す学部の特徴もあり、わりと穏やかな学生が多いともいえます。男女同数程度250人ほどの学生たち。今回は、男子学生の声を、<一部抜粋>して考えてみたいと思います。
 誰にでもありがちだった出来事を、彼らがどう感じていたのか、講義を通してそれをどう考えたのか。

<男子~被害について>
 *「今つきあっている彼女にデートDVを受けています。今日の授業で気がつきました。ふだんから“私、たぶん別れたら死んじゃう”と言われてとても重かった。会うたびにそんな重い言葉を言われるのはとても辛い。どうにかしないといけないなと思います。今日の授業を受けられてよかったです」
 *「自分も高校生の時にデートDVを受けてクラスの異性の友だちとしゃべることを制限されたことがある。結果、別れてしまった。束縛、支配的な言動、性行為の強要をしても、なんにもよいことはなくて、せっかくつきあったのに別れるきっかけになってしまう。気をつけて、相手のことをしっかり考えてつきあっていきたいです」
 *「中学の頃につきあっていた彼女は、会えないときは常にLINEで“何してる?”という連絡があった。“別れる”というと急に謝ったり、泣いたりされるので、別れられなかった」
 *「束縛されるとか、すごい心当たりがたくさんありました」


<男子~自分の加害について>
 *「頭痛がするほど、身に覚えがあり、中学、高校の頃の相手のことを思い出してしまった。もっとしっかりしていれば、あんなに歪んでしまうこともなかったのではないか・・」
 *「セックスについて、男女の気持ちの違いのデータを見て、女性がなかなか自分の思ってることを言えずに、実はイヤイヤしているとわかった。これから、そういうときは相手の正直な気持ちをききたいと思いました」
 *「自分もLINEで返事が来ないと不安になったりソワソワしたり、何度も電話するように求めていました。相手との距離感が見えなくなってしまうのだと気づいた」
 *「今の彼女に束縛したい思いが自分の心の奥底にある。まだ自覚症状があるので間に合うかも。彼女の考えを尊重しながら慎重に行動していきたい。デートDVを意識して、彼女を大切にしていきたい」


<男子~友だちの被害・加害について>
 *「デートDVは自分のまわりにもいた。友人の彼女は、彼氏がほかの女子と話したりすると怒って、ごはんも食べられなくなってしまう。そのせいで自分はその友だちとも遊べなくなった。本人も大変だけど、周りの人も被害を受けていることを考えないといけないことなんだとわかった」
 *「自分の知り合いでデートDVしている人がいた。駅前で殴ったり、その親まで殴ったりして、学校を強制的に休まされた。簡単に彼女、彼氏をつくってる人の考えがわからない」
 *「友だちに、“別れたのに何回もつきまとわれる”という人がいた」


<男子~その他感想>
 *「日本でもアフターピルが薬局で買えるようにしたほうがいい」
 *「DVに対処する方法」の教育は、間接的に加害者を減らすことにもつながるし、倫理観や社会的モラルを教育する周囲のおとなが丁寧に教えることが必要なのだろう」
 *「“自分はそうじゃない”と思ってる時に、“これってDVだよね”と言ってくれる親しい他人がいることがとても大切だと思う。その穴を埋めていきたい」
 *「昔はなぜ束縛なんてするんだろうと思っていたけど、今では少しわかる気がする。だけど、それはダメなことだと今日の授業で再確認できた。自分の行動を確認しながら恋愛していきたいです」
 *「中学・高校と勉強したので知っていたが、身近に経験がないので軽く考えていた。しかし被害者はとてもつらく苦しんでいると感じた。これからは軽く考えず、自分のことのように考えていかなければならない問題なのだと改めて感じた」


 男子たちの声、いかがですか?
 女子学生の声も無視できません。少しですが、彼女たちの声もとりあげます。

<女子~被害について>   ※女子からの加害の記述は、けっこう少ない・・。
 *「私は今までデートDVとは無関係だと思っていたけど、過去をふりかえると、束縛がひどかった彼氏がいて、あれはデートDVだったとやっと気がつきました。異性と話すことやLINEの返事が遅いとすぐ機嫌が悪くなる人。“別れたい”と言ったとき、夜中に夜の海に入っていかれたときはすごく驚いたし、死なれたら困るから別れることができなくて、すごく辛かった。これからは(相手を)しっかり見極めて選びたい」
 *「昔つきあってた人に、“別れたら、ボクはもういらない人になるから、死ぬね”と言われたことがあったことを思い出した。講義を聞いて、いろいろ思い出してびっくりした」
 *「前の恋がやはりデートDVだと思ったら、別れたことは正解だったと思った」
 *「元カレにもデートDVがあったなあ、と思った。LINEの返信が遅いと電話が何回もかかってきて、それが毎日でしんどかったのを思い出した」


<女子~友だちの被害について>
 *「友だちが彼氏にやられているのがデートDVだと確信した。今生きているか不安で、2週間に1回は連絡をとっているけど、いつも“大丈夫”としか言ってくれません。彼氏の暴力を「他言無用」と言われているけど、私たちには話せているからまだいいのかな。私はひたすら友だちがそのうち殺されないか、怖くて仕方がありません」

 調査やデータ、その実態からいえば、彼氏から彼女にふるわれている暴力、デートDVが圧倒的に深刻で重篤なのが実態です。でも、彼女たちが彼氏に何をしているかも、こんな地方の大学の講義の一コマからでもあぶりだされています。

 彼らが、デートDVがいかに人を傷つける問題かを理解して、自分のしたこと、されたことが「暴力」だったんだと、気づいてくれたことが何よりです。性差をとわず、前向きな力強い言葉がたくさんありました。さらに今の、これからの恋愛やパートナーとの関係を改めて考えてくれたこと、加害や被害だけでなく、自分が何をすべきか考えようとする姿勢が生まれていることが、私の励みです。
 教育の場でできることはたくさんありますね。できることはコツコツ続けていきたいな、と思っています。

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具ゆり

具ゆり(ぐ・ゆり)

フェミニストカウンセラー
フェミニストカウンセリングによる女性の相談支援に携わっている。
カウンセリング、自己尊重・自己主張のグループトレーニングのほか、ハラスメント、デートDVやDV防止教育活動など、女性の人権、子どもの人権に取り組んでいる。
映画やミュージカルが大好き。
マイブームは、ソウルに出かけてK-ミュージカルや舞台を観ること。

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