ひとりでカナダ大学生やりなおし~アラフォーの挑戦 Vol.13 これでよかったのかな?私のキャリア選び
2023.10.11
9月~10月は国際学会の季節である。色々な医者に会う中で、選んだ科やキャリアの進ませ方はこれでよかったのか? と考えるきっかけになった。
医学部を卒業した医者は国家試験に合格した後は2年間、初期研修医時代というものすごく安い給料で働き数カ月ごとにほぼ全ての科をローテートするという修行期間がある。国家試験に受かったとはいえ医者としてはマンパワーにならないくらい非力な存在なので給料が安いのも仕方がないのだが。その経験を経て自分の専門科を決めて後期研修制度に入っていくが、医者の間では「~な性格のやつは~科だ」という不文律があり自然と行くべき科に収まっていく感がある。ざっくり言うと、体育会系は外科に行き真面目な人は内科に行くのである。内科の中でもとくに優等生は血液内科、穏やか目な性格の子は消化器内科、などなど。そういった振り分けにより、内科の文化と外科の文化が分かれた形で旧態依然とした医学界文化がずっと保たれてきているのではないかと思う。
私は精神科を選んだけれど、今でも自分には麻酔科・放射線科に進む可能性があったと思う。両方ともわりと自由な性格の人が集まる科(チームプレイじゃないからだと思う)で、それぞれおいしさがある。例えば麻酔科は手術麻酔のみかけにいくというバイトがあり、単発・短期間で引き受けやすく、また麻酔科医は人数が少ない上手術をするのに不可欠な存在なので給料が爆発的に良い。いいバイト先が見つかれば週数日の労働で十分生きていける。しかし、長時間に及ぶ手術の間バイタルをモニタリングして微調整しているというのは私にとっては苦行に見えたし、目だけでなく耳も働かせてそれを行うのは自分に向いていないと思った。(私は聴覚からの情報摂取つまりWAIS(注)でいうところのワーキングメモリが低いタイプです。)しかし、国家間の取り決めにより日本の麻酔科医はマレーシアなどでその国の医師免許をとらずに働くことが許されており日本からの派遣制度があるようなので、それは面白そうでいいなーと思う。
放射線科の医師は放射線を用いた治療部門もあるが主に病院の地下などでCTやMRI画像の読影をするのが仕事である。患者さんと直接触れ合わない、ある程度自分の裁量でできるワークなので他の科と比べて一見ゆとりがあり、研修医で回ったときも朝コーヒーを買いに行ってから仕事をしているのを見て「いいなぁ」と思っていた。内省的・文化的な性格の医師が多く、私とフィーリングが合う先輩が多かったというのもある。しかし、その方々は仕事をしていない間もいつも放射線科の本を読んでおり、「勉強しなきゃいけないから楽な仕事ではないよー」と言っていたが実際その通りなのだろう。そこまでの放射線科に特化した興味を持ってはいないので放射線科医にはならなかった。しかし、今も遠隔読影のバイトがたくさんあるためどこでも旅行中であってもスキマ時間にちょこちょこ読影バイトをできる、というのは魅力的過ぎる仕事だなと思う。だけど一方で、それは自分のやったことにフィードバックが何も来ない仕事であり、成長するにはやはり自発的に自分で本を読みこんでいくしかないということになる。また、研究への方向に結び付きにくい科でもあり将来的なキャリアの分岐が他の科と比べて限られている。
私は幼稚園児のころから幼稚園の先生に「さざんかちゃんは他の園児をよーく見ていて、的確なことをずばりと私に言いに来るんです。」と言われていたくらい人間を観察する性質(しかもやや意地悪目線)があること、子供のころから精神科医の書いた本を読むのが好きだったことや、親に「なーんかあんたは精神科医っぽい」と言われて「ですよねぇ」と思い精神科を選んだ。興味のあることをやっているので後悔はない。おいしい面でいうと、精神科医や内科医の当直バイトの中にはいわゆる「寝当直」と言われるあまりやることのない慢性期病院での勤務がある。給料は安めだが、ベッドが変わっても熟睡できる私のようなタイプにはある意味うってつけの職場といえるかもしれない。
やややる気のない視点からの私の専門科選びだったが、専門科を選んだあとも勉強しながら数年働いた後専門医試験を受けて、そのあとはさらに自分のサブスペシャリティを決めて邁進していくことが求められ、医者になったあともだいたいみな疑問をもつことなくステップアップしていく。中学校から進学校に進み浪人せず医者カルチャーに染まり、頑張れば上昇して幸せになれるというbeliefがしみ込んでいる私の体には、カナダの小都市でののんびり生活はカルチャーショックであった。
カナダ代表にするのはどうかと思うが私のボーイフレンドの場合。昨春、1年契約という形態からもう少しランクアップした雇用形態への希望を申請したのだが、それまでそれを希望してこなかった理由というのが私をおったまげさせた。「シングルペアレントで自分よりお金に困っている同僚がいるから席をあけておきたかった」と言うのだ。また最近では「今の仕事の管理職部分が大変で、大きすぎる靴を履いているような感覚なんだ。降級して自分の得意な仕事を増やしてもらおうと思う。給料は減るけど自分は生活費も少ないからいいし。」と言っていた。私にとってあまりに斬新な考え方だったので一瞬言葉を失ったが、「メンタルヘルスが一番大事だからさ」という彼の考え方は尊重される社会になるべきだと思った。
(注)WAIS=ウェクスラー式知能検査という全体的な知的能力や記憶・処理能力を測る心理検査。ワーキングメモリ指標は聴覚からの情報処理能力と関係する。
学会でブタペストに行きました。市民公園のど真ん中に
温泉は豪華なつくりだけれども庶民に愛されています。
英語話者の人は荷物タグについたこのアルファベットを見