先日、ケーキを丸ごと一つ買った。ケーキは滅多に買わない私。しかも丸ごと買うのは本当に久しぶりのことだった。次の日、さあ、ケーキを食べようということになり、さて誰の誕生日を祝おうかと考えたら、その日がちょうど憲法記念日だったので、「そうだ!憲法の誕生を祝おう!」ということにした。
いままで憲法記念日にケーキを食べたことはなかった(たまたま憲法記念日にケーキを食べたことがあったかもしれないが、憲法の誕生を意識してのケーキは食べたことはなかった)が、「これ、いいかも」。クリスマスやハロウィン等の西洋のイベントにかこつけて消費を促されるより、本来祝うべき健全な(?)祝い方かもしれないなどと思った次第。国内消費も促されて、地元の経済も活性化される。ケーキ屋さんに相談してみようかな。
今年の憲法記念日の日、2016年2月25日の報道ステーションのことを思い出した。その日の報道ステーションでは、いまから59年前の1957年に岸信介総理が憲法改正を目指して開いた「憲法調査会」(国会議員20名、有識者19名)の音声資料について報道された。CMに入る前、古舘伊知郎さんがこの内容の予告をしてくれたため、CMの間にテレビ録画のセットをすることができた。非常に貴重な内容で、録画できて本当に有り難かった。
この音声資料を国立公文書館で発見したのは、ジャーナリストの鈴木昭典さん(86)だ。未整理であった憲法調査会の肉声が入ったテープを見つけ、60時間以上の会議の内容を全て聴き直し、数十枚のCDに焼いたという。
音声資料で聞いた59年前の憲法調査会では、戦後公職追放された人々が復活して、「憲法改正」のために集まって会を進めている様子が全面に感じられた。いわゆる「押しつけ憲法論」を延々と展開していたのだ。番組ではその後、憲法調査会が開いた公聴会の様子も報道された。公聴会の資料では、中部日本新聞元政治部長の小山武夫さんの話も登場した。
小山さんの発言はこうだった。「(日本国憲法)第9条が誰によって発案されたのか、幣原喜重郎さんにオフレコで話を聞いた。第9条の発案者という限定した質問に対し、幣原さんは『それは私であります。私がマッカーサー元帥に申し上げて第9条の条文になった』とはっきり言った」
マッカーサー元GHQ最高司令官も「戦争を禁止する条項を憲法に入れるようにという提案は、幣原総理が行ったのです。私は総理の提案に驚きましたが、私も心から賛成であると言うと、総理は明らかに安堵の表情を示され、私を感動させました」と書簡に残しているとのこと。
憲法はアメリカから押しつけられたから変えるべきだとする人たちに、この歴史的事実をはっきりと伝えたい。憲法は、特に第9条は、アメリカからの押しつけではなく、当時の内閣総理大臣幣原さんの発案であったのだと。私自身も、この番組をみるまで、幣原さんの発案だったと知らなかった。この事実を、一人でも多くの人に知って貰いたい。
番組の中で、音声資料を発見した鈴木さんは、日本国憲法が公布された時の新聞を読んだ当時を振り返って次のようにおっしゃっていた。「(新憲法は)戦争をしないわけですから、当時の国民にとってはすごい贈り物だし、励みにもなった。(憲法調査会では)新しい時代が始まっているんだという感覚がほとんどない人たちがしゃべっている」。本当に鈴木さんのおっしゃるとおりの音声資料だった。戦後追放された人たちの私怨が渦巻いているかのごとき憲法調査会だった。
再現資料の番組は、憲法制定にかかわった憲法調査会の会長高柳賢三さんの次の言葉で締めくくられた。「第9条はユートピアであると見えるかもしれないが、戦争放棄を不変ならしめるのでなければ人類が滅亡してしまうというビジョンが含まれている。第9条は、一つの政治的宣言であると解釈すべきである」
憲法記念日に関連して、東海大学の永山茂樹さんのお話を聴く機会があった。「戦争法を越える憲法」と題してのお話だった。永山さんは自民党改憲案とナチスドイツの「全権委任法」を引き比べて、興味深いお話をされた。ドイツの全権委任法は、ヒトラーの独裁政治を招いた法律だ。
ドイツは1933年3月24日に「全権委任法」を成立させた。「民族及び国家の危機を除去するための法律」だ。その法律には次のような条文があったという。
〔1条ライヒ(筆者注:ドイツのこと)政府の法律制定権〕
ライヒの法律は、ライヒ憲法に定める手続きによるのほか、ライヒ政府によってもこれを議決することができる
〔2条 政府制定法律の憲法に対する優位〕ライヒ政府が議決したライヒ法律は、ライヒ議会およびライヒ参議院の制度それ自体を対象としない限り、ライヒ憲法に違反することができる。ライヒ大統領の権利は、これにより影響を受けない(以下略)。
次に、自民党の憲法改正案(2012年)を見てみよう。「第9章緊急事態」が設けられ、(緊急事態の宣言)第98条と(緊急事態の宣言の効果)第99条が書かれている。この条文自体、現日本国憲法にはない。自民党改正案で浮上した条文である。
少々長くなるが、内容を見てみよう。
第99条1項 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣掃除大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2項 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3項 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産をまもるために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第14条、第18条、第19条、第21条その他の基本的人権に関する規定は、最大限尊重されなければならない。
4項 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議員の任期及び選挙期日の特例を設けることができる。
ヒトラーの全権委任法と、その趣旨は、うり二つである。永山さんは指摘する。「緊急事態になると、内閣は『法律と同一の効力をもつ命令』を出すことができる=内閣に権力が集中する=議会制民主主義の否定」ということ。「地方自治体の長に対して指示を出すことができるということは、地方自治の停止を意味するのではないか」「国民には、国の指示に従う義務が生じ、基本的人権は『最大限に尊重される』のであって『保障』されなくなるのではないか」「選挙・解散が凍結されるので、国民は、国会議員や内閣総理大臣の責任を追及したり、やめさせることができない」
2012年に自民党が出した「憲法改正草案」。折に触れて読み返したり、講演会で説明されて現行の憲法と読み比べたりしているが、この「改正」が成立したら、本当に恐ろしいことになると、その都度、背筋の凍る思いがしている。今夏の参議院選挙の結果、もし、参議院で3分の2以上の議員が改憲に賛成したら、改憲手続きが可能になってしまう。
だが、逆に言えば、3分の1を超える議員が改憲に反対すれば、改憲を阻止することができる。永山さんは言う「改憲発議の阻止には、242議席の3分の1を確保する必要=最低81議席。今回非改選の31を除くと50議席が必要ということ」。
熊本地震を逆手に取り、「緊急事態」と称して、憲法改正があたかも自然災害を想定した、時代にかなった内容であるかのような印象を国民に与える一面も看過できない。憲法に違反する戦争法をはじき飛ばし、憲法に則った「選挙」と「表現の自由」で、戦争NO、9条改正阻止を突きつけられるか。私たちの行動が問われている。来年以降も、憲法記念日には現行憲法の誕生を祝って、おいしいケーキを食べたいものである。