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 政治的にいろいろと立場が分かれ、見解が分かれる、ということはわかる。でも、客観的な前提を踏まえておかないといけない。そうですよね。え、何を言っているのって?最近気になったことを挙げておこう。

女性のみ比較が問題にもされない?
 前回は、「保育園落ちた日本死ね!!」匿名ブログに始まる待機児童問題への関心の高まりを取り上げた。関心が高まったはいいが、保育士の待遇改善抜きの規制緩和策?何そのオチ!?というところで終えた。しかしその後保育士の低賃金にも関心が集まり、政府も2017年度から保育士の給与を月額2%(約6,000円)引き上げる方針を固めたほか、ベテラン保育士に給与を最高で月給4万円程度上がる方向で調整しているという。4月26日に開かれた1億総活躍国民会議で安倍首相は、「保育士と介護士については、競合他産業と賃金差がなくなるよう処遇改善を行う」と指示したと報じられている(毎日新聞4月26日21時50分阿部亮介記者)。
 おお、期待したいではないか。と、思いきや、4月28日、加藤勝慎一億総活躍担当相は国会答弁で、来年度からの保育士の賃金引き上げに関し「技能、経験を積んだ職員は、全産業(職種)の女性との差が4万円程度であることも踏まえて、賃金差がなくなるようにする」と述べたという。賞与を含めた女性保育士の平均月収は約27万円。女性のみを対象にした全職種の平均月収は約31万円。差額は4万円で、加藤大臣はこの数字を念頭に発言したようである。
 ええっ。保育士には男性もいるのになにそれ。男性も含めた全職種の平均月収と比較すれば、さらに差が開く。

 政府は「保育士の95%は女性」として、女性保育士の賃金を引き合いに出したことに問題はないと説明しているらしい(以上、東京新聞5月1日朝刊我那覇圭記者)。しかし、保育士を「女性の仕事」とみなしていること、さらに、賃金格差を相対的に縮小させて「成果」を見えやすくしようとしているのではないかなど、疑問である。男女共同参画を掲げ打ち立てようとする政策が、まんまジェンダーバイアスにもとづいてどうするというのだ。脱力…。

 ん?これについて報じる毎日新聞の記事(4月27日朝刊阿部亮介記者)は、上記の1億総活躍会議での発言を報じながら、「政府の試算によると、女性保育士の平均月給は(略)。政府が目標とする就業女性の全産業平均(略)と開きがある。(略)最大で4万円程度の引き上げを促すことで全産業並みに引き上げる。」と何ら批判を加えずさらりと書く。んん?朝日新聞の当初の報道
(2016年4月27日06時41分 池尻和生・伊藤舞虹・蔭西晴子各記者)もしかり。若干の賃上げでは抜本的な待遇改善にはならないと批判的なトーンながら、政府が女性労働者の平均と比較していること自体には批判していない。その後、朝日新聞は、全女性の全産業平均と比較したことに対する山尾志桜里民進党政調会長の批判を報じてはいるが…(「保育士給与「総理の感覚、二重にずれてる」民進・山尾氏」4月27日22時46分)。首相の発言を引用する記事の中で全女性の全産業平均との比較を無批判に持ち出すのは、読売新聞産経新聞も同じ。
 こういった数字を議論の叩き台にする政府も政府だが、「ん?」という感度もない報道機関にもアタマ痛い。

林陽子女性差別撤廃委員会委員長へのバッシング
 話は変わるが、林陽子女性差別撤廃員会委員長へのバッシングが気になる。
 林陽子弁護士は、2008年に国連の女性差別撤廃委員会委員となり、2015年より同委員会の委員長に就任している。同委員会の委員長に日本人がつくのは初めて。「女性の活躍」を掲げる政府としても、誇らしいことだろう。
 ところが、何と、林陽子委員長の「リコール」を求める署名活動が始まっている。文面がすごい。「反日活動を続けて」きた「左翼団体ともいうべき日弁連に所属する林陽子氏」…まあ弁護士である以上日弁連に所属もしているがふつう所属と言えば単位弁護士会をあげるけれど(私なら第二東京弁護士会所属とか)。しかし、「日弁連」とググろうとすると「反日」とか「左翼」とかが検索用語の候補として出て来るご時勢、「バッシング対象つながり」としてつなげたいのだろうか。
 その点は措くとしても、この署名活動は、女性差別撤廃委員会の日本政府の報告書に対する最終見解を批判し、その関係で林陽子委員長の「リコール」を外務省に対して求めるというものだ。

 最終見解の内容の紹介には踏み込まないが(この点、坂本洋子氏の「女性差別撤廃委員会の日本政府報告書審査をめぐって」『時の法令』第2000号平成28年4月30日発行が詳しい)、前提として、国連の委員会の委員は自国の報告書の審査には関わらないこと、当然林委員長も日本政府の報告書の審査に関わっていないこと、委員はそれぞれ独立しており、上下関係があるものでもないので、委員長の意向が特に出身国の審査に影響することは構造上ありえないことくらいは、常識のはず…。いやしかし、バッシングを前に常識ではないのかもしれないとここに書いておく。

 試しに「林陽子」とググるとやはり「反日」といった言葉が出て来る。やれやれと「緒方貞子」でググっても「反日」が候補に。国内外で「活躍」し尊敬される女性たちがこうdisられるとは。まあおふたりともタフですから、何とも気にしない、気づいてもいないだろうが。それにしてもおそらくは「日本礼賛」本が好きなタイプがどうしておふたりの活躍に便乗して「さすが日本人」と誇らないのだろうか、不思議だ。
 彼女たちが個人として気にしてなくても、やはり気になる。このような署名活動だけではなく、何と与党の議員から国会でも質問されているのだから。
 具体的には、3月17日参議院外交防衛委員会で、片山さつき委員が、自分の手元に「保守系のNGOからの報告書」があるとしつつ、林陽子氏がなぜ「日本側の代表として委員長になっておられるのかということと、今回の国際的な場としては非常に注目を集めた女子差別撤廃委員会における一連の結果につきまして、岸田外務大臣の御所見をお伺いしたい」と質問した。これに対して、岸田外務大臣は、「日本からは2008年から弁護士であります林陽子氏が女子差別撤廃委員に選出され、2015年から委員長を務めております。そして、委員会の委員長は、計23名全ての委員によるコンセンサスで選出されると承知をしております」と事実関係のみ答えた。
 うーむ、片山委員があたかも委員会の最終見解が林委員長の意向に影響されているかのように質問しているのは明らかなのだから、その点を踏まえて(この点指摘した報道としては週刊金曜日の「ジェンダー情報」しかないだろうか。この点でも報道には頑張ってほしいのだが)、「違いますよ。そんな仕組みにはなっていませんよ」くらいは答弁していただきたかった。

 私の周囲では、「あんなバッシングバカバカしい。無視無視」という人が多い。そうだといい。しかし、もしかしたら、侮りがたいのかもしれない、とも思う。上記の署名の呼びかけ文の最後に、「外務省には、真に世界の発展及び日本の国益に寄与する人材を国連に推薦するよう強く求めます」とあるのが気になる。見識のある林陽子委員長こそその人材だが、この署名活動を推進している人たちはそうは思っていないことは間違いない。片山議員ほか議員や政府にロビーもしているのではないだろうか。バカバカしいバッシングと放置している間に、内心林委員長を評価している外務省も萎縮して、次の日本出身の委員の人事に右派の意向を忖度してしまう…なんてことは、さすがにありえない…。そう願いたい。

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打越さく良

打越さく良(うちこし・さくら)

弁護士・第二東京弁護士会所属・日弁連両性の平等委員会委員日弁連家事法制委員会委

得意分野は離婚、DV、親子など家族の問題、セクシュアルハラスメント、少年事件、子どもの虐待など、女性、子どもの人権にかかわる分野。DV等の被害を受け苦しんできた方たちの痛みに共感しつつ、前向きな一歩を踏み出せるようにお役に立ちたい!と熱い。
趣味は、読書、ヨガ、食べ歩き。嵐では櫻井君担当と言いながら、にのと大野くんもいいと悩み……今はにの担当とカミングアウト(笑)。

著書 「Q&A DV事件の実務 相談から保護命令・離婚事件まで」日本加除出版、「よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて」共著 朝陽会、「今こそ変えよう!家族法~婚外子差別・選択的夫婦別姓を考える」共著 日本加除出版

さかきばら法律事務所 http://sakakibara-law.com/index.html 
GALGender and Law(GAL) http://genderlaw.jp/index.html 
WAN(http://wan.or.jp/)で「離婚ガイド」連載中。

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