7月に刑法が改正され、「不同意性交等罪」や「不同意わいせつ罪」が成立した。「性交等」には、性交・肛門性交・口腔性交のほか、膣や肛門に、陰茎以外の身体の一部または物を挿入する行為も含まれる。配偶者やパートナー間でも成立するらしい。
それを受けてか、性交渉に同意した記録を残す「性的同意アプリ」が8月下旬、話題になっていた。このアプリ、セキュリティーの強化や、同意を強制された場合の救済機能を追加するため、配信するのは延期するという。
そんなしょうもないアプリ、よく思いついたなというのが第一印象だった。ネットで検索すると、オランダやデンマーク、オーストラリアでも同様のアプリが既に取り沙汰されていた。それらの国々でも、強要されて「同意」させられる恐れや、情報漏洩などが危惧されていた。そして、アプリの導入に反対する女性たちの声が上がっているようだった。
セックスする際に、やおらスマホを持ち出してきて、QRコードで読み取らせて「同意」ボタンを押してもらってから始める…悪い冗談でしかない。「同意」ボタンを押せば、何をしても許されるとでも思っているのか。コミュニケーション不足も甚だしい。こんなアプリを出してくるような相手とは、セックスしないに限る。
脅されて同意ボタンを押さざるを得ない状況になる恐れもあるし、自分の性的な情報が漏れる危険性もある。一旦同意したとしても、状況によっては、途中で同意を取り消したくなることだって充分あり得る。手が滑って誤って同意ボタンをしてしまうことだってなくはないだろう。スマートフォンを持っていなかった場合はどうするのか(事後承諾?)。
アプリの開発に女性がどのくらい関わっているのかも気になるところだ。女性の人権に詳しい専門家から意見を聞いたり、女性の弁護士をスタッフに入れていたりするなら、中身も女性に配慮したものになっているかもしれない。まさか男性だけで開発してないといいが…。
アプリの中身がまだ明らかになっていないので、想像の域を出ないのだが、どんな項目が「同意」を求める対象になっているのだろうか。勝手に想像してみた。「キスをする同意」「肌に触れる同意」「挿入する同意」。不同意性交等罪から逃れるためだけの短絡的な内容なら、そんな項目止まりだろうか。
「性的同意」は、これまでも女性と男性の認識の違いが指摘されてきた。にっこり微笑んだから俺に気があると勘違いしたり、食事に誘ってオッケーだったから、その先もオッケーと早とちりしたり、部屋に上がったからセックスも承諾したと自分に都合よく解釈したり。
「嫌よ嫌よも好きのうち」ではなく、No. Means No. Yes Means Yes. なのだ。女性と男性の同意に関する意識の違いを埋めるべく、しっかりとコミュニケーションを取ること。性的同意アプリは、その当たり前なことを蔑ろにしている。
「アプリで同意して、はい、終わり」ではなく、最初から最後までお互いを尊重するコミュニケーションを取って初めて、本当の同意へとつながるのではないか。
「性交」を、その間限りの性器等の挿入に限定して捉えているからこその「性的同意アプリ」であるならば、そこに「男性側の論理」の限界を感じる(そうでないことを祈る)。
「今からセックスをしたら妊娠するかもしれないが、妊娠するのも受け入れる同意」「妊娠したら中絶するかもしれないが、そのことも受け入れる同意」「出産することへの責任を受け入れる同意」「子育てする同意」「養育費を払う同意」等々、同意を取るなら、男性側にも取れよと言いたい。
女性が男性とセックスをするということは、そこまでのリスク(責任)を負うことにつながる。女性が男性とセックスする時は、妊娠する恐れを感じずにはいられないからだ。女性に「性的同意」を求めるなら、男性側も妊娠・出産・育児の責任に対して「同意」しておく必要があろう。
短絡的に、不同意性交罪に問われないために、証拠として「同意」を取っておくレベルのアプリなど、百害あって一利なし。(使うつもりは全くないが)そんなアプリではないことを祈る。