私はついこの前まで男たちは「仕事が出来ない無能」だと思っていました。そんな私の考え方を変えてくれた事件が、短期で勤めていたコールセンダーで起きました。
そこは某エアーラインの協力会社で、そのエアーラインの予約やクレーム処理などを担当する会社でした。バイリンガル以上な人を雇うと言う広告だったので志願しましたが、何故か国ごとに部署が分かれていて、私は韓国人だけで構成された部署に所属されました。
そして問題はトレーニング期間中に置きました。新人として雇われたのは私とワーキングホリデーで来たフランス人の男、そしてもうすぐ留学する予定の韓国人の男の子の三人でした。ただのコールセンターの業務と思っていましたが、使うシステムがプログラミングをしているかのように難しく、覚えなくてはならないコマンドが多かったためトレーニング期間だけでも一か月くらい掛かる簡単ではない仕事でした。
その男の異常さに気付いたのは、休憩のたびに出て来る爆弾のような言葉でした。先ずは「自分は男だから料理が出来ないためランチはいつも外で食べている」と。まだ20代前半の若い男の子がオーストラリアにまで来てそんな時代遅れな発言をするってことがとても衝撃でした。また「自分はカナダに留学したことがあるけど、カナダ人は皆不親切で優しくないから嫌いだ」とも言っていましたね。人々がフレンドリーだと有名なカナダだったので驚きでしたが、私はカナダに直接行ったことがないので、口を挟むことは止めました。
しかしそれだけではありません。トレーニングに参加する彼の態度にも大きな問題がありました。授業中ずっと全く関係ない話をしながら自分の話だけに耳を傾けてほしがるところや、30分の昼休憩から毎回20分ほど遅れて帰ってきては一言も謝罪もなく「レストランに行ったら料理が遅れて出て来た」とか言い訳をするのです。いや、30分しかない休憩にレストランに行くか? と思いましたが、オーストラリアは差別がない国なので、もしかしたら何かの問題がある人かも知れないとまで考えが至ると、簡単に突っ込めないのでした。
しかし問題は続きました。日々覚えるコマンドが増えていき、取り扱うケースが複雑になると、その男は授業中ずっと文句を言い続けるのです。「難しすぎるよぉ、頭が痛いよぉ、今日はこれで終わりにしたいよぉ」と、すぐ自分の旅行プランを検索したりしながら、授業に全く集中せず他の事をやっていました。本当見ててこっちまでイライラしてきました。学校じゃあるまいし、お金を貰ってトレーニングさせてもらってるんだから、しっかりしてよと心の中で何回叫んだかわかりません。
問題はエスカレーターしていきました。職場の先輩とペアで実際のコールを聞きながら練習をする日でしたが、急にその男が叫びながら泣き崩れたのです。その男は毎日のように自分のお母さんと電話をしていましたが、その内容を聞いてみると(盗み聞きしようとしたわけではありません。声が大きくて自然と聞こえてきました)そもそもが難しい仕事なのに、自分に優しく教えてくれようとしなかった。「それ学んでないですか?」と自分を屈辱しながらバカにした、もう彼女とはペアで働きたくない等の信じがたい内容でした。
しかしその内容は上司にまで伝わったらしく、何人もの上司が来て彼を慰めにかかったのか…地獄のような一日でした。その会社は職業柄上女性の多い会社で、その男は韓国チームに自分以外に男性がいないことを知り「じゃあ俺は王子様になれるんだな」と呟いたことがありますが、まさにその通りだと思っていたのでしょうか?
余談ですが、その男の愚痴に対して母親は「わざわざ大変な道に進む必要はない。いつでも韓国に返っておいで」と「とても優しい対応」をしていました。韓国が未だに変わらない理由―そういう男性が減らないのは彼らの裏にいながらそういう男たちを支える女性たちのせいだった事に気付き絶望しました。
いよいよ一か月のトレーニング期間が終わり、テストの日が来ました。オーストラリアの会社は大体3か月くらいが試用期間で、給料は同じでも三か月以内に会社の期待に沿えなかった場合はいつでも解雇に出来るのが普通です。当たり前な事ですが、その男は試験にパスすることが出来ず、解雇の話に持ち出されたようでした。しかし彼はまた大きく反発しました。試験点数が悪いのは他の二人が上手過ぎて授業に付いていけなかったせいだ、とか自分の失敗をずっと人のせいにしていました。会社側はとても優しくて、彼にもう一度のチャンスをあげました。もちろんその追試にも不合格。
しかしその男は「この会社から一歩も出ない!」と怒鳴りながら女性のマネージャーたちを困惑させたのです。何時間も会社で怒鳴ったり泣いたりしながら駄々をこねていた彼の異常行動は、男のマネージャーが現れることで幕が下がりました。教室に戻り自分の荷物をまとめながら、会社から配られたイースターのチョコレートも忘れず持って帰りました。
その男が去った後、ダサいなぁと思いながら彼が使っていたスクリーンを見た私は言葉を失いました。その男のパソコンには「不当解雇」について調べていた痕跡が残っていました。そうなんです。その男は無能だから仕事が出来なかった訳ではなく、「無能でも生き残れる権力が通用する環境」で生きて来たのでした。韓国では男も女も皆して無能な男の面倒を見てあげようとする。だからその程度でも、何も考えず生活してても今まで生き残れた。だが、いざ誰も自分の面倒を見てくれないようになると自ら法律を調べるなど、やっと自分でちゃんと考えて行動に移そうとする知能がある。韓国の社会がどんだけ男たちを甘やかせて来たのか、そしてその結果が今どうなったのか、目の前で一つの大河ドラマを見たようでした。
韓国では努力しなくても生きれたから。馬鹿でも生き残れること。男性だけが手に入れられる最強の権力なのではないでしょうか。アジアでは男が女より足りなくても、女より偉そうに生きていける世界なんです。男がどんだけ能力がなくても、女性たちはそんな男の食事を作ってあげたり面倒を見てあげたりするし、社会はもっと能力のある女性たちを「結婚や出産の可能性があるから」と採用で落とす事で彼らの就職まで簡単にさせてあげています。
だからなのでしょうか? 韓国でのある研究結果*によると、女性は海外に住むほど幸福度が高くなり、男性は不幸になることが確実になっているようです。ソウル大学心理学科のチェ・インチョル教授は韓国の男性が海外に移住する場合は「韓国で持っていた特権が他の文化圏では通用しない現象を経験してしまうからなのではないか」と分析していました。確かにその通りです。
女性たちが家父長制社会と戦うためには、先ず男性たちのこの「無能でも生き残れる権力」を無力化させるべきなのではないでしょうか?男の面倒を見ないこと―それは今私たちに出来る最も簡単で強い戦略かも知れません。