「保育園落ちた。日本死ね」というブログの書き込みが話題となっている。国会でも取り上げられたようだが、自民党議員は「誰の発言だ」「出典は?」などと口々に野次を飛ばし、子どもを保育園に預けたくても預けられずに困り果てている女性たちの声を受け止めようとする誠実さが感じられないものだった。「待機児童ゼロ」の自治体ニュースがときどき流れてくるが、数字のまやかしであるとの指摘もある。本気で「女性の活躍」を推進させようとしているのか、政権の姿勢が問われている。
先日、弁護士の棗(なつめ)一郎さん(日本労働弁護団幹事長)のお話を聴く機会があった。題して「労働法制改悪の動向 ~“アベノミクス”『雇用破壊』政策=労働法制の全面的規制緩和を許してはならない~」。労働者派遣法が改悪されて、非正規労働者が全ての労働者の過半数を占めようとしている今日。正規の女性労働者が非正規の女性労働者へすげ替えられて行ったとき、また、パート労働というだけで格安の賃金で働かされていた女性たちが、いくら「同一価値労働同一賃金」を訴えたときも、なかなか動かなかった「男性の正規労働者」が大半を占める労働組合が、男性労働者に非正規労働が増えてきて、さずがに「尻に火が付いた」のか、「同一価値労働同一賃金」を掲げて闘うようになってきた。
若者の労働者の6割近くが男女問わず非正規労働となってきて、次なるターゲットは、正規の(年配男性)労働者。2007年に「ホワイトカラー・エグゼンプション」という言葉で政府が出してきた時、マスコミがこぞって「残業代ゼロ法案」と報道したため、一気に世論が猛反発。国会上程を阻止することができたのだが、それでも相手は諦めていなかった。
今後導入しようとしている「24時間働かせ法」「解雇自由法制」について、棗さんのお話から、特に強烈な印象を受けた。まずは、「24時間働かせ法」(労働時間規制の緩和)について。棗さんの話によると、「今回は決して『ホワイトカラー・エグゼンプション』という言葉は使わない。(その代わりに)『高度専門業務・成果型労働制』(=高度プロフェッショナル労働制)などと呼ぶ」「(その呼び方は)誤魔化しである。労働基準法の定める労働時間規制の原則を適用除外するという制度であるのは変わらない」とのこと。その問題点を、棗さんは以下の5点で指摘されていた。それぞれの問題点についての棗さんの指摘をかいつまんで説明すると、
①際限のない長時間労働命令に従う義務。
「使用者はいくらでも長時間働かせて、労働者の時間を際限なく奪うことができ、しかも、使用者は割増賃金を払う必要もなく、労働者の人生の時間をいくらでも支配できるということである」というのだ。
②過労死の使用者責任を問えない。
この法の下では、対象労働者が過労死しても、労災認定されない可能性が高く、民事上の責任も問えないことになるという。過労死認定時間を超える労働を禁止する措置が何もなく、使用者は労働者の労働時間を管理・記録しておく義務がなくなるため、過労死基準の労働時間を認定できない。
③労働基準監督官による取り締まりができなくなる。
労働基準法の労働時間規制が適用されなくなるということは、労働基準監督署の監督官が違法を取り締まる法的根拠がなくなることを意味するため、これまで働かせすぎで違法となっていた超過勤務が、いくら働かせても違法ではなくなってしまう。
④もちろん残業代ゼロ。
「深夜労働も含めてどんなに長時間労働をさせても、使用者は割り増し手当(残業代)を支払う義務がなくなる。通常の所定賃金より高い残業代を払わないでもいくらでも働かせることができるとなれば、使用者には長時間労働を抑制しようという歯止めがかからなくなり、ますます長時間胴を助長することになる。・・・まさに、“定額使い放題”“定額働かせ放題”の法律である」。
現在、少々長時間労働になっても、その分の割増賃金を手に入れることができて、労働者も納得のいく残業代を含めた月給となっているケースも、今後の成立を狙っている法案が通れば、割り増し賃金ゼロで、いくらでも働かされて、安い月給で泣き寝入りするしかなくなる。これが、安倍首相のいう「世界で一番企業が働きやすい国、日本」なのだろう。労働者のことなど、全く念頭にない(そもそも安倍さんは、自身が「労働者」だったことがあるのだろうか)。
次に「解雇自由法制」(解雇規制緩和)について。棗さんによると、「政府は『解雇の金銭補償制度』と呼びたがっているが、それは全くの嘘。金さえ払えば解雇できる、解雇自由法。不当解雇の撤回や、あらゆる労働裁判闘争ができなくなる法だ」という。解雇の規制緩和は、全ての労働者の生活と労働組合に壊滅的な打撃を与えるというのだ。
さらに、「解決金相場表」を作成して、労働者の「勤続年数、月額賃金、地位、従業員数」などを入力すると、解決金額が表示されるようになっていて(厚生労働省のHPで既に公開)、金さえ払えば解雇できる土壌づくりは着々と進められようとしている。「労使双方が納得する雇用終了の在り方」が規制改革会議(2015年3月25日)で検討され、厚生労働省でも「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」なるものが、2015年10月から開始され既に4回開催されているらしい。労働法制の規制緩和の議論は、私たちが知らないうちにどんどん進められている。
派遣労働やパート労働者として働いている友人が、同じ職場の正規雇用の年配男性のいい加減な働きぶりに対して「あんな奴ら、さっさとクビにすればいいのに。全くの無駄」などと言っていたが、労働者同士を敵対させて分断することは、使用者側の得になっても、労働者自身にとっては、自分の首を絞めることになる。同じ労働者として労働条件・労働環境の改善を求めて、仲間としてつながらなければ、労働法制の改悪を進めてしまうだろう。
棗さんは提起する。労働法制改悪阻止のための運動づくりに必要なのは、「安倍政権の虚偽プロパガンダによる世論操作にいかに対抗するか」「使用者側も巻き込んだ運動づくり」が必要。「阻止闘争だけでは足りない。労働者側の対案を用意した反対運動、カウンター立法運動を」と。
3・11の東京電力福島原発事故から5年。安倍首相は原発の汚染水処理について「アンダー・コントロール」と世界に向かって発信した。未だに大量の汚染水が、毎日毎日、止めどなく海に流れ出しているというのに。原発事故についてだけではなく、労働法制改悪についても、「嘘も百回言ったら本当になる」などという国民を欺く手法に、だまされてはいけない。