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UK SAMBA~イギリスのお産事情~ 第2回「堕胎罪を廃止せよ! ある女性への判決から」(後編)

おざわじゅんこ2023.09.14

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ある妊娠をどう考えるかは女性次第。望んだ妊娠を6週で流産した女性は、その胚を「赤ちゃん」と感じるかもしれない。同じく、中絶をした場合、それが早期中絶でも24週を過ぎた中絶でも、その妊娠を胎児とみなすかどうかはその女性次第です。

堕胎罪はこの「女性が決める」ことを禁ずる仕組みです。100年から150年以上も前の時代、確かに中絶は危険で女性にはさまざまな権利がなかった。当時の女性の多くはからだに起こったことをただ受け入れるしかありませんでした。しかし、薬の研究と技術が進んだ現在、中絶は安全です。堕胎罪の放置は立法の怠慢であり、個人の権限を制限したい保守的思想が強く政治を支配していることの現れです。

イギリスでは中絶を含むすべての医療(歯科・処方箋を除く)がすべて公費で賄われています。中絶する女性に自費負担はありません。先に述べたTelemedicine 導入の効果もあって、中絶ケアのアクセスもケア自体も世界の中でましな方と言えるでしょう。と、同時に中絶に対するスティグマは確固としてあります。女性が己の決断とからだに起こったことを肯定的に認め、その後に続く人生を生きるためには、わたしたちが中絶についてもっと話すことと、それを可能にする場が必要です。実は近年、イギリスで堕胎罪に問われ捜査を受ける女性の数が増加しているといわれています。中絶が普通の健康医療ケアと認められ、必要な人に必要な時に手に入るためには、スティグマを崩していくことが不可欠で、中絶を犯罪と規定する堕胎罪の廃止はその出発点です。

6月17日、時代遅れで素っ頓狂な刑法のためにこの女性に実刑が下ったことに抗議して中絶専門センターBPAS、女性団体Fawcett SocietyとシンクタンクWomen’s Equality Partyの三団体共同で抗議デモが計画され、私も参加しました。判決が出た週の土曜の午後、 Royal Court of Justice (王立裁判所)前で1000人以上が集まり、首相官邸(No 10 Downing Street)まで歩き、官邸前で堕胎罪廃止と彼女の減刑を訴えるスピーチ、という流れでした。裁判所前で三団体が用意したプラカードが配られ、それを持ってゆっくり行進しました。公式プラカードだけでなく段ボールなどに各々の思いを書いた手作りプラカードを持ちより、楽器や笛など簡単な道具で盛り上げ ます。天候もよく首相官邸への道では通行人や観光客の途中参加や応援があり和やかでした。判決もデモの様子も主要メディアに取り上げられ、このことを自分事と考えるひとの広がりを感じました。

デモの効果はてきめんで、最初の判決から35日後の7月18日、控訴主張が認められ彼女の刑は14か月の執行猶予に減刑されました。判事はこの事例に必要なのは”刑罰ではなく恩情 (Compassion not punishment)”と発表しました。

中絶薬による中絶は自然の流産と同じことが起こるのでいかなる検査でもその違いを判別することはできません。よって、中絶薬の使用を認める彼女の自白なし に誰にもこの流産が中絶であったかどうかは証明できなかった。その事実も減 刑につながったということです。

彼女はいま刑務所から出所して家族と一緒に過ごしています。とはいえ有罪判決であることには変わりはなく、14か月のあいだに50日間分の作業義務もあります。

この減刑の報道には、司法は堕胎罪が現代社会の価値観に合っていないことをやっと認めたのだ、と歓迎する論調が見られました。実刑判決は再犯が恐れられるときに出されるものであって、彼女の再犯のリスクはとても小さく実刑を与える根拠に乏しいことを認めた妥当なもの、との記事もあります。

そのほかの報道では、彼女の3人の子どものうち一人に自閉症があることや、彼女が35日間の受刑中、子どもと連絡を許されなかったことなど、彼女の生活に言及するものがありました。この拘留が彼女とその家族にどんな影響を及ぼしたかに同情的であると同時に話題性を増やすためには個人は消費される、今日の報道の汚さだと感じます。

わたしは女性の実名の扱いももやッとしました。6月の実刑判決後すぐの段階では女性の名前を公表していないメディアが大半でした。7月の減刑判決の多くのニュースでは実名が公表されています。有罪判決の瞬間からこの女性が匿名にされる権利はなくなっています。6月の段階で実名が公表されなかったのは、当時名前をつかんでいたジャーナリストたちが一社を除いて名前を公表しなかったから。一つの新聞社で名前が公表されて以来、減刑が報道された段階では彼女の名前が知れ渡っており、どの新聞社・テレビニュースも軒並み名前を出しました。

彼女のプライバシーは、減刑され帰宅した今こそ守られるべきではないでしょうか。Anti Choice派の攻撃の標的にされる可能性は、地域に帰ったいまのほうが高いでしょう。堕胎罪は時代遅れで無意味と主張するその口で、有罪判決が出たからと彼女の個人情報を使い話題性を追求する報道は矛盾しています。控えめに言っても思慮に欠けており、率直に言うなら女性に対する悪意があると感じます。

ところで、日本の医療機関ないの新生児死亡率は素晴らしく低いです。しかし公共医療は避妊も中絶も妊娠も出産もカバーせず、中絶は超絶ぼったくり(駄洒落1)。よって0日児遺棄事件は毎年10件を下らず、死体遺棄罪などの有罪になる女性がいます。

今年4月、愛知県でひとりで出産した新生児の遺体を実家の庭に埋めるという事件がありました。7月20日、名古屋地裁は有罪判決を言い渡し「風俗店で避妊をせずに妊娠したうえ、出産後周囲に相談もしていない。短絡的な犯行と指摘せざるを得ず、酌むべき事情はない」などとのたまわったそうです。

この新生児が助からなかった理由はなんでしょうか。0日児遺棄事件は、中絶を含む産科ケアを必要としながら医療や福祉につながれない女性個人を責めて解決する問題ではありません。世界中の性暴力を撲滅し、中絶ケアをましにして、女性が中絶を受けやすくする工夫を、私たちは社会に求め続けます。この頓珍漢な判決に断固反対します。6月17日の私たち1000人の声は減刑を後押ししました。女性を不当に裁く0日児遺棄事件裁判には日本でも!デモでもすることで(駄洒落2)司法を動かせるはずです。堕胎罪廃止を求め、連帯しましょう!


(写真はデモのようす)

 

追記:9月28日国際セーフアボーションデー。今年は27日に日本でも、デモ! 東京駅行幸通り、フラワーデモの場所です #中絶 MeToo #産科暴力

 

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