とんでもない男女不均衡に肩を落とすことなく
ブックレビューで、日本の代表民主制が弱まっているのは、競争、参加、多様性がどんどん弱まっていることが原因であり、逆にいえばそのすべてを強化することが、代表民主制の立て直しに必要なのだ、と、三浦まりさんの『私たちの声を議会へ 代表民主制の再生』を手がかりに考えた。三浦さんは、代表制の多様性の観点から、男女のとんでもない不均衡を早急に是正する必要性を指摘してくれていた。確かに、女性が排除されている中で成り立つ意思決定が民主的であるとは、到底いえない。
まさしく。でもどうしたら…。肩を落とす必要はない。手がかりが見えてきている。
1月24日、埼玉県吉川市議会選挙の結果、当選者20名のうち7名、すなわち35%が女性議員となったこと(間違っていたらすみません)が話題になっている。「半数にいってないとは!」と驚き嘆く人がいるとすれば、その人の目は曇ってない、透明なはず。しかし多くの人は、「おお!3割超えたとは!」と驚くはずだ。列国議会同盟(IPU)の2015年下院(日本では衆議院)の女性議員割合のランキングで、日本はなんとわずか11.60%、189か国中147位という有り様なのだから。
女性議員が少ないほど、セクハラも多い傾向があると指摘されている(2015年8月6日20時57分朝日デジタル川口敦子記者「女性地方議員の半数がセクハラ 女性議員連盟が調査」)。女性議員へのセクハラ野次を含む野次もたびたびニュースになる(私も過去に何度か書いた)。「輝く女性」etc.とうたう安倍首相が女性議員にたびたび野次する有り様なのだから、目がくらむ。辻元清美議員への野次については以前取り上げたが、1月13日の衆議院予算委員会で、山尾志桜里議員へも野次をした… 。おっと、山尾議員の質問の契機となった「夫50万円、妻25万円」の首相の発言も取り上げたいところだが、それは別の機会に。こんな有り様の議会ではたいていの女たちはうんざりする。よほどタフな女性が、男性に過剰適応してサバイバルせんとする女性しか入れない。悪循環…。
ところが、3割を超えると、質的に転換すると三浦さんは指摘する。吉川市議会の35%は心躍る数字なのだ。実際、変化が期待できる。市民団体が事前に立候補予定者に実施したアンケートhttp://yoshikawakenpousalon.blogspot.jp/ は、安保法制について国会で十分審議が尽くされたと思うか、同単体が安保関連法案の慎重審議を求めて出した請願が昨年市議会の定例会で賛否同数となり議長採決で否決されたことについて意見を求めたものだが、回答した20人のうち、国会審議について「尽くされたと思わない」との回答は13人、安保体制について反対との回答は12人。請願が否定されたことを残念とする回答は15人。このうち12人が当選しており、定員の過半数を占めることになった。すなわち同様の請願が提出されれば採択される可能性がある(2月2日埼玉新聞)。
国会レベルでも動きがある。超党派の議員連盟が、「国政選挙の候補者は、できる限り男女同数をめざす」ことを柱とする公職選挙法改正案を国会に提出しようと動いていると報じられている(1月16日5時朝日新聞デジタル )。おおお、是非!
弁護士会でも女性のフォースを!
いい感じの動き~とにこにことしかかったところで、うぬ?
ムラ社会以外の人は関心がないだろうが、この連載がアップされるころは真っ最中の日弁連会長選を機に、俄然弁護士会内の男女不均衡が気になっている。
まあ私も甘かった。「(噂だが)派閥の談合とかで決まるんでしょ?ご勝手に」「弁護士会の会務活動で女性の活躍というか活用をこれ以上されたらかなわん、無理ゲ―」と会内政治には全く関心なし。そんな私であるが、突如1月30日霞ヶ関の弁護士会館で実施された公聴会に初めて出席し、それどころか初めて質問した。なぜかといえば、候補者の一人が稲田自民党政調会長に献金してきたことを知り、どうしても気になったからだ。どうしてどうしても気になったのかを書くのはとりあえず控える。どうも、この点候補者でない一会員が書くのは、ウエブサイトによる「選挙運動」として禁止されるらしい(会長選挙規程58条)。常日頃表現の自由を重視し、「インターネットが民主的な世論形成の重要な手段の一つであることは誰しもが認めるところである」などと言っている日弁連が、いつの間にそんな規程を作っていたのだろう。全く知らなかった(選挙管理委員会に趣旨を問い合わせたが、回答は原稿までに間に合わず)。そして、実際に稲田政調会長への献金を取り上げた会員のブログにつき選挙管理委員会副委員長から電話で削除要請まであったというのだ。当該ブログは、他の候補への投票を呼びかける記載はしていなかったというのだが、それでも「選挙運動」…?他方で別の会員によるこちらのツイートは選挙管理委員会にOKをいただいたそうだ。線引きがよくわからない。線引きが曖昧だと、「万が一懲戒されても闘うっ、とはいっても忙しいしめんどくさい」と腰が引ける。そういえば、表現の自由を制約する法律を無効とする法理に「曖昧・漠然性ゆえに無効の法理」というものがあったなあ。表現の自由に対する萎縮的効果を最小限にしようとするものだった。憲法で真っ先に学ぶ法理…。いったいどういうしてこんな規程があるのか、知らなかったおのれのうかつさをのろう。
さて、公聴会当日。壇上を見上げてうなった。候補者2人、補佐人2人、司会席4人、合計8人、全員男性…。17人の質問者中女性は私含め3人のみ。傍聴席を眺めても、女性は圧倒的少数。日弁連内男女共同参画については誰か質問してくれるだろうと思って私は質問を「自民党改憲草案24条1項」(両候補とも反対)、「選択的夫婦別姓についての考えとその点稲田政調会長に働きかけたことがあるかどうか」(中本候補にのみ質問。賛成、働きかけたことはない)、「自民党改憲草案の緊急事態条項」(両候補とも反対)に絞った。それでも制限時間2分に収めるのは厳しかった。ほかには、LGBTについて質問した男性会員がひとりいたものの、その他のジェンダーイシューの質問はなし。ううう。こ、これでは、日弁連内でジェンダーイシューの優先順位が上がるわけない。
思い返せば、日弁連会長、いや会長候補ですら女性がなったことはないのではないか。男ばかりが続くことを当たり前と思って特に驚きもしなかったことを恥じる。
どうして女性会長、いや女性会長候補もあらわれなかったのか。原因はゆっくり検討しなければならないが、ふと、会長選挙規程中の納付金の条項が気になり出す。参議院・衆議院、都道府県知事(公職選挙法92条)と同額の300万円(!?)を納付しなければならない(会長選挙規程35条1項)。それも、国政等では一定の得票総数を得れば返還されるのに(公職選挙法93条参照)、日弁連では返還されない(会長選挙規程35条3項)。国政等に比べても一層厳しく立候補の自由を制限しているものであり、これまたびっくりな規程である。
女性弁護士が会長選に打って出るのが難しいのは、納付金だけの問題ではなかろう。しかし、女性弁護士の売上合計の平均値は男性のそれの56%(日弁連「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査」)であるなど、男女の収入格差が指摘される中で、納付金は女性にとって一層酷であるはずだ。
日本弁護士連合会第二次男女共同参画推進計画は、「政策・方針決定過程への女性会員の参画拡大」を掲げているが、「日弁連の理事者(会長、副会長、理事)に占める女性の割合を、2017年度までの5年間で15%程度に増えるよう期待」と、数値も控えめ、表現も、固い決意を示しているとはとても思えない、「期待」という弱弱しい表現にとどまる。とはいえ、「条件整備等の取組を推進する」とある以上、むやみにハードルを高くしている300万円の納付金を廃止してはどうだろう。
まあ、正直、女性会員のほうでも、「十分忙しい。弁護士会会務にまで割く時間ないよっ」という気持ちだろう。私もそのくちです。でも、コミットしないで、「あー、弁護士会もしょせんオヤジたちのムラ社会」と嘆くのはいけない。納付金は無理でも公聴会に参加したり質問したりはできるのだし(私も初めてでいばってはいけない)。
女たちよ、民主主義は不断の努力が必要だ。スター・ウォーズⅦで、レイア将軍(かつてのレイア姫)がレイに言ったように、May the Force be with you!これ、合言葉にしよう。