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夫婦別姓訴訟 最高裁大法廷判決のことを雑感

打越さく良2016.01.07

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明けましておめでとう、という気分では…
判決直前の前回まではどこまでもどこまでもイケイケだった私。判決って?ああ、すみません。落ち着かねば。夫婦同姓しか認めない民法750条が憲法13条、14条、24条、女性差別撤廃条約に違反すると主張した裁判のこと。私はその訴訟の弁護団の事務局長で、同事件の審理が大法廷に回付されたということは、違憲と判断するに決まっているっ、とどこまでも高揚していた。
民法750条のせいで、結婚するカップルのどちらもが自分の姓をそのまま名乗りたいと思っていても、どちらかが必ず改姓しなければならない。改姓することに喜びを感じる人もいるだろう。その感じ方がおかしいっ、とは微塵も言っていない、時々「同姓にするのがよくないというのか」といった絡まれ方もするのだが、間違えないでほしい。同姓にしたいカップルまで別姓にしろと言ってはいない。自分の姓のままでいたい人まで、結婚するためには泣く泣く改姓を余儀なくされるのはおかしいんじゃないか、ということなのだ。そして、改姓を余儀なくされるのは、圧倒的に女たちだ。2014年に結婚した夫婦の、実に96.1%が夫の姓を夫婦の姓とした(厚労省人口動態統計)。このような極端な数字をまさか「夫婦の自由な話し合いによる合意の結果」だとは、最高裁判所は考えないはずだ。夫婦のどちらもが自分の氏を維持するのであれば、法律婚を断念しなくてはいけない。この事態は婚姻の自由を侵害する、と最高裁判所は判断するだろう。人権保障の「最後の砦」なのだから。この期待は、12月16日の大法廷判決(寺田逸郎裁判長)に裏切られた。

多数意見に耳を疑う
最高裁大法廷の結論は、多数決で決まってしまう。合憲とした裁判官は15人のうち10人、違憲とした裁判官は5人。あと3人が違憲と判断してくれれば、7対8で違憲こそが多数となったのだ…。と考えても仕方がないことが頭の中をこだまする。考えてみれば、婚外子相続分差別規定(旧民法900条4号但書)を合憲とした最大判平成7年7月5日も合憲判断10人、違憲判断4人だったのだ。それから全員一致の違憲判断(最大判平成25年9月2日)まで18年。18年…気が遠くなる。私たちは生物だ。死んでしまうかもしれない。待っていられない。ん?ちなみに、12月16日の判断に加わった寺田裁判長は、婚外子相続分の判断には参加していない(14名での判断)。
構成を確認してみよう。多数意見に加わったのは、寺田逸郎長官(1月9日で68歳)、千葉勝美判事(69歳)、大谷剛彦判事(68歳) 、大橋正春判事(68歳)、小貫芳信判事(67歳)。山本庸幸判事 (66歳)、山崎敏充判事(66歳) 。池上政幸判事 (64歳)、大谷直人判事 (63歳)、小池裕判事 (64歳)、の10人。一人一人クリックしていただければ、弁護士出身の大橋判事を除いては裁判官・検察官・官僚出身の60代の男性判事であることがわかる。

ん?60代男性?内閣府の世論調査で、「婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない」という割合が多くなる層ではないか…。もともと最高裁判事15人中女性は3人。えっ、3人のみ!?といっても、2013年に鬼丸判事が就任して3つある小法廷の全てに1人ずつ女性判事がいるという、「史上初めて」の体制なのだ。なんと、鬼丸判事が史上5人目の女性判事なのだ。
さて、在野も経験したことがない(大橋判事を除き)ずらり60代男性判事10名による多数意見は、民法750条について、婚姻の際の「氏の変更を強制されない自由」は憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえず、憲法13条に違反するものではない、男女間の形式的な不平等が存在するわけではなく、憲法14条1項にも違反しない、個人の尊厳と両性の本質的平等という憲法24条の要請に照らして夫婦同氏制が合理性を欠くとは認められないとして、民法750条は合憲であるとした。
11月4日の弁論からわずか1カ月半も満たない判決。リハーサルを繰り返した渾身の弁論など聴く前に既に判決は出来上がっていたのだろう。脱力しないではない。その内容もあ然とするものであった。

氏の変更を強制されることによる種々の不利益は、判決の言う「人格的不利益」の程度にとどまらない。氏を変更したことにより、「自分が自分でなくなってしまった」と感じ、鬱になったり、様々な不調に悩んだりする女性たちの悲痛な訴えを、たくさんの陳述書により、弁護団は具体的に示した。離婚した際に婚姻姓でいられないことについては支障があることが認められ、婚姻氏の続称が出来る(民法767条2項)。身分関係の変動と氏の変動は必ずしも一致せず、氏についての個人の選択が一部認められているのだ。
もはや成文法で夫婦同姓を強制する国は世界でも日本だけである。民法750条は立法目的すら定かではない。一審判決では制定当時の議事録を引用して、夫婦同姓が「婚姻制度に必要不可欠のものであるとも、婚姻の本質に起因するものであるとも説明されていない」と認定した。妻が夫の家に入ることで夫の家の姓を称することになった明治民法の残滓を引きずっているだけのことだ。
 「夫婦同姓は我が国の伝統」と誤解して、別姓に反対する意見もある。しかし、江戸時代まで苗字は公家・武士などに限られた特権であった。「平民」に苗字が許可されたのは1870年、苗字を義務付けられたのは1875年。妻が夫の家の氏を称することになったのは明治民法制定時の1898年。源頼朝と北条政子、足利義政と日野富子を思い浮かべれば、夫婦同姓が「伝統」などではないことは明らかだろう。

 選択的夫婦別姓への反対意見で「家族の絆」が弱まると指摘されることがある。しかし、上記の内閣府調査でも、「家族の名字(姓)が違っても、家族の一体感(きずな)には影響がないと思う」と答えた割合は59・8%であった(「弱まると思う」は36・1%)。家族の愛情は、姓が一緒であることとは別であることは、言うまでもないだろう。他の国では家族が崩壊しているといった実証的な裏付けもない。
多数意見は否定したが、氏と自分の人格は結びついており、氏の変更を強制されることは、憲法13条の保障する人権の問題というべきだ。また、実質的差別や間接差別を禁ずる女性差別撤廃条約を日本が批准してから30年も経た現在では、憲法14条により性差別についての実質的不平等の解消をも裁判所の役割ではないだろうか。
多数意見で評価すべき点は、憲法24条について初めて具体的な法規範性を認めたことだ。すなわち、24条の要請・指針は、憲法上直接保障されたとまではいえない人格的利益であっても尊重すべきこと、両性の実質的な平等が保たれるように図ること、婚姻制度の内容により婚姻をすることが事実上不当に制約されることのないように図ること等についても十分に配慮した法律の制定を求めるものであり、立法裁量に限定的な指針を与えるものであるとの意義を明確にした。

ただし、多数意見が、嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを保持する意義、夫婦がいずれの氏を称するかは夫婦となろうとする者の間の協議による「自由な」選択(!)に委ねられていること、通称の広まりにより改姓の不利益は一定程度緩和されていること(!)をもって、民法750条が直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできないと結論づけ、国に極めて広い立法裁量を認めことは、残念という言葉では言い足りない。特に被上告人である国の主張にもどの文献にもない、「嫡出子の公示機能」のようなことを寺田裁判長が法廷で口にしたときには、「一体何を言い出しているのか」と耳を疑った。また、民法750条は女性差別撤廃条約違反であり条約遵守義務を定めた憲法98条2項違反であるとの主張については上告理由に該当しないとして判断を示さなかったことも、条約についても言及する昨今の最高裁の傾向と沿わず、期待外れであった。
国会が、女性差別撤廃条約批准から30年、そして法制審の答申を経ても20年という長期間、動かないからこそ、司法救済を求めざるをえなかったのに、その動かない国会に、再びボールを返してしまったことに、絶望感を抱く。

5名の違憲判断の重み
一方、5名の裁判官(岡部喜代子、櫻井龍子、鬼丸かおる、木内道祥、山浦善樹)の違憲意見には、勇気づけられた。3名の裁判官(櫻井、鬼丸及び山浦裁判官)が同調する岡部裁判官の憲法24条についての意見は、著しい女性の社会進出を背景に、婚姻改姓が、個人識別機能に支障を生じさせ、自己喪失感をもたらすこともありえること、そしてこれらの負担がほぼ妻に生じていること、その要因として、女性の社会的経済的な立場の弱さや家庭生活における立場の弱さ、事実上の圧力など様々なものによること、夫の氏を称することが妻の意思に基づくものであるとしても、その意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用していること、この負担をさけるために法律婚をしない選択をする者を生んでいること、氏が基礎的な集団単位の呼称であることに意義があるとしても、それは全く例外を許さないことの根拠になるものではないこと、等を理由に、少なくとも現時点においては、民法750条が夫婦別氏を認めないものである点において、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、憲法24条に違反するとした。多数意見とどちらが説得的か、明白だろう。
また、岡部意見は、多数意見が合理性の根拠とした通称による不利益緩和論に対して、「そもそも通称使用は婚姻によって変動した氏では当該個人の同一性の識別に支障があることを示す証左なのである。既に婚姻をためらう事態が生じている現在において、上記の不利益が一定程度緩和されているからといって夫婦が別の氏を称することを全く認めないことに合理性が認められるものではない。」と鋭く反論した。
なお、「女性だからこそ」と女性判事3名全員の違憲判断を評価するのはかえって失礼だという意見も見聞きするが、「女性だからこそ」と称えているのではない。男女不平等なんてないと男性判事がさらりと言ってしまえることこそ首をひねっているのである。

木内意見もまた、「問題となる合理性は、夫婦が同氏であることの合理性ではなく、夫婦同氏に例外を許さないことの合理性であり、立法裁量の合理性という場合、単に、夫婦同氏となることに合理性があるというだけでは足りず、夫婦同氏に例外を許さないことに合理性があるといえなければならないことである。」として、多数意見の論理思考の問題点を指摘した。そして、多数意見が、同一の氏により家族集団の構成員であることを実感する意義を合理性の根拠としたことに対しては、「少なくとも、同氏でないと夫婦親子であることの実感が生まれないとはいえない。・・・・同氏の効用という点からは、同氏に例外を許さないことに合理性があるということはできない。」と反論し、また、多数意見の通称による不利益緩和論に対しては、「法制化されない通称は、通称を許容するか否かが相手方の判断によるしかなく、氏を改めた者にとって、いちいち相手方の対応を確認する必要があり、個人の呼称の制度として大きな欠陥がある。他方、通称を法制化するとすれば、全く新たな性格の氏を誕生させることとなる。その当否は別として、法制化がなされないまま夫婦同氏の合理性の根拠となし得ないことは当然である。」とも指摘した。その通り!と膝を打つのは私だけではないはずだ。

国会にボールが跳ね返されている
合憲意見の多数意見も、婚姻改姓によるアイデンティティの喪失感、婚姻前に形成してきた他人から識別され特定される機能が阻害される不利益、個人信用、評価、名誉感情等に影響が及ぶ人格的不利益を認め、近年の晩婚化により不利益を被る者が増加してきていること、これらの不利益が女性に多く生じていると推認し、不利益を回避するために事実婚を選択する者が存在すること等を認めた。そして、「選択的夫婦別姓制度に合理性がないと断ずるものではない」とし、国会で合理的な仕組みの在り方を幅広く検討して決めることを求めた。
既にネット上、「最高裁が選択的夫婦別姓は違憲だと認めた!」と首を傾げるような誤読が出回っているという(苦笑)。どうして言わずもがなのことを書いたのだろう?と多数意見の上記のフレーズに苦笑したが、なるほど、ある意味意義があるというべきか…。
ボールを跳ね返された国会は、誤読することなく、また3分の1の裁判官が違憲とも判断したことも真摯に受け止めて、すべての女性が仕事も婚姻も円滑に選んで生きられる社会の実現への第一歩として、選択的夫婦別姓を実現してほしい。

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打越さく良

打越さく良(うちこし・さくら)

弁護士・第二東京弁護士会所属・日弁連両性の平等委員会委員日弁連家事法制委員会委

得意分野は離婚、DV、親子など家族の問題、セクシュアルハラスメント、少年事件、子どもの虐待など、女性、子どもの人権にかかわる分野。DV等の被害を受け苦しんできた方たちの痛みに共感しつつ、前向きな一歩を踏み出せるようにお役に立ちたい!と熱い。
趣味は、読書、ヨガ、食べ歩き。嵐では櫻井君担当と言いながら、にのと大野くんもいいと悩み……今はにの担当とカミングアウト(笑)。

著書 「Q&A DV事件の実務 相談から保護命令・離婚事件まで」日本加除出版、「よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて」共著 朝陽会、「今こそ変えよう!家族法~婚外子差別・選択的夫婦別姓を考える」共著 日本加除出版

さかきばら法律事務所 http://sakakibara-law.com/index.html 
GALGender and Law(GAL) http://genderlaw.jp/index.html 
WAN(http://wan.or.jp/)で「離婚ガイド」連載中。

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