仕事を半分強制的に辞めさせられた時、もう一つ変わったことがありました。以前の「被害者からサバイバーへと③」で話したことのあるその男。妹を性的に虐待した母の彼氏がまたここで関わってきます。私が水商売に就いてたことを知り心配だからって、母親ではなくその男が私を日本に迎えに来ると言ってきたのでした。当時は母親と恋人関係までには至らなくて、母の職場の上の階で働いていてたまに挨拶する程度の、そういう関係でした(だと思っていました)。
彼はそう言いながら私の最終日に私が働いてる店に来て5万円くらいを落としてあげると言ってきました。最終日なんだからプライドでも立ててあげると。今思うとその時点でこいつ頭可笑しい男だなとすぐ判断できたのですが、当時の私は頼れる人が誰もいなく、それをありがたいと思えていたのです。それでそれを同じ部屋を使っていた姉さんに話しました。するとその姉さんは激怒したのです。
「はあ? 迎えに来るなら迎えにだけ来いよ。なんで店に来るわけ? うちらはプライド捨てて働いてるのに、そんな店に来てお金を使う事でプライドを立ててあげると? バッッカじゃないの? そいつ頭いかれてるよ」
真面な男はそんな話をするはずがないと、そう言いました。確かにそれも一理があるかもしれない。そう思い店に来てくれると言う提案は断りました。
最初店に入店する時、最低でも二か月は働かなきゃいけないとの約束がありました。でも私は一か月で辞めることになったわけですから罰金を払いました。罰金を払って寮の家賃を払ったら手元には12-13万もないお金が残りました。それとは別に毎日美容院に通ったりドレスを買ったりもしていた訳ですから、実際稼いだお金はないのに等しいものでした。それでよかったんだと思いました。どうせ私にできることではなかったんだからと。
その男が日本に来て宿泊のために安いホテルに入りました。あいにくホテルの部屋が一つしか残ってないと言われ、同じ部屋に泊まることになりました。ベッドも一つ。でも母親の知り合いで、母が信頼してこの人を代わりに送ってくれたわけだから、きっと大丈夫でしょうと漠然と思っていた気がします。
私はそれまで普段眠りに付くとかなり深く寝てしまう人でしたが、その夜は何か違いました。途中で何回も何回も目が覚めたのです。本能的に危機を感じていたのでしょうか。私が目を開ける度にその男は寝もせず私をじっと見ていました。ビールを飲んだり、腕立てをしたりしながらです。ひょっとしたら良いタイミングを狙っていたのかもしれません。そんなことがあったわけですから、私は母から「その男は自分をすごく愛してくれて大事にしてくれるから、付き合うことにしたの」と二人の関係を暴露した時、とても混乱しました。
それから時が経ち大学に合格した後、母の強要で父と一瞬再会した時の話です。父は私があまりにも言うことをきかない悪い娘だったと言いました。だから私は冗談に本音を交えて「そんな仕事はしたけど体は売ってないわよ」と答えたことがあります。すると父は「もし本当にそんなことをしてたら、お前はもう俺の娘じゃねぇよ」という言葉が返ってきました。頭に…心に細々に残っていた一本の糸がぶちっと切れる感覚がしました。人のせいにするつもりはないのですが、私が誰のせいで今のような人生を生きてきたと思っているのだか。
そうやって大学に進学し一年もない間、当時同棲をしていた彼女が男と浮気をして実家に帰ってしまったことにより、直ちに2倍の家賃を払わなきゃいけなくなりました。絶えない父親の情緒的・精神的暴力に耐えられず、父との縁を完全に切ってしまった時期とも重なりました。だから物理的に生計が立てられなくなったのです。その時の私には全てを背負うの金も、能力も、時間も、心の余裕もありませんでした。その時は妹の事件もあった後でしたから、頼れる大人も、素直な気持ちを話せる人もたっだ一人もいませんでした。
大学に通いながら午後の授業に出る前に早朝から昼まで毎日のようにコンビニでバイトをしていましたが、そうやって働くとしても生活費を払って学費まで払うのはとても無理でした。父が私が大学に入学する頃自分のプライドのために提出してしまった「高めに作成された収入証明書」のせいで、私は経済的に困難な学生としては認められることができず、緊急奨学金を申し込むことすらできませんでした。毎日働き、家に帰ると泣いたり自虐したりする事が続きました。だから一年以外は良い成績を維持することも出来ず、結果的には成績で奨学金を申請することも難しくなりました。
コンビニでバイトをしながらもセクハラは避けられません。電車に乗るとほぼ毎日毎日のように痴漢に遭います。精神的に疲弊し枯れてしまったかのような日常が続きました。だから私は次の行動に出たんです。当時住んでいた家の近所には日本人のキャバクラがありました。だから「母は韓国人だけど、母が再婚した義理の父が日本人で、私は未成年の内に母に付いてきたから日本の国籍を取得しています」と嘘を付いて面接を受けました。店長に外国人登録書があるのかと聞かれ、知らないふりをしながらとぼけました。そうやって面接に受かり、早朝はコンビニで、夜はキャバクラで働く日々が二か月程続きました。