安保法案が成立した。しかし、成立後も国会の外では法案に反対する行動は続いている。今後はこの法を発動させないとりくみを継続していくことになる。選挙での闘いで国民がどうでるか。「連休が明けたら忘れる」などと舐めたことを考えているのかもしれないが、そうはいかないことを見せつけるしかない。
さて、法案成立後(実は、成立前からだが)、女性に産ませようとする法律の準備が着々と進んでいるようだ。「女性の健康の包括的支援に関する法律(案)」をご存じだろうか。この法案、継続審議になっているようだが、昨年の4月1日にすでに「女性の健康の包括的支援の実現に向けて〈3つの提言〉」が自由民主党から出されていた。この提言で筆頭に挙げられているのが「女性ホルモン」。この提言の「はじめに」には「女性は生涯を通じて女性ホルモンの動態に影響を受けながら生活を送る。この影響による健康リスクを低減させ、あるいは心身の脆弱性を補完することは、人生各期における女性の自己実現を促進し、社会参加を後押しすることにもつながる」らしい。
これらの提言・法案で気になるのは、「安心して産み、育てること」が大前提であることと、「男性の不在」だ。提言はいう、「果たして今、我が国の健康推進対策は、女性の健康リスクのどの部分に手をさしのべることができているのだろうか。女性の健康の包括的支援を行うことなしに、果たして日本の女性活力を活性化することが可能になるのだろうか。さらに、日本の少子化対策は実効性を挙げることができるのだろうか」と。「出産を希望しているにも関わらず、労働環境など社会的要因により出産することが困難な状況にある女性が多数いることを踏まえ、女性の希望に沿って、女性が産みたい時に出産できる労働環境を整備すべきである」と。
産む産まないに関わらず、女性の健康を包括的に支援すべきなのではないか? そして、女性だけでなく、男性も含めて、全ての国民の健康を包括的に支援すべきなのではないか? 安保法案が成立したいま、あえて「女性の健康」と特化し、更には「安心して産み、育てること」を最重要視しているような次なる法案が準備されていると思うと、「産めよ殖やせよ」再び・・・としか思えない。
法律だけにとどまらない。前回のコラムで紹介した、誤った「妊娠のしやすさグラフ」を掲載している「健康な生活を送るために」(文部科学省 高校生用の副読本)を始め、各自治体でも似たような冊子が作られている。秋田県・秋田県教育委員会は「少子化を考える高等学校家庭科副読本 考えようライフプランと地域の未来」を2014年度に作成していたようだ。インターネットでも見ることができる。その秋田県の副読本の「はじめに」では、秋田県のすばらしい自然や文化の紹介とともに「人口減少と少子高齢化の進行が極めて速く、わずかな期間では解決困難な問題に直面しています」「この副読本を通じて、少子化や人口減少の状況について理解を深めるとともに、(中略)秋田の結婚事情、秋田の子育て環境など・・・を『発見』したりしてみましょう」と述べられている。少子化に特化した副読本を臆面もなく作成するところまできているとは。
秋田県だけでなく、岐阜県でも「ライフプランを考える啓発プロジェクト」で高校生向けの啓発冊子を作って家庭科の授業で活用することが計画されているようだし、九州では大分県でも「ライフデザイン啓発冊子」(2014年度作成)を配布して、少子化対策にしようとしているようだ(いずれもHPでダウンロード可能)。大分県のものは、「男性の子育て支援」も謳っているので、多少は評価できるが・・・。 細かく検索していけば、もっともっと多くの自治体で制作された「少子化対策」冊子がヒットするのかもしれない。少子化対策の啓発冊子に、全国的に予算がついたのか(?)と勘ぐってしまうが、どうだろう。
「高校教育で女子に(三角関数の)サイン、コサイン、ダンジェントを教えて何になるのか」と某県知事が発言したり、「この結婚(福山雅治さんの結婚)を機に、ママさんたちが一緒に子供を産みたいとかいう形で国家に貢献してくれればいいなと思う」と官房長官が発言したり、国連で自国の少子化対策が重要だと誰かが発言したり・・・時代が逆行しているのかと思ってしまうが、逆行どころか、日本はいっこうに変わっていなかったのかもしれない。それでも、それでも、一歩ずつ、生徒を相手に日々の教育活動を続けていくしかない。それだけは、絶対にやめずに続けていく。子どもたちの未来に「戦争」がないことを願って。