女性活躍推進法成立
女性活躍推進法が8月28日、賛成多数で可決され成立した。正式名称は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」だ。その内容は、条文を読んで確認してください、といっても、忙しいし、条文って読み慣れない、とりあえずざっくり教えてほしい、そんなあなたのためには、厚労省の特集ページがある。
なになに。女性活躍推進法に基づいて、国・地方公共団体、301人以上の大企業は、
(1)自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
(2)その課題を解決するのにふさわしい数値目標と取組を盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表
(3)自社の女性の活躍に関する情報の公表を行わなければならない(300人以下の中小企業は努力義務)
とのこと。また、行動計画の届出を行い、女性の活躍推進に関する取組の実施状況が優良な企業については、申請により、厚生労働大臣の認定を受けることができる。認定を受けた企業は、厚生労働大臣が定める認定マークを商品などに付することができるそうだ(認定マークについては、今後、定める予定)。
ふむふむ、で、「数値」はいくつなの。条文上どこにもない…。各企業が自分で決めればよく、「この数値以下では罰則」ということもない。な、なんですって…。
大体、一方で、政府・与党は、今国会(第189回)での成立は断念したと報じられているもの、依然として労働基準法改正案を成立させる予定でいる。この法案は、「成果に応じた新たな賃金制度」を導入するものとのうたい文句で未だに報じられることもあるが、そんなことはどこにも書いていないことは、以前も紹介した佐々木亮弁護士の解説を参照していただきたい。「成果に応じる」こともなく、単に「定額働かせ放題」という、使用者にとってはドリームでも、労働者にとっては過酷、「職業生活における活躍」どころか「消耗」を余儀無くされる法案なのだ。これでは、男女とも「活躍」なんて無理、「男女の人権が尊重」されるはずもなく、あわよくば「少子高齢化の進展」等「社会経済情勢の変化に対応できる豊かで活力のある社会」の実現といわれてもねえ…(女性活躍推進法第1条参照)、と首を傾げる。
評価できるところも探してみれば
いや待て。いつもネガティブに言ってばかりいるのもどうか。たまには褒めてもいいではないか。叱られるより褒められる子どものほうが育つというではないか。って、政府を子どもにたとえるのは、いささかやけくそ気味か。でもとにかくまあ褒めようという気になって探してみれば、昔も今も性別役割分業批判などお好きではない今の政権の構成を考えると、「基本原則」に、「職業生活における活躍に係る男女間の格差の実情を踏まえ」とか、「性別による固定的な役割分担等を反映した職場における慣行が女性の職業生活における活躍に及ぼす影響に配慮して、その個性と能力が十分に発揮できるようにする」等と掲げられたことは、評価しようではないか。
また、参議院内閣委員会の附帯決議はかなり充実している。非正規労働者の7割、かつ雇用者全体の4分の1を非正規労働者の女性が占めていることに鑑み、実態把握、分析、目標設定等は雇用管理区分ごとに行われるよう検討すべきこと等、非正規労働者の女性への配慮が随所にある。さらに、地方公共団体の関係機関が女性の活躍推進の取組みのため組織することができる協議会(法23条)に、男女共同参画センター、労働組合等も構成員として加えることを検討するよう促すこともあげられている。女性の自立支援を担うはずの男女共同参画センターの職員の多くが非常勤で、自立が望めないような給与体系で働いているという問題が依然から指摘されているが、その問題への取組の端緒にもなりうるだろうか(期待し過ぎだろうか)。DV,ストーカー被害の防止のための相談支援体制の充実、ハラスメント防止のための均等法等の改正の検討ほか、読んでいて「そうとも!」と膝を叩く。
願わくば、上記附帯決議が無視されず運用にいかされんことを…。
選択的夫婦別姓はスルー
しかしだ。女性の職業生活における活躍を真に願うと言うなら、選択的夫婦別姓くらい実現してほしい。婚姻して改姓するとそれまでの人脈や実績がぶった切りされる、いちいち事務処理面倒、通称使用しようとしても職場を混乱させて肩身が狭い思いをする。夫婦別姓訴訟弁護団の事務局長たる私は婚姻改姓によって苦しんできた女性たちの思いをたくさん聴いてきた。こんなことで足を引っ張られたら、活躍できるわけないっ。
政府与党の動きはどうか。自民党女性活躍推進本部(本部長 稲田朋美政調会長)が、2015年6月9日、婚姻適齢につき、女性も現在の16歳から男性の18歳に引き上げる提言をまとめたと報じられた。婚姻適齢を定める民法731条と同じく法制審が答申した民法改正案要綱にあり、同じく女性差別撤廃委員会に改正を勧告されている民法750条(夫婦同氏原則)は放置されるというわけだ。
そしてまた、7月男女共同参画会議計画策定専門調査会が発表した「第四次男女共同参画計画策定に当たって(素案)」には目眩がした。第三次まで、「男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し」中一応は民法750条など家族法の検討が記載されていたにもかかわらず、なんと、記載自体がバッサリ削除され、最高裁の判断まで保留するというのだ。最高裁判決次第とするのであれば、政府の施策について答申を受けこれに諮問する役割を担う参画会議の責任放棄と言わざるを得ない。あ、パブコメは9月14日まで、是非よろしくお願い申し上げます。
また、男女共同参画白書は、平成25年版 までは、毎度「法務省では,平成8年2月の法制審議会の答申(「民法の一部を改正する法律案要綱」)を踏まえ,選択的夫婦別氏制度の導入等を内容とする民法改正について引き続き検討を行っている。」とおなじみのフレーズが繰り返されていたが、なんと第二次安倍政権が気づいたのか、平成26年版 、平成27年版 にはこれに「慎重」が追加されている(「法務省では,平成8年2月の法制審議会の答申(「民法の一部を改正する法律案要綱」)を踏まえた選択的夫婦別氏制度の導入等を内容とする民法改正については,引き続き慎重な検討が必要であるとの認識の下,ホームページを通じた国民への情報提供等に努めている。」)。え、今さら「慎重」!?どんだけ消極!?
だから、女性の活躍女性の活躍ってやたら言うけど、信用できないっ…。ああ、いけない、褒めたかったのに…。