ひとりでカナダ大学生やりなおし~アラフォーの挑戦 Vol.10 地方移住者のストーリーにモヤりつつ…
2023.07.06
NHKの「いいいじゅー!!」という番組が好きです。地方でしかできない、とある仕事に魅了された若者が、割と身軽に移住して一から人間関係を築き居場所を作っていくのを追いかける番組です。自分が見つけた「やりたいこと」がある時点でかっこいいし、だからその土地に移住する理由があるという地に足がついたストーリーになっています。一方で、この間藤原綾さんという方の「42歳からのシングル移住」という本を読みました。東京から鹿児島に引っ越されるのですが、この中で藤原さんは「地域にはまだ、当たり前のように助け合う地域社会が残っているのだと思います。」「競争ではなく助け合いの文化に身をおくと考えると、やっぱり答えは地域社会に戻ってきます。」「多少弱くなっても、食われない場所を探さねば。」というように移住の理由を書かれています。概念的である上、自分の力だけでは到達できない目標であるので、大丈夫なのか? 少し田舎に夢を持ちすぎでは? と思ってしまいました。東京で今までの人脈を活かして「助け合う地域社会」を構築しようとはしなかったのか? という疑問も残ります。
とはいえ一つの行動に一つの理由が必ず付随しているわけではなく、理由と言うのはいつもmultipleであり、その時々で頭に浮かんだものを適当に答えているものだと思います。私も第一回目のこの連載にて「留学を決断したのはコスモポリタンになりたいから」という恥ずかしい宣言をしていますが、もちろん他にもあります。あって、そしてそれを今叶えている実感があるのですが、これまたなんともチープで地方移住者が鼻の穴を膨らませて自慢しそうなものなのです。つまり、「お金を使わずに楽しみを見出すこと」。それがどのようにここカナダの小都市で実践されているかを、説明していきたいと思います。
まずこのカナダの小都市で生きていると選択肢が少なく、脳のエネルギーを省エネでき、それがとても快いのです。日常品や食材は歩いて10分のダウンタウンに週に1回買いに行きます(火曜日は学生1割引きがあるため)。バスで30分くらいのところに巨大ウォルマート、イケア、コストコなどがありますが、ごみごみしているしとくに面白くないので必要ない限り行きません。他に何をしているかと言うと毎日図書館で仕事・勉強です。誘惑がないのでやらざるを得ず、(東京にいた時よりは)捗ります。夜はたいてい一人で軽くすませ、8時頃ベッドに入って2時間ほど本を読んだりしてゴロゴロするのが至福の時です。生活に時間的余裕があり刺激が少ない日常を送っているのもあり、友達との行事は超大事で絶対に逃しません。ときどき日曜にファミレスでブランチをして数時間だべる会があるのですが、半分くらいしか英語が理解できない私も仲間に入れてもらえるのが嬉しくできるだけ参加しています。また友達の友達がこの町に訪れると集まって紹介し合う文化があり、時折新しい人に会えるのがとても嬉しいです。そういうときは大抵みんなと家ごはんですが、パーティとはほど遠い普通の晩御飯です。レストランにも行きますが、開拓する気もとくにおこらず町にあるお気に入りの2、3件をローテーション。友達の家もレストランも全て徒歩圏内です。先週末は海に行きましたが、椅子と簡単な食べ物を持って行って浜辺で数時間ぼーっとするだけ。みんな水着も適当で普通のブラジャーの人すらいました(笑)
先月末私の家族がカナダに遊びに来ました。その際うちの親は飼い犬を10日間ペットショップに預けていたのですが、それをカナダの人に言うと大層驚かれました。家族や友達のペットを数週間預かるのは普通のことであり、なぜそこに商売が発生するのかが謎だったのでしょう。私はそういった多少の迷惑かけあいOKな友達付き合いが新鮮でいいと思うし、知らない人に預けるより友達が私の犬をかわいがってくれる方が幸せな気持ちになるというものだと思うのですが、私の母は友達の犬を預け・預かるなんてまっぴらだと申していました。東京のせわしなさ、友達の家との距離の遠さ、仕事での忙殺され具合、ペットに何かがあったときの責任所在問題などさまざまな背景があると思いますがやっぱり日本の「至る所にお金の使い道とお金による解決法があり、それが生活を便利で豊かにしているのだから、働く→使うのサイクルを高速で回そう」という強迫観念と関係がある気がします。その「お金で解決」システムにより人間関係のなかでも「迷惑」エッセンスを極力除外している気がします。そしてそれはいい面ももちろんあるのでしょう。都会でものんびりマイペースに、人に適度に頼りながら平和なマインドを守って過ごせる人もいるのでしょうが、私は違ったと思います。
ここまで書いてきて今私が実感していることは先述の藤原綾さんがエッセイで書いていた田舎に住む目的「地域社会に生きる」と同じになってきていることに気づきました。
ただ、私の場合は田舎に行きたかったというよりは都会に疲れていたのかもしれません。しかし、それも今だけで今後都会が恋しくなるかもしれません。東京に戻ったときは爆買いしてしまいましたし。
少なくとも、私の今住む街には「お金を使えば、あなたはこういう風にグレードアップするよ」「がんばれば、あの人みたいになれるよ」のような欲望発動させ装置がなく、それが心の平穏をもたらしていることは確かです。(多分その反対の状態が、今加熱している『推し活』ですが推し活がたくさんの人を救っていることもまた事実。)そんなことをぼんやりと考えながら残り少ないカナダ生活をゆっくりと楽しんでいます。
写真©Tachibana Sazanka
赤毛のアンで有名なプリンスエドワード島(PEI)に行きました。
アンが待たされた駅のモデルになった駅。
溶かしバターで食べるロブスターを堪能しました。しかし島の住民は魚介類を好まず、ほとんど観光客しかロブスターを食べないらしいです。