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第四回 筆者が入院中に見た「命をマモルくん」たち。 

牧野雅子2015.04.28

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ワタクシゴトですが、ただいま入院中なのであります。この原稿がアップされるころには、シャバに出られていると良いなあ。この際、せっかくなので、わたしを取り巻く、命をマモルくんをご紹介。なかなか、個性派揃いですのよ。
今回の入院の目的は手術を受けること。病巣を取り除く手術と、身体の別の部分から組織を持ってきて欠損部を作る手術、その二つが連続して行われるというもの。しかるに、執刀医も「取り除く人」「作る人」の二人いるわけで、病院のシステム上、わたしは「作る人」の患者として、そのセクションの病棟に入っている。病棟では、日々の処置や管理は若い医局員たちが行う。「作る人」の部下と思えばいいのかな。
広い無機質な手術室。テキパキと手術の準備がされるわたし。視界に、「取り除く人」の姿をとらえる。が、こっちに来る気配はない。これまでに受けた手術では、執刀医は麻酔がかかる前に「安心して下さい」とかなんとか、言いに来てくれたぞ。おーい、そこの君きみ、挨拶に、挨拶に来―ぃ……。
「取り除く人」はクールである。
手術後に、病室に様子を見に来て、わたしにかけた言葉が「頑張って下さいとしか言いようがないですね」。そんな。もうちょっとこう、励ますとかですね、頑張れそうな言葉をかけるとかですね、そういうのが……ない、わけ、ですよ、ね。
手術といえば、普通は、患者の家族が控え室で終わるのを待ち、執刀医から手術の説明を聞くことになっている。わたしの場合は、当初から手術が深夜に及ぶことが予想されていたため、家族(って言っても、ツレひとりですが)を延々待たせるのもどうか、というので、病院で待機するのではなく、手術が終わった段階で、病院から家族に連絡を入れて貰うことになっていた。
手術室から病室に戻り、二度と経験したくない苦しい夜が明けた時、看護師さんが、家族から病棟に問い合わせの連絡があったことを知らせてくれた。ん? 医師から終了後に連絡を入れて貰ったはずじゃ? どうやら、それは入っていなかったらしい。そうだよね、長い手術でお疲れだもんね。出来なくて当然。そう、納得していたら、医局員たちがやってきて言う。手術後、ご家族に電話をしましたが、留守番電話になっていたので、深夜でもあり伝言は入れていません。
ふと、自分の携帯電話を見れば、着信のライトが点滅していた。着信記録に残っている電話番号は、病院のものではないですか。留守番メモには、ナースコールのBGM。彼らったら、わたしの携帯に、電話してくれたんですね。わざわざ終了を知らせてくれてありがとう。でも教えていただかなくても、わたし、知ってますって。麻酔から覚めましたから。確かに覚めましたから。吐き気と寒気と息苦しさで悶絶しておりましたよ。ったく、わたしの携帯に電話してどーする! 何かあったとき、家族に連絡つかへんやん。いやはや、やってくれます、なかなかのおとぼけさんですね。
そんな「おとぼけさん」も、ザ・外科医であります。やるときはやる!のです。
ある休み明けの日、彼は病室に入ってきて言いました。「すみませんね、昨日は学会だったので、こちらに伺えなくて」。
ここで吹かなかったわたしはエライと思う。
それまでにも、病室に来なかった日ってなかったっけ? あったよね、あったよね。来なかったのは昨日だけじゃないよね。だいたい、常に多くの医局員がわらわら処置に来ていたから、誰が来たとか来ないとか気にしたことがなかった。なんでこの日に限って、わざわざ言いに来る?
不在によって患者を不安にさせた詫び? 姿を見ないと不安になるほど、すまぬが、そこまでの信頼関係は我々にはない。来なかったことのいいわけ? それは患者にではなく、職場の人にすることで。
「患者に・学会に行っていたことを・言う」、そのことが重要なんだよね。言う相手は、患者でなければいけないんだよね。そこで学会なるものは、権威の象徴として、用いられる。自分を精一杯かさばらせて見せるため、自分に敬意を払うことを求めるために。
そうか、学会に行っていた、ってことを言いに来てくれたのか。うんうん、ありがとう。で、どうしたらいいのかな。褒めてあげたらいいのかな。お医者様はお休みもお勉強で大変ですね。それとも、日曜日も学会だなんて、お休み返上でお勉強されるお医者様の鑑ですっ、けれど、体は大丈夫ですか、先生に倒れられてはわたし、生きていけませんっ、とすり寄ってみようか。と思ったら、すり寄り寸前のおばさまたちが結構いるのを知ってしまった。
洗面所での雑談や、聞こえてくる他の病室のおしゃべりから思うに、担当医の「学会に行ってまして」という報告にキュンキュンくる年配女性患者さんは少なくないらしい。
自分の担当医の学会出張自慢が繰り広げられる、休日明けの病室。
「学会、行ってはってんて」「うちの先生えらいなあ」「勉強家やわぁ」
おばさま方、学会って何かご存じですか。わたしだって入ってます。わたしだって行ってます。土曜日曜休日返上。しがない研究員のワタクシは、出張費なんざ出るはずもなく、交通費も自分持ちです。遠方上等!
おばさま患者のツボをぐっと刺激する「すみません、学会に行ってまして」。男性の方々、ぜひ、一度お試しを。医師でなくても通用するのか不明ですが。

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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