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それから数日後、宣材撮影の日が訪れました。「まだ小さい事務所だから」と言い、宣材写真は自腹になると説明されましたが、ほかの事務所で要求されたレッスン料と比べればたいした金額でもなかったのでそこまで気にならなかったです。社長の「これから皆と活動を続けるうちに一緒に事務所を大きく成長させていこう」という名目だけの偽りが、そのときの私には新しい情熱の種になってくれたのです。そう、地下アイドル業界のグルーミングはすでに始まっていたと言えるでしょう。

事務所が利用していた宣材撮影スタジオは一般人も利用することが出来る極普通の店でした。ヘアメイクが出来るアーティストさんたちがいて、店の隅っこにカーテンを使った簡易の脱衣室があって、お店専属のカメラマンが小さいスタジオスペースで撮影をしてくれる店でした。

専門家にヘアメイクをしてもらうという経験も初めてだったので、最初はとても特別な扱いをされている気分になりました。例え、自分でお金を払ったとしてもです。ヘアメイクさんはヘアメイクをしながら私を誉めました。もちろん、それが仕事だからというのもあるのですが、確かに専門家に任された髪型や化粧はとても綺麗に仕上がり、「芸能の仕事」への夢をより膨らませてくれました。

メイクがある程度完成すると、社長は「もっと若く(幼く)見えるように」とメイクさんに指示します。するとメイクさんは私の目じりの下にこげ茶のシャドウを足し、おめめがより丸く見えるように直しました。まだまだ若い女性をより若く見せる必要があるなんて、不思議な社会です。

それから脱衣室に行き、まずは私服の撮影と、次は何故かビキニの撮影が続きました。ブログに載せるためのプロフィール写真は今日取った写真から自由に選べて、私服の写真だけを使う用にと頼んでいたのですが、何故わざわざビキニの撮影が必要だったのかが疑問でした。ただ、なんとなく「日本のアイドルはそういうもの」という認識があったし、社長にもそうするようにと言われていたので流れに任せて撮影をしたのです。もうそこからが全て「仕事だから」という意識が働いたのかも知れません。そこで次のようなグルーミングが始まります。

水着姿で出てきた瞬間、男性のカメラさんと社長はあなたをほめちぎります。今まで親にもそこまで褒められたことない、という勢いで頭から足先までほめて来るので、一瞬「私がそこまでの価値のある存在なのかな?」と勘違いしはじめます。もちろん、人はそれぞれ十分な価値がありますが、ここで言う価値と言うものは「モデルとして」の価値を指します。アジアでは女性が素直に褒められるチャンスがほとんどなく、普通の外見で生まれても外見にコンプレックスを持つ女性が多いので、このやり手はかなり有効だと思いました。

それから彼らは自然に「この子、グラビアでデビューしたらめちゃくちゃ売れますよ」と一言を添えます。私が目指すのはただただ有名になることではなかったので、その言葉には何も答えませんでしたけど、もし私がそこでグラビアにも興味があると答えていたら、と思うと今もぞっとします。きっと、そうやってそれまで、そして今も、夢を追う少女たちをセクシャル的に消費される業界へ導いていたのではないでしょうか。そのカメラさんが社長と個人的な繋がりがあるかどうかは知りません。

撮影が終わった後、私が会計をするためにレジへ行くと、すでに社長が会計を済ませていることが分かりました。もちろん、領収書も社長の事務所当てです。とは言え、社長が特別に私の分を払ったわけではなく、後から現金で手渡しという形になっていたのです。人の前では自分が払う振りをするなんて、小さい事務所だとしてもやっぱり社長としての見栄なのかな?と思ったのですが、今振り返ると脱税をするためでもあったかも知れませんね。

週一回ほどのレッスンはより悲惨でした。ボーカルの先生は男性で、社長の個人的な知り合い。作曲もされているとても偉い人だと言われていたのですが、それが……偉そうに振る舞う割には物すごく音痴だったんです。先生から積極的に歌を聞かせてくれることはありませんでしたが、少しでも歌うとなると黒板を爪でひっかくような声のトーンでとても聞き苦しかったのです。最初は本人の歌の実力と教える実力は別なのかなと思い、何も疑わず通っていたのですが、何回かレッスンを繰り返している内にその「教える実力」も信用出来なくなってしまいました。

私は歌が歌手ほど得意ではありませんが、カラオケで採点をしても音程を派手に間違えたりはしない普通のレベルの人です。しかし当時一緒に活動していた他の子たちは、歌がかなり苦手で声を出したり、音程を合わせたりすることにも苦労をしていました。なのに、その先生は何故か私だけを毎回摘まみ出し、駄目駄目と指摘をして来ました。

「売れるためにはとても上手かとても下手かどっちかじゃないと駄目なのに、貴方は中途半端に下手でただの自己流だ」と言われたのです。他の子たちが音程を派手にずらしていても何も言わなかったのに、最初は聴力に問題があるのかな?と不思議でした。正直、私が「韓国人」だという理由であり得ない形で言い掛かりを付けられたのはそれが初めてではなかったので、後からは聞き流すようにしました。ですが、歌を最も学びたかった私にとって、レッスン料まで払ってそういうレッスンを通わせられるのは大きな時間のロスでした。

ダンスのレッスンはまだ充実していたのですが、先生はすでにライブハウスにデビューを果たしている子たちを中心にしてちゃんと見てくれなくて、私のような新人には目も向けてくれませんでした。一番後ろで遠くの先生や先輩たちを見ながら真似をするのが全てで、動画を見て独学するのと同じレベルでした。最初は「芸能界は厳しい」から、そういうのが当たり前なのかなと思っていましたが、今考えると、どうせ皆すぐ辞めていくのが目に見えていたからそこまで積極的に教えていなかったのかも知れません。

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JayooByul

JayooByul(じゃゆびょる)

JayooByul (ジャヨビョル)日本のお嫁さんとオーストラリアで仲良くコアラ暮らしをしています。堂々なるDV・性犯罪生存者。気づいたらフェミニストと呼ばれていました。毒娘で幸せです。

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