反応に困るレッテル
私はDV被害者の離婚等家事事件に熱意をもって取り組んでいる。被害者側で献身的に頑張っている弁護士に対して、DV加害者から、「悪徳弁護士」「俺の妻を洗脳した」etc.とそしられることは、日常茶飯事。私にとっても、耳にタコ。そう言われれば、「DV被害者の代理人を務める先輩弁護士に一歩近づいているんだ」と思うことにしている。
今まで思うままに虐げ、従えてきた(と思っていた)妻が、自分とは独立した考えや感情を抱いていて、あろうことか、自分との離婚を決意して、代理人をつけてアクションを起こしてきた…。なんて、加害者にとって、想定をはるかに超えているのだろう。
しかし、落ち着いて考えてみてほしい。…私が「洗脳」したのではなくて、あなたの妻が自分自身で決意し、私に依頼してきたんですよ。認めたくないのだろうけど。事実を直視しましょう。それにあなた、いくらなんでも、悪徳なわけないでしょがっ、…。とぶつぶつ毒づくのはもちろん内心だけ。終始沈着冷静、粛粛と手続を進めるのみ。
そんなわけでその手のそしりには慣れている。しかし、「左翼」と言われているときいたときは、面くらった。どこからの連想かは知らない。反応に困る。何が左翼か正確な分類は知らない。自分では「中道かな?ま、そういう区分けよりフェミニストって言いたいところだわ」というくらいの認識。それでも、慌てて「左翼ではありませんっ」と否定するのはどうかと思う。そうしてしまったら、左翼が「負の存在」でありそれとは距離を置きたいと私が考えているようなことになってしまう。別に左翼か中道か右翼か何だかにかかわらず、誠心誠意弁護士として依頼者のために頑張るのに変わりない。どうであれ、依頼者の最善の利益のために頑張るのが良い弁護士。
そもそも、なぜそんなことを言うのか。「左翼」であることを無色な「事実」として指摘したのではないだろう。私の弁護士としての能力、誠実さを疑わせるレッテルはりをしてみたのだろう。ん?恐ろしいではないか、「左翼」が負のレッテルとして通用しているとは…。「左翼とは」「サヨクとは」で検索してみると、罵詈雑言がたくさん出て来る。そんなネット時代において、いまさら驚いてみるのは、あまりにナイーブか。
「負」の記号としての「在日」?
ほかにも、一部の人から「負」の記号とされる用語があるようだ。たとえば、私が弁護団の一員として鋭意頑張っている民法750条(夫婦同姓)が違憲であり女性差別撤廃条約に違反するという訴訟の記事がWeb上に出ると、原告らにつき、「こいつら在日」といったコメントがざくざく続いた。「在日」…?平等や人権について問うにあたり、在日日本人だろうと在日朝鮮人韓国人だろうと意義は変わらないと思うが(というか、日本人同士の婚姻の場合に夫婦同姓しか認められないのが困るのだが)、なぜにそうわざわざコメントするのかというと、違憲と主張する私たちのことを「気にいらないヤツと見なす」=「在日認定」という意味においてらしい。
先ほどの「左翼」と同様、ここで「在日ではない」と慌てて弁明するのも、妙だ。否定すれば、こちらも「在日」を「躍起になって否定すべき負の存在」とみているかのようになってしまう。
そういえば、在日の出自である弁護士が代理人についている事件につき、相手方から、裁判所に提出する書面の中で(いや、口頭でもとんでもないが)、「在日にありがちなウソつき」といった訳の分からないヘイト文句が書きなぐられていることがあるという。ええっ。裁判所はそんなヘイト書面に辟易するだろうが、それにしても、裁判所に読んでもらう書面(Web上の匿名の書き殴りよりも一応体面を気にしてしかるべき媒体では?)にそういうことを書いてもいいと思う人が少数でもいるというのは、この社会、どんだけ荒れているのか?/大丈夫か!?と目がくらむ。
選択的夫婦別姓を求める私たちに対する「在日」「在日」というWeb上の「そしり」をぼうっと目にしながら、どんよりした気分になる。罵詈雑言を書き連ねるひとたちに、憲法や、女性差別撤廃条約の素晴らしい条文のことを説明してあげたい、と夢想する。ああでも、とうに私たち弁護団の書面はWeb上にアップされている(別姓訴訟を支える会)。読んでほしいなあ…。条件反射的な罵倒をしているのに飽きて、クールダウンして、ふとクリックしてじっくり読んで、「なるほどなあ」と思ってくれて…。無理やりな楽観か。いや、無理やりでも前向きに!!
首相の「ヤジ」の意味
無理やり前向きに気持ちをもっていこうとしても、安倍首相のヤジをも思い出すと、さらに気持ちが沈む。2月19日、衆議院予算委員会で玉木雄一郎議員の質問中に、首相が「日教組!」とヤジを飛ばした。その後野次の説明につき「日教組から補助金をもらっている」などと発言したが、さらにその後その説明は誤解であったとした。そのような正確でないことを首相が国会で述べること自体も(いくらその後訂正したとしても)問題だが、当初のヤジ自体非常に問題であり、その問題の深刻さからするとマスコミの扱いはあまりに小さかったのではないだろうか。
試しに「日教組」をWeb上で検索すれば、「反日売国組織」「反日政治団体」etc.とこれまた一部から罵倒の対象になっていることがわかる。
Web上で、「日教組」は、「反日」「売国奴」「在日」等、ネット右翼が好んで使う罵倒の言葉のひとつであるという(濱野智史「批判を封じる『魔法の言葉』注視せよ」毎日新聞3月21日朝刊に安田浩一氏の指摘として紹介されている)。議論でなく、問答無用の「敵性認定」のレッテル貼りが、国会で、それも首相からなされるなんて、あまりに哀しすぎる。
「在日」「反日」「左翼」「日教組」…。あ、「フェミニスト」も、「敵性認定」レッテル群のひとつ?意見が違っても、穏やかに議論しましょう、と思っていても、いきなり「敵性認定」されると、面くらう。返す刀で「このネトウヨが!」etc.と言ったら、同じ穴のムジナか(苦笑)。ああ本当にしんどい。でも、暗くなってもしょうがない。議論をすれば意外に理解し合えるかもと思って、その日に向かって修行するのみ。頑張ろう!!