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あまりにも急に実施されることになった経口中絶薬メフィーゴパックのパブコメを盛り上げようと、朝日新聞の論座や講談社のFRaUにオンライン記事を書いたり、中絶薬について説明する動画を作ってYoutubeに載せたりすることで2月は手一杯だった。2月末は前々から予定されていた海外旅行に出ていたので、時間を間違えてあやうくパブコメを送り損ねるところだった。でも最後の1時間にはたと気づいて、日本時間の23時58分にどうにか自分自身のパブコメを提出することができた。その時の連番を見て「もうちょっとで1万件だったのに」と考えたことをはっきり覚えている。

パブコメの結果については何も聞こえてこなかった。承認の有無が審議されるという薬事・食品衛生審議会 薬事分科会は、3月24日に開かれることになっていたが、3月10日の開催案内にはメフィーゴパックに関する議題は載っていなかった。ところが、またしても開催1週間前の3月17日に開催案内が修正され、以下の情報が追記された。

非公開案件
〔審議事項〕
1.医薬品メフィーゴパック の生物由来製品又は特定生物由来製品の指定の要否、製造販売承認の可否、再審査期間の指定及び毒薬又は劇薬の指定の要否について

審議事項は前回の部会と同じである。この分科会の他の議題は、公開のもので7件、非公開の各部会からの報告で25件と多数にのぼるがすべて「報告事項」で、メフィーゴパックだけが非公開の「審議事項」になっていた。薬事・食品衛生審議会 薬事分科会の委員名簿(令和5年1月26日現在)を確認したところ、産婦人科医は一人も見当たらない。(部会についても改めて名簿を確認したところ、やはり産婦人科は見当たらなかった)果たしてこれで「審議」できるのか。担当部署から提出された内容をそのまま了承するだけの会議ではないのだろうかといぶかしんだ。

3月になって、海外のアクティビストから「この秋に日本に行くので会いたい」という連絡がきて、メールのやりとりをし始めた。その時、ついでのつもりで日本の中絶薬の承認審査の現状を知らせ、24日に審議することになっている4つの論点を説明した。すると、そのアクティビストからすかさず、「WHOには連絡したか? ラインファーマの●●には? 自分の方は中期中絶薬の専門家に連絡を取ってコメントをもらうから」と急かされることになり、「次の会議はいつになるのだろう」などとぼんやり待っていた自分の間抜けさに気づかされた。
そのアクティビストにとって引っかかったのは、劇薬指定されている製品名プレグランディン(一般名ゲメプロスト)と同等の厳格な管理をするという部分だった。そもそも古くて他の国ではもはや使ってもいないゲメプロストを使っていること自体が問題なのに、安全で確実なミフェプリストン+ミソプロストールを劇薬と同等に扱うなんてありえない、というのだ。私もそこに引っかかりながら、何も対応できていなかった。すかさず反応した彼女の行動力に舌を巻いた。

結局、そのアクティビストと共通の知り合いであるWHOのオフィサーからは、いつものとおり、「WHOから日本に対して直接指導することはできない」との返事をもらった。ただし、ゲメプロストに関しては、WHOは2003年のガイドライン『安全な中絶』ではミフェプリストンと組み合わせる薬の候補の一つとしてミソプロストールと共に言及していたが、2012年の「安全な中絶第2版」では言及されなくなった(つまり「安全な中絶方法ではない」とWHOは見ている)という、私の理解で正しいと太鼓判を押してくれた。もう一人、やはり共通の知り合いであるラインファーマ社の重役は、3月初めに唐突に「今日がラインファーマ社での最後の日」というメールを送ってきたきり、連絡が取れていなかった。日本での中絶薬の販売に10年以上も前から意欲的だった彼女が、日本での承認を目の前に突然辞任したことはあまりにも意外で、これについては今も嫌な予感がしてならない……。

ともかく、前述のイギリス人アクティビストに背を押されるように、私は分科会の前日、23日の夜にオンラインでメディア・ブリーフィングを決行することにした。開始の案内を出してからの周知時間は24時間を切っていたにも関わらず、十数人もの記者が集まったのは、関心の高さを表していると言えるだろう。時間が合わないが資料がほしいと連絡してきた記者も数人いた。このブリーフィングで私は記者たちに、翌日の会議は「承認」だけではなく、プレグランディンに合わせた「厳格な」取り扱いなど、他の3つの審議事項が通るかどうかに目を向けるよう注意を促した。そして、もしこれらの事項が肯定された場合には、その「エビデンス」を示すよう求める質問をしてほしいとお願いした。

3月24日、新聞記者をはじめとするメディアの人々は、今度の今度こそ「承認」だろうと身構えていた。ところが、分科会の冒頭で厚労省の担当者から、メフィーゴパックのパブリックコメントが1万2000通と予想を超える数が集まり、分析に時間を要しているとの理由で、その日予定されていた審議を見送ることが発表された。またまたの肩すかしである。次の審議はいつ頃になりそうかと質問した記者もいたそうだが、答えは得られなかったという。承認に賛成する意見と反対する意見は2対1だということだけは、厚労省が明かしたという。
オンラインのコメントの通番が1万件近くだったことを思えば、残り2000件は手書きで寄せられた意見だと考えられる。キリスト教系の病院で組織的に反対意見が集められていたとの噂も聞いている。手書きのコメントの多くは、インターネットを使わない高齢者によるものだったのかもしれない。

ここまで来て、次の策を練るために、私はパブコメ時に添えられていた80頁を超える資料の存在を思い出し、プリントアウトして、読み始めた……そして、自分のうかつさを思い知らされた。それは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構による「審査報告書」だった。専門的な小難しいことが書いてあるのだろうと思ってきちんと読んでなかったのだが、冒頭に機構の「審査結果」がしっかり書き込まれていた。

別紙のとおり、提出された資料から、本品目の子宮内妊娠が確認された妊娠63日(妊娠9 週0日)以下の者に対する人工妊娠中絶に関する有効性は示され、認められたベネフィットを踏まえると安全性は許容可能と判断する。以上、医薬品医療機器総合機構における審査の結果、本品目については、下記の承認条件を付した上で、以下の効能又は効果並びに用法及び用量で承認して差し支えないと判断した。

承認条件は以下の2つである。

1.医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること。
2.本剤が母体保護法指定医師のみにより使用されるよう、関連団体等と連携して流通等の管理を実施することも含め、必要な措置を講じること。

さらに、別紙の最後の方に次の総合評価がまとめられていた。

総合評価
 以上の審査を踏まえ、機構は、下記の承認条件を付した上で、以下の効能・効果及び用法・用量で本品目を承認して差し支えないと判断する。なお、本品目は新有効成分含有医薬品及び新投与経路医薬品であることから、再審査期間は8年、生物由来製品及び特定生物由来製品のいずれにも該当せず、ミフェプリストンの原体及び製剤、並びにミソプロストールの製剤はいずれも劇薬に該当すると判断する。

すべて「答え」は出ていたのだ。「生物由来製品には当たらない」「承認して差し支えない」「再審査期間は8年(厚労省のサイトで調べたところ、新有効成分含有医薬品に該当する薬の再審査期間は8年、新投与経路医薬品は6年とされていた)」「劇薬扱いにする」ことで厳格に管理するということだ。ただし、報告書のどこにも「劇薬に該当する」根拠は示されておらず、この総合評価でのみ唐突にこの言葉が出てくる。厚労省のサイトにある「毒薬・劇薬指定基準について」[1]に照らしてみても、メフィーゴパックが該当するとは思いにくい。

現在、日本のこうした取り扱い方について、中絶薬の専門家である海外の医師やアクティビストたちは、「薬による中絶は、自然流産(黄体機能不全)と同じである。1988年にフランスで初めて承認されて以来、世界で最も安全な薬剤の一つだと証明されており、その効果は98%と非常に高い。自然流産は、人類が誕生して以来、女性が自分で処理してきたものだ。薬による中絶を自然流産と異なる方法で処理する理由はない」「中絶薬は安全で効果的であり、望まない妊娠を終わらせるために世界中の何百万人もの人々が使用してきた。なぜ日本の女性だけ利用を拒否されるのか?」「厚生労働省はパターナリスティックであってはならない - 女性にはリプロダクティブライフに関する自己決定が必要だ。最小限の規制で女性の手にピルを渡してください」などの意見が集まっている。そうした海外の専門家の声が広まっていくことで、厚労省が中絶薬を危険なもの、特別な医師でなければ扱えないものと見せかけていることの嘘が暴かれていくだろう。

現在、4月上旬、まだ中絶薬メフィーゴパックは承認されていない。しかし、承認されたとしても今のままでは使いにくい薬になってしまうことは目に見えている。不必要な「厳格な管理」が行われないよう、国民の側も知恵をつけていこう。

後日談:この原稿が公開される前の4月21日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会 薬事分科会でメフィーゴパックは承認されました。いろいろな条件付きの承認であることを新聞記者から聞いていますが、現時点(4月25日)で厚生労働省のサイトにおいて詳細は公開されていません。


[1] 資料3の14頁(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000014658.pdf


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塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書に『日本の中絶』(筑摩書房)、『中絶のスティグマをへらす本』(Amazon Kindle)、『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)、翻訳書に『中絶がわかる本』(R・ステーブンソン著/アジュマブックス)などがある。

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