先週末、映画を見に行こうとマンションの敷地の駐車場に止めてあった自分の車に乗り込もうとしたら、車に傷がついていた。同じ敷地内の1階に入っているテナントが壁(筆者の車の後ろに位置する壁)に立てかけていた資材が、風であおられて倒れ、車のバンパーにざっくり傷をつけたのだった。
まずは証拠写真を撮り、それからマンションの管理会社に電話した。1階のテナントは週末にいないことが多いのと、加害者側と直接やりとりするより管理会社を通したほうがいいだろうと判断したためだ。
管理会社に事情を説明すると、資材は1階のテナントが壁に立てかけていたものであることから、管理会社の対応するケースではないことが告げられ、管理会社から「そのテナントに電話しておくが、その際、おたくの連絡先を先方に伝えてもいいか」と確認された。やむを得ないので、連絡先を伝えることを了承した。さらに管理会社から、先方から連絡が来るのをしばらく待っていてほしいと言われた。
次に、車の保険会社に連絡した。先日、自動車保険の更新をした際に、車両保険に入っていてよかった事例を聞いていたからだ。そのとき聞いた保険会社の話によると、最近、加害者が高齢ドライバーで、その高齢ドライバーが車両保険に入っていないケースが多いとのこと。裁判沙汰になっても、財産の差し押さえで長期化するケースや、財産もなくて被害者が泣き寝入りするしかないケースが増えているらしい。車両保険に入る経済的な余裕がなくなっていたり、事故を起こしてないから入らなくても大丈夫だろうと判断したりして、車両保険に入っていない高齢者が増えていると言っていた。
保険会社に電話して事情を説明した。保険会社は「車両保険には入っているが、車を運転しているときの物損が対象で、車を運転しないときの災害による物損は適用外。加害者側が入っている保険で対応することになる。保険に入っていなければ、先方の自腹になるだろう」と説明した。いずれにせよ、このケースは保険会社が介入しないケースであることのことだった。
次に、念のため、警察にも電話した。敷地内とは言え、車両に傷がつけられているから、第三者による被害の証明が必要だと考えたからだ。事故証明でも出してもらえるのではないかと思ったのだ。実は1カ月ほど前、同じマンションの別の車が傷つけられるという事件が起きており、「目撃情報があれば警察に連絡を」と掲示板に張り紙が貼られていたのだった。
110番通報すると、「事件ですか事故ですか」のやりとりから始まった。資材で車が傷つけられた旨を説明した。すると警察は「いま、〇〇(筆者の住所)から電話をかけているので間違いないですか?」と電話している場所の特定をしてきた。警察は携帯番号の位置情報をつかんでいると知った瞬間だった。
固定電話ならすぐに特定されて当たり前だと思っていたが、携帯電話であっても、どこから警察に電話をかけているか、警察はすぐさま把握しているのだと知った。警察とやりとりしながら、気味が悪い気分になった。
それでもやむを得ず警察に説明を続け、一通り話し終わると、警察から「この後、最寄りの警察署の職員が駆けつけるので、待っていてほしい」と言われ、電話を切った。
どこにも行けずに、強風が吹きつける中、警察職員が来るのを待っていた。しばらく待っていると、最寄りの警察署から電話がかかってきた。内容を確認するために、再びことの顛末を一から説明した。すると「相手が誰だかわかっているし、車を運転しないときの物損だから、交通事故の扱いではない。警察の出る幕ではなく、民事不介入」というのが警察側の結論だった。残念ながら、警察は証明してくれなかった。
管理会社にも、保険会社にも、警察にも相手にされず、自分一人で先方と対峙するしかなかった。こじれなければいいが……と不安な心境で、加害者側からの連絡を待った。するとしばらくして、マンションの管理会社から連絡を受けた先方が現れ(実は、1階のテナントに在宅だった)、先方も傷つけた車の写真を撮影し、幸い、すんなり過失を認めた。
加害者側も保険適用か確認してから、また連絡すると言う。映画を見に行くことを諦めて、行きつけのディーラーに修理の見積もりを出してもらうために電話をかけた。ディーラーは、今すぐ見積もりの対応ができると言ってくれた。そのままディーラーへ直行。同じく車の傷ついた箇所を写真に撮ってもらい、見積もりの書類を作ってもらった。8万円弱だったが、部品を交換するだけの作業だから、すぐに終わるということだった。
次の日、最寄りの警察から着信があった。「不介入」と言っていたのに、警察から電話がかかってきたのだ。事故証明でもする気になったのかと、折り返しの電話をかけたところ、報告書を作るために聞きたいことがあると言う。
まず、筆者の名前のフルネームを聞いてきた。漢字も詳しく、である。仕方なく名前は教えた。すると次に、生年月日を聞いてきた。思わず、「はぁ?」と問い返した。資材が倒れて車に傷がついたことと筆者の生年月日に、いったい何の関係があるのか。
筆者 「今回のケース、警察は不介入なんですよね?」
警察 「はい。不介入です」
筆者 「だったらそんなこと、どうでもいいじゃないですか」
警察 「いや、報告書に書かないといけないんで……」
筆者 「資材が倒れて車に傷がついたことと私の生年月日に何の関係があるんですか? 不介入なのに、なぜ、そんな個人情報が必要なんですか?」
警察 「……だったら、もう結構です」
筆者 「そうですか。では失礼します」
報告書に書くからと、何の必要もない個人情報を平気で聞いてくる警察の態度に、怒り心頭に発する気分だった。
警察の報告書の様式も、見直されることなく「例年通り」で今日に至っているのだろう。かつて、健康診断の問診や手術の同意書に「未婚・既婚・死別・離別」の記入欄があったように。
個人情報は「闇バイト」の被害報道がなされてから、本当に必要なときしか言わないし、書かないようにしている。警察も個人情報の取り扱いには敏感になるべき時代ではないだろうか。