今フランスを揺るがしている年金改革について、来たる4月14日、憲法評議会が違憲であるかどうかの判断を下す。その結果が注目されている。
年金改革は、年金支給年齢を64歳に引き上げる(現在は62歳)というのが目玉の改革だが、フランスでは非常に抵抗が強く、国民の8割が反対している。国会で審議されていた1月半ばから、ここ2カ月で合計11回の全国的な大規模デモが組織され、いずれも100万人以上を集めている。
法案は上院を通過したものの、下院で採決にかけたら否決されるとみた政府は、3月16日、49-3(憲法49条3項)という禁じ手を使ってこれを可決した。49-3というのは、採決を通さないで政府が法案を可決することができる特例で、日本であれば強行採決に当たる。憲法に定められてはいるが、採決にかけないということは議会の存在理由を危うくするものだから、そんなに頻繁に使ってよいものでは当然ない。しかし現ボルヌ内閣は、昨年6月の国民議会(下院)選挙で過半数を失ったため、頻繁にこの手段に訴えている。この年金改革法への適用はすでに12回目だ。
これに反発して、法案成立を阻止するため、野党Nupesが24時間以内に内閣不信任案を提出した。この時、注目に値することが起こった。内閣不信任案は、結果的にはいつもと同じように否決されたのだが、その差はたったの9票だったのだ。
これほどの僅差では、否決されたとはいえ、結果を重く受け止めるべきと人々は考えたが、政府は意に介さなかった。それが人々の怒りの火に油を注ぐことになり、3月23日のデモは空前の動員数を記録した。この時点で、人々の怒りは年金改革自体よりもマクロンの政治のやり方に向かったと言ってもいい。民主主義を無視しているというのだ。
その後もデモはまだ続いている。直近の4月7日は、少し動員数は減ったとはいえ57万人(内務省発表)は参加しているのだから、日本のデモとは桁が違う。今回のデモは若者を集めていることも特徴だ。
フランスのこうした運動を見ていていつも面白いと思うのは、法案が成立してしまっても決して諦めたりせず、根気よくデモ行動を繰り返すことだ。その理由の一つが、今回も注目されている、憲法評議会の存在だろう。フランスでは、法が成立すると、その施行前に憲法評議会が違憲か否かを判断することができる。だから、法案が可決されてしまっても憲法評議会の判断一つで、その法は施行されなくなる可能性が残っているのだ。日本の違憲審査は、法律が施行されて不都合が起こってから、その個別の事件を裁判にかけるという形でしか行うことができないから、明らかに違憲な法律がゴリ押しで通ってしまったら、もう事件が起こるまで何もできない。
そういうわけで、憲法評議会にプレッシャーを与えるため、判断の下される4月14日の前日13日には、また全労組が全国的なストライキとデモを呼びかけている。今回はまた大人数が集まることだろう。マクロン大統領の支持率は、「黄色いベスト」運動の最盛期に並ぶ低スコアに落ち込んだ。今、大統領選挙があったら、極右のマリーヌ・ルペンが難なく選ばれるだろうと予測されている。
憲法評議会が違憲の審判をすれば、年金改革はお蔵入りして、人々の怒りはおそらく静まるだろう。しかし合憲と判断されたりしたら……。
フランスでは、憲法評議会の違憲判断が出なくても、諦めずに反対運動が盛り上がったときに、可決されたはずの法律が施行されなかったという前例がある。
反対運動はエスカレートして、どこに行き着くかは、誰もわからないのではないだろうか。この運動が、年金改革反対を超え、マクロン政権下で民主主義が機能していないことに対する異議申し立てとなっているとすれば。