大学生活が始まっても、日本の生活はそんなに簡単ではありませんでした。電車では少しでも人が多くなると、わざわざ体を密着させてくる痴漢がいます。電車の揺れに合わせて下半身を変に揺らして来る男なんて笑えるレベルですね。スカートを履いていると、ホームで満員電車に乗るタイミングを狙って私の脚の隙間を一瞬で触って逃げる人もいました。振り向くころはもう誰もいません。通過する駅の多い埼京線には、痴漢防止のため車内にカメラが設置されていますが、物事は大体満員電車の中、カメラでは見えない下のほうで起きているので犯人が見つかるわけがありません。
性犯罪にさらされるのは、交通機関の中だけではありません。ただ道を歩くだけでも、自転車に乗ったままお尻や胸を触って逃げる男たちに遭遇します。すると、その日楽しかった一日はあっという間に壊れ、泣きながらの帰宅になります。全く同じ経験をした知り合いや友人の話もたくさん聞きました。
断っても断っても、しつこくつきまとうナンパも欠かせないですね。何回嫌だとハッキリ断っても「本当にダメ？」と聞きながらずっとついてきます。警察を呼ぶと叫んでもへらへらとバカにしながらやめてくれません。その中には性売買を申し込む男もいました。新宿から新大久保まで追っかけて来た男は、夜のお店で働く女の子を探していました。新宿や渋谷を一人で歩いていると、必ずAVやグラビア撮影の勧誘が続きます。断ったら「もったいない」と言われたこともあります。一体何が？誰にとってもったいないか？と疑問に思いますよね。
普通の客引きも男になると、「彼氏何人いるの？ 沢山いそうだけど」と不愉快な冗談を言いながらついて来たり、セクハラまがいのことも平気で言ったりしてきいます。急な雨で服が濡れたりするとそこら辺に座って盗撮を試みる男がいるし、脚フェチだからと脚だけ取らせてくれとねだってくるカメラマンもちょこちょこいいます。履いてるストッキングを売ってくれと言う男もいましたね。
初めてコンビニの面接を受けたときは、スーパーバイザーに眼鏡を外すようにと言われそれに従ったら、急に可愛いねと言われたことがあります。その時はただの社交辞令だと思いましたが、その後バイトを辞めた夜かかってきた電話で「俺の事どう思う？」と聞かれたので、最初から下心があったんだと後になって気づきました。「どうって、スーパーバイザーですよね？」と適当に交わし電話を切り、速攻ブロックしましたが、その時のぞくっとした感じはいまだに忘れられません。当時の私より少なくとも10～15歳は離れて見えたし、私の個人情報を全部持っている男が仕事を辞めた後に私に電話をかけてくるとか、まず個人情報取り扱い違反の犯罪です。
空港で鉄道関係の仕事をしていたころは、急に「鉄道娘」と言う女性を対象化したキャラクターが流行り「娘」たちの手袋を盗みに来るオタクも増えました。制服を着ているから簡単に断れないだろうと思い、しつこく誘って来たり、制服姿を盗撮しに来たりする男もたくさんいいました。
そういう毎日を繰り返している内に、私にある変化が起こりました。最初は視線をやらないように慌てて通っていたコンビニや本屋のエロ雑誌コーナーも、いつの間にか「またか」と素通り。ドン・キホーテに売っていた「女子高生の尿の香り」と言うわけのわからない香水を見ても「日本だもんね」と何とも思わなくなってきました。最初は顔を赤くしたり、嫌悪感を感じたりしていたのが、日本に住んでいるうちに徐々に慣れて行ってしまったのです。だから今も、よっぽどのものを見かけない限り素通り出来るようになりました。
そう言ったイカれた性文化やありふれた性犯罪の頻繁な露出は、人の脳を麻痺させていきます。よって、次から次へとより強い刺激を求めるようになったり、「普通」じゃ何の刺激も感じなくなったりしてしまいます。きっと、女性の人権についてまったく問題意識が持てない日本人女性が多いのも、こういった理由からなのではないかと思います。だから、性犯罪に遭った話をしたときに同じ女性からも「あなたは美人だからね、モテモテだね」などの共感の欠けたリアクションが返ってくるようになります。その繰り返しの中で、女性は段々と自分で考えることを諦めてしまうのです。10年前、韓国で他の女性たちの前で初めて自分の経験をシェアした私のオヨメは「そんな男絶対天罰に当たる！」と過剰(正常)な反応をされ驚いたと言っていました。それまでは誰一人そこまで言ってくれる人がいなかったと。
だから、日本が性犯罪率の低い国だというのは絶対嘘。性犯罪に遭ってもそれが性犯罪だと気づかない(ように洗脳された)女性が多いだけだと私は思います。実際、状況を聞くとあきらかに強姦なのに「流れでそうなってしまった」と信じている女性を大勢見てきました。そんな周りの女性たちに流され、「日本は性的にオープンな文化なんだ」と、性犯罪を軽視するようになってしまう留学生も沢山見てきました。
また何かあって警察に通報したところで、それは決してフォローアップされない。状況を説明しているうちに散々二次加害され、逆に苦しむ女性も多いでしょう。今は削除されてしまいましたが、約10年前、日本でレイプされ警察を訪ねた白人女性のYoutube動画はかなり衝撃的な内容を含んでいました。レイプされた被害者にも関わらず、その女性の服装を指摘し、病院にも連れていってくれない。レイプキット(強姦検査)も用意してくれず、自分で紙コップに尿を溜めて提出したけど、その後ちゃんと検査が行われたかもわからない。何回も抗議したら取り調べはしてくれたが、大勢の男の警官が見る前でマネキンを使いどんな体位でレイプをされたか詳細に描写しなければならなかった、など。先進国とは信じられないくらいの非人道的な対応でした。実際、検事として働く知り合いに尋ねたところ、日本にはレイプキット検査が出来る病院も全国に五カ所くらいしかないらしく、普通の女性がレイプされたことを証明するのは非常に難しい状況であると言いました(2015年時点)。私の場合、日本で地下アイドルの活動をしながら経験/目撃したグルーミングや児童性犯罪もたくさんありますが、そのときも警察は何もしてくれませんでした。その経験もまた長くなるので今度別のコラムでお話しします。
ここからは少し感情的に書かせてください。最近「キモイ」という言葉は男性差別発言だと騒ぐ男たちが増えましたね。しかし私はこの「キモイ」はむしろ男性優遇的な発言だと思っています。呑気で、性犯罪を犯してくる男たちを、本当は「リサイクルも出来ないゴミクズ」と言いたいのところを「キモイ」という軽い言葉で済ませてるんだから、全然可愛いレベルじゃないですか。
事実を言うと「差別だ」とか「嫌悪だ」と権利を主張する虐待者たち――その「権利」は、何故いつも「権利を奪う側」のために働くのでしょうか？
