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スクールフェミ  放送法は誰のため? 〜国民の知る権利を守れ〜

深井恵2023.03.18

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統一地方選挙が始まる。選挙モードの報道になっているかというと、残念ながらどこもかしこもWBCの話題にかなりの時間を割いている。政権の有り様に目を向けなければならない大事な時に限って、大きなスポーツイベントがそれを阻む傾向にあると思われるのは気のせいだろうか。

3月2日に立憲民主党の小西洋之参院議員が公表した、放送法の「政治的公平」に関する総務省が内部告発した文書は、放送法の根幹に関わる重大案件だ。2015年当時の安倍政権下、礒崎総理補佐官(当時)や高市早苗総務大臣(当時)の生々しいやりとりが公文書として記録に残っていた。

そもそも放送法は第二次世界大戦時、ラジオが政府の宣伝に使われた大本営発表の反省のもと、1950年に制定された。時の権力に報道機関が屈することなく、国民の知る権利を保障するため、自由な報道を保障するために定められた。

これまで総務省は政治的公平に関して「1つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断する」という立場だった。しかし安倍政権下で、これまでの解釈を変更して、「1つの番組でも、極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」と当時の総務大臣高市氏は答弁した。さらに高市氏が、「政治的公平を欠く放送を繰り返せば電波停止を命じる可能性がある」と言及したことは記憶に新しい。

高市氏の放送法の解釈変更につながる答弁の前に、安倍氏がアベノミクスに批判的な報道に不快感を示したり、公平中立な番組作りを自民党が要求したりもしており、政権に都合の悪い報道を潰しにかかっていた。

当時の山田真貴子首相秘書官が「どこのメディアも萎縮するだろう。言論弾圧ではないか」との懸念を示していたようだが、安倍氏は「正すべきは正す」としたという。

今回立憲民主党の小西議員が公表した文書は、公文書管理法の対象の行政文書と位置づけられ、真実性が高まった。しかし、その文書を「捏造」と高市大臣は言い放った。小西議員に「捏造でなければ閣僚と議員を辞職するか」と迫られ、高市氏が「結構だ」と述べた国会でのやりとりは、安倍元首相の森友学園問題をめぐる国会でのやりとりを思い出させる。

「私や妻が関係していたら、総理大臣も国会議員もやめる」などと発言したことが、後の公文書改竄につながり、心ある公務員だった赤木俊夫さんを追いつめた。

今回小西議員に託した総務省の内部文書をめぐって、第二の赤木さんを出しはしないか心配になった。

2015年頃といえば、NHKの「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターの降板やテレビ朝日の「報道ステーション」の古館一郎キャスターの降板が思い出される。ともに健全な政権批判がなされていて、見るのを楽しみにしていた番組だった。

「クローズアップ現代」を見て、「報道ステーション」を見て、「ニュース23」を見て、就寝するという平日を当時送っていた。ところがあいつぐ降板で、夜に見る番組がなくなった。加えて、勤務場所が遠くなった関係で早寝する必要に迫られ、「ニュース23」は録画して次の日に見るようになり、夜に見たい報道番組は完全になくなってしまった。

週末は土曜日の「報道特集」と日曜日の「サンデーモーニング」を欠かさず見ている。こちらも見逃さないために毎週録画している。「報道特集」の金平茂紀さんのレギュラー降板も、政治圧力に屈したのではないかと懸念していた。

その「報道特集」でも3月11日、今回の放送法について特集されていた。その中に、総務省で放送行政に携わってきた元官僚の証言があった。安倍政権になってからの総務省内の変化について、「官邸の力がかなり強まっていたので、官邸の顔色をうかがうところが強くなっていたと思う」と証言していた。

第二次安倍政権下では内閣人事局が設置され、中央省庁の幹部人事が官邸によって決められるようになり、官僚が政治家の顔色をうかがう傾向が強まっていった。

証言した元総務官僚はまた、「この放送法の件は、いわゆる安倍政権になっての『忖度の走り』。この件を1つの成功体験として、この話の後に森友問題・加計問題みたいなものが起こっていく。これが官邸主導の実態だと思う」とも話していた。

そして政権によるこうした圧力のようなものが報道機関や放送行政にどういったスパンでどのような影響が出てくるかについて聞かれると「すぐに影響が出てくることはないと思う。ただ、10年20年という時間をかけて、放送業界に対して萎縮的な、例えば時の政権に対して都合の悪いことはなるべく言わないとか、言うにしても言い方を変えるみたいな影響が及んでいくと思う」と述べた。

行政文書で官僚が意図的に中身を変えることがあるのか、との問いには「官僚が捏造することはないし、それを残すようなこともない」と話していた。

高市氏は「捏造」と決めつけたが、果たして本当に捏造なのか。今後の動向が気になるところだ。

続いて「報道特集」では、放送法について、法案作成の際に使われたとみられる想定問答集「放送法 質疑応答録案」(1948年逓信省作成)を取り上げていた。

その問答集の中には「本法の必要性。放送をいかなる政党政府、いかなる政府の団体、個人からも支配されない、自由独立なものとしなければならない。政府が干渉すると、放送が政府の御用機関になり、国民の思想の自由な発展を阻害し、戦争中のような恐ろしい結果を生ずる」と書かれていた。

いままさに、同じ過ちを繰り返そうとしているのではないか。そのことを多くの方々に知っていただきたい。そして、同じ過ちを繰り返さないよう、しっかりと政府を監視してほしい。

また同じく「報道特集」では、放送法に詳しい川端和治弁護士に取材していた。その川端弁護士の言葉を紹介する。

「不偏不党でない放送は取り締まるべきという議論や(放送法は)政府が放送局に対して要求する条文だという人がいるが、それは明らかな間違い。こういうものを放送局に保障しなさいと政府に求めている。政府は放送局に求めなさいではなく、ちょうどその逆」

「メディアに対して、みんな萎縮して忖度して自己規制してるんじゃないですか。メディアというのは国民の知る権利に奉仕するために存在しているということ。それを忘れないでほしいということに尽きる」

「一番損失を被るのは国民で、しかも重要な事実を知らないまま投票権を行使することによって国が道を誤る。民主主義が機能しなくなる」

放送法は放送局を守る法であって、政府が放送局に求めるものではないということ。この履き違えは、自民党改憲案と同じだ。憲法は国民が守らねばならぬものではなく、国会議員が守らねばならぬもの。その解釈を180度変えようとする動きは看過できない。

放送法の特集の最後に、膳場貴子キャスターが「今回の行政文書から明らかになったのは、これまで政治権力と放送事業者の緊張関係の中で実績を積み上げながら運用してきた法律が、今回は政府内のごく少人数の内輪の議論で解釈を変更しようとしていたということ、国会での議論があったわけでもない。民主主義という観点からも見過ごせない問題がある。しかもこの件が官邸主導の成功体験、その後の政治に影響を与えたというからますます見過ごせない」と述べた。

そして編集長の曺琴袖さんが「今週火曜日3月7日は森友学園問題の赤木俊夫さんの5回目の命日だった。森友問題の少し前からメディアの萎縮が進み、いま、時に私たちの番組さえも大きなプレッシャーを受けながら報道することが増えてきた。そういう時、赤木敏夫さんの生き様を胸に自分に言い聞かせている。メディアの矜持というのは国家権力・政府組織の広報をすることではなく、時に彼らの都合の悪いこと、知られたくないことも伝え、国民の知る権利に寄与することではないか。放送法は政治が放送事業者に介入する根拠のためにあるのではなく、メディアの矜持を持つ放送事業者を守るためにあることを忘れないでいただきたい」と締めくくった。

メディアの矜持を持った報道番組を、これからも応援し続けたい。そして投票行動は、国民の知る権利を守る立場の人に投票したい。

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