出生率数値目標 撤回
政府の有識者会議「少子化危機突破タスクフォース」で、4月21日、少子化対策の成果をあげるために出生率などの数値目標を設定するかどうかの議論を始めた。が、早くも5月15日には出生率の具体的数値目標は提言を行うことを断念したという。この連載でも取り上げるべしと思っている間に連載〆切前に既に撤回されたとは。
でもやっぱりなぜ反発があったのか、おさらいをしておく価値はある。少子化対策というと、まだ女だけの問題と思われがち。しかし、少子化には様々な社会的・経済的な要因が働いている。そうした要因を検討した上で多面的な対策を打ち出すために数値目標を設定する予定だったのかも?しかし、少子化の原因があたかも女性一人一人の無知やわがままにあるかのような言説がえんえんと繰り返されているので、女性たちは警戒せざるを得ない。そういえば、2013年5月、同じく「少子化危機突破タスクフォース」は、10代からの女性を対象に、「卵子老化」について知らせ、30代前半までの結婚・出産を促す目的で、「女性手帳」を配布する計画を発表したところ、女性たちから「産むか産まないかに国が口を出すのか」等激しい批判を受け、早々に撤回した。今回の数値目標も、手っ取り早く女性だけの「目標」にし、「結婚や出産の時期を見直しし、とっとと目標値を達成せよ」と女性の生と性に国家が介入しようとしているのではないかと懸念された。「少子化危機突破タスクフォース」よ、「打ち上げては引っ込める」を繰り返さず、落ち着いてまずは原因分析から取り組んでほしい。
「少子化」といえば「若年女性」の「数値」
数値目標設定への議論開始についてアツく語ろうとした途端に見送られたので、ボケっとしていたら、ん?今度は新聞各紙に「若年女性、896自治体で半減」といった見出しが。出元はこちら、民間研究機関(とはいえ座長増田寛也元総務相など何だか重たい組織)「日本創成会議」が5月8日に発表した「成長を続ける21世紀のために ストップ少子化・地方元気戦略」(http://www.policycouncil.jp/pdf/prop03/prop03.pdf )。
「ストップ少子化・地方元気戦略」は、子育てと仕事が両立する働き方をひとつの施策と打ち上げ、「多様な働き方の推進」をその一項目として掲げる。「多様」といえば聞こえはいい。でも…「バリキャリ」、すなわち総合職女性に両立支援を工夫すべきというにとどまっている。別の箇所では「女性ではなく男性の問題として取り組む」ともあるのに、総合職「男性」への言及は…?まあ別のところで「男性が育児や家事に主体的に参画する」べし、ともあるけど、個人の意識改革では何とかならないのでは…。「ユルキャリ」女性への「マタハラ」対策は…?雇用の安定化は…?「バリキャリ」「ユルキャリ」なんて今どき風の言葉を使って愛想笑いしているようだけど、一部のエリート女性とその他圧倒的多くの女性の分断を婉曲表現しているよう。派遣労働者などの女性たちにつき、雇用の安定をどうするのか。「ストップ少子化・地方元気戦略」も、「若年世代の経済的基盤の確保」を具体的な施策のトップバッターに掲げているけど、非正規雇用が問題という文脈であげられているのは男性労働者の数値だけ。
ゼロ歳児保育の再検討を、ともある。不思議だ。やむを得ずゼロ歳児保育を選択するケースがあると指摘しているけど、どうしてそこをまず指摘?ゼロ歳児保育を求めるニーズは確実にある。女性を活用したいけど、育児も負わせたいという意図が見え隠れしているように思えてならない。待機児童の問題解消に、公的負担の充実や保育士の待遇改善を掲げず、株式会社を含む多様な事業者の参入を奨励しているのも、ひっかかる。保育の質に一言も触れていない。
ライフスタイルの選択を尊重しよう、夫婦別姓の選択くらい認めよう、なんて提言もなし。ひとり親家庭への支援強化は辛うじて掲げられているけど、非婚の母に所得税法の寡婦控除の適用がないことを是正しよう、といった提言もなし、婚外子差別解消もなし。子ども手当や高校無償化に所得制限が復活した問題にも一切触れず…。
どうも、ライフスタイルの多様化や個人として尊重してほしいという女性の主張を嫌う現政権でも採用してくれそうなところを提言してみた、という感じ?これぞ、おとなの言説戦略?でも、どうせなら、遠慮がちでなく、ビシッと言ってほしい。
とはいえ、「ストップ少子化・地方元気戦略」では細々と課題をあげているのに、報道では、どこの自治体で20~39歳の女性が半減するかという数字ばかりがクローズアップ。女性という「孵卵器」の数が少なくなる少なくなる!と煽られている気すらした。女性は「孵卵器」ではない。数だけ云々してもはじまらない。女性も男性も子産み・子育ての選択が尊重されるのが、基本のき、だ。