集団的自衛権を憲法解釈の変更で可能にしようとしている。憲法「改正」は困難と踏んで、解釈変更の手に出たか。集団的自衛権を認めれば、自衛隊員を「兵士」として海外に派兵することにつながる。アメリカ兵に代わって、日本兵が犠牲になろうと言っているようなものだ。集団的自衛権に賛成の人は、自分や自分の子どもが戦死してもいいと思っているのだろうか。それでなくても少子化が問題だと騒いでいるのに、戦死してもいい命などないはずである。
4月21日に開かれた内閣府の有識者会議「少子化危機突破タスクフォース」。人口減少に歯止めをかけるために戦闘会議(?)を開いたのか。「タスクフォース」という命名も、アニメか何かのヒーローものの戦闘チーム名か?という印象だったが、「危機突破」ときたから、びっくりだ。「黒ヒゲ危機一髪」が頭をよぎって笑ってしまった。
教育現場に「数値目標」が求められるようになって久しい。生徒指導、進路指導、教科指導、部活動の指導・・・何かにつけ「数値目標」が求められてくる。「遅刻の回数を○回未満にする」「国公立大学の合格者数を○人以上にする」「学級通信を年に○回以上出す」等々。その目標が達成できたかどうか、客観的に判断できるように、数値目標を設定しなければならない。目標は校長の設定した学校目標に沿って、各分掌、教科、学年の目標が定められ、個人の目標が設定されていく。個人で設定した目標に対して、校長との面談が行われ、場合によっては目標の修正をしなければならない。
設定したくない目標を要求されている教職員もいると聞く。自分の指導方針とは相反する目標を分掌主任等から定められて困惑する教職員もいるようだ。人の立てた目標に自分の指導が左右されることになると、教育が歪みそうである。どこで妥協するか、ストレスを感じる数値目標の設定である。
この数値目標も、当初は「自己評価」だった。生徒の実態を踏まえ、自分たちで目標を設定し、中間反省をし、年度末に目標が達成できたかどうか判断する。ところが、「自己評価」では済まなくなり、第三者評価まで入ってきた。外部から「評価者」として、弁護士や大学関係者等が年に何回か学校を訪れ、授業の様子や生徒からの聞き取り等を行い、学校のとりくみを評価し、その結果を公表し始めている。生徒一人ひとりの顔を見えなくし、数字となって表れる「数値目標」。その数値目標をクリアできたかどうかが年度末に問われ、次年度の数値目標の設定へとつながる。数値目標を達成するために教育実践しているつもりはないが、徐々に毒されている気がしている。
さて、先ほどのタスクフォースも、数値目標を定めようとしているらしい。女性が何人子どもを産むか、目標を設定しようというのだ。自分では産みもしない人から産む子どもの数を指図されたくないと思ってしまう。少子化への危機感が強いのだろうけれど、「何人以上産め」などと赤の他人に言われたくない。いや、他人であろうとなかろうと、言われる筋合いはない。しかし、私生活にまで政府が口出ししてくる日も近いのかもしれない。
戦中のスローガン、「産めよ増やせよ」は聞いたことがあったが、そのおおもとの「人口政策確立綱項」(1941年閣議決定)の中身を読んだことはなかった。恥ずかしながら、自分の勉強不足をさらけ出し、中身を見てみることにする。その中に「第四
人口増加の方策」というのがあるらしい。以下、少々長くなるが、引用すると・・・
第四、人口増加ノ方策
人口ノ増加ハ永遠ノ発展ヲ確保スル為出生ノ増加ヲ基調トスルモノトシ伴セテ死亡ノ減少ヲ図ルモノトス
一、出生増加ノ方策
出生ノ増加ハ今後ノ十年間ニ婚姻年齢ヲ現在ニ比シ概ネ三年早ムルト共ニ一夫婦ノ出生数平均五児ニ達スルコトヲ目標トシテ計画ス
之ガ為採ルベキ方策概ネ左ノ如シ
(イ)人口増殖ノ基本的前提トシテ不健全ナル思想ノ排除ニ努ムルト共ニ健全ナル家族制度ノ維持強化ヲ図ルコト
(ロ)団体又ハ公営ノ機関等ヲシテ積極的ニ結婚ノ紹介、斡旋、指導ヲナサシムルコト
(ハ)結婚費用ノ徹底的軽減ヲ図ルト共ニ、婚資貸付制度ヲ創設スルコト
(ニ)現行学校制度ノ改革ニ就キテハ特ニ人口政策トノ関係ヲ考慮スルコト
(
ホ)高等女学校及女子青年学校等ニ於テハ母性ノ国家的使命ヲ認識セシメ保育及保健ノ知識、技術ニ関スル教育ヲ強化徹底シテ健全ナル母性ノ育成ニ努ムルコトヲ旨トスルコト
(
ヘ)女子ノ被傭者トシテノ就業ニ就キテハ二十歳ヲ超ユル者ノ就業ヲ可成抑制スル方針ヲ採ルト共ニ婚姻ヲ阻害スルガ如キ雇傭及就業条件ヲ緩和又ハ改善セシムル如ク措置スルコト
(ト)扶養家族多キ者ノ負担ヲ軽減スルト共ニ独身者ノ負担ヲ加重スル等租税政策ニ就キ人口政策トノ関係ヲ考慮スルコト
(チ)家族ノ医療費、教育費其ノ他ノ扶養費ノ負担軽減ヲ目的トスル家族手当制度ヲ確立スルコト
之ガ為家族負担調整金庫制度(仮称)ノ創設等ヲ考慮スルコト
(リ)多子家族ニ対シ物資ノ優先配給、表彰、其ノ他各種ノ適切ナル優遇ノ方法ヲ講ズルコト
(ヌ)妊産婦乳幼児等ノ保護ニ関スル制度ヲ樹立シ産院及乳児院ノ拡充、出産用衛生資材ノ配給確保、其ノ他之ニ必要ナル諸方策ヲ講ズルコト
(ル)避妊、堕胎等ノ人為的産児制限ヲ禁止防遏スルト共ニ、花柳病ノ絶滅ヲ期スルコト
だそうで、結婚年齢をいまより3歳ほど早めて、子どもを産む数を平均5人とすることや、結婚の紹介のすすめ、女性に母性の国家的使命を認識させて保育や保健の知識・技術の教育を強化徹底すること、堕胎の禁等が謳われている。改めてびっくり。保育士や保健師等の多くを女性が担ってきた歴史は、政策によって作られたものだったことを改めて認識させられた。これらを「男子に」と謳っていたら、現在の保育士や看護士は男性が多くを担っていたのだろうか(・・・そんなことないか)。
少子化にもってきて、集団的自衛権を行使して派兵まで考えているところを見ると、どう考えても「産めよ増やせよ」を再現しようとしているとしか思えない。子どもの数まで政府が口を挟んでくるようになれば、そのうち、セックスの回数までもとやかく言い出すのではないか(考えすぎ?)。教科書の中身もその路線で記述されるようになるのかも(既になっている?)。教え子を再び戦場へ送らないためにも、日々平和教育の実践あるのみである(決して、「積極的平和主義」ではない・・・当たり前)。