スクールフェミ 異次元の少子化対策するなら、まずは経口中絶薬をドラッグストアで
2023.02.09
永岡文部科学大臣が衆議院予算委員会で「卒業式にマスクを着用するかどうかを判断するのは個人と言うよりも家庭の議論というのが非常に大きな要素を占めると思っております」と答弁した。このニュースを知ったとき、筆者は「本校の卒業式でマスク着用をお願いできなくなるのか」と思っていた。
ところが、その5時間後、永岡大臣は「誤解を招いた」と会見を開き、「現時点で卒業式のマスクの取り扱いについて決めたと言う事実はございませんので」と予算委員会での答弁を撤回した。この「誤解を招いた」という発言、最近政治家がよく使っているが、受け取る側が悪いかのように用いられていて腹立たしい。誠実さの欠片もない政治家の発言だ。
誠実さが感じられないと言えば、子ども手当に所得制限を設けないと旧民主党政権下で議論した際の丸川珠代自民党議員の「愚か者めが」発言に対する「反省すべきは反省し」もそうだ。「反省しています」となぜストレートに言えないのか。「反省すべきは反省し」は、その言葉の続きに「反省する必要のないことは反省しない」が隠れていないか。素直に自分の非を認めることのできない、不誠実な言葉である。岸田首相も「反省すべきものは反省し」と使った。
その岸田首相、同性婚の法制化に関して衆議院予算委員会で「極めて慎重に検討すべき課題だ」「(同性婚や夫婦別姓については)社会が変わってしまう課題だ」と否定的な考えを示した。その総理の秘書官が同性婚を巡って「見るのも嫌だ」「隣に住んでいたら嫌だ」「(同性婚を)認めたら、国を捨てる人が出てくる」と発言した。その総理にしてその総理秘書官あり、というものだろう。荒井秘書官は更迭されたが、政権の底が見えた感だ。荒井秘書官はアライ(性的マイノリティの当事者に限らず、支援者や理解者を指す言葉)ではなかった。
同性婚を認めるからこの国を捨てるのではなく、同性婚や夫婦別姓を認めない、そして女性の人権が尊重されていないこの国の現状に、見切りをつけて国外に移住する人が増えているのではないか。昨年の国外移住者数は55万人を超え、そのうち6割が女性だったという。女性を下に見て女性の人権を大事にしないこの国で、子どもを産み育てようと思えない女性が増えているのではないか。
諸外国ではドラッグストアで購入可能な緊急避妊薬や経口中絶薬も、この国ではそう簡単に手に入らない。避妊や中絶が女性の権利として十分に認められていないのだ。先日、ようやく厚生労働省はイギリスの製薬会社ラインファーマの経口中絶薬の承認を了承したが、手軽にドラッグストアで購入できるまでには時間を要することになりそうだ。日本では初期の人工妊娠中絶は、いまだに掻爬(そうは)法と吸引法が主流だ。経口中絶薬が選択肢にない現状は、世界的に見てかなり遅れている。
掻爬法は女性を心身ともに傷つけ、場合によっては命を奪いかねないリスクの高い中絶法だ。筆者の友人で、祖母が掻爬法によって命の危険に晒された経験のある女性が、以下のメールを送ってくれた。
こんな言い方は嫌だが……緊急避妊薬・経口中絶薬の薬局販売(処方箋なし)の承認に、反対する方々に教えたい。
緊急避妊薬・経口中絶薬は「産める子宮を守る薬」でもあると。
逆に緊急避妊薬・経口中絶薬の処方箋のない薬局販売が遅れるほど、中絶手術によって産めなくなる女性が増える。少子化が急速に進む、大きな一因だ。
年間出生数80万人を切る日本で、近年の中絶は15万件前後だ(2020年厚生労働省データより)。毎年、およそ6人に1人が中絶されている。しかも日本では、なぜか時代遅れの掻爬(そうは)法がいまだ多い。これは、菜箸ぐらいの細い棒や鉗子を子宮口に突っ込み、胎児を掻き出す方法だ。子宮に穴があくなど、子宮を痛めて二度と産めなくなるリスクも高い。
望まない妊娠の上、中絶手術で心身にさらに深手を負えば、二度と妊娠を選ばない女性と、後に子どもを望んでも授かれない女性も、累積的に増えてしまう。
掻爬法による中絶手術は1件でも迅速に減らすべきで、緊急避妊薬・経口中絶薬の悪用の議論など、している時間はない。中絶手術で命を落とす女性もいるのだ。
私事だが、昔、私の祖母は中絶手術に失敗され、術後、夜中に大出血し、救急車で緊急入院し、子宮を切除した。その時の輸血で(当時は売血もあり)肝炎を移され、後年それが元で亡くなった。
祖母は手術直後は命拾いしたが、へその下に、ハンカチを裏から握りつぶしたような、10センチほどの長さの手術痕が残った。5歳の私にも恐ろしく手荒い処置に見えた。祖母と一緒にお風呂に入った時、思い切って祖母に手術痕について尋ねると「子宮を取っちゃったのよ」と泣きそうな顔で答えた。今も忘れられない。叔母から中絶手術が原因だと聞いたのは、祖母の死後だった。
今も「中絶」の文字に、あの痛ましい祖母の傷を思い出す。そして中絶率関連で検索した時の衝撃的で悲惨なデータ(10代の妊娠の約6割は中絶される等)の1件1件の重さ、日本の女性への軽視ぶりに、悔しさで涙が出る。
なぜ日本にいる女性たちが、これほど理不尽な傷を負わねばならないのか。
一因は、緊急避妊薬の入手の難しさだ。
自分は子育てを望まないのに避妊に協力しない男性、中絶手術を軽く考えている方々は「男性の一瞬の快楽のために、相手の女性や赤ちゃんが殺されても、全くかまわない」と言っているに等しい。
そんな男性からは全力で逃げて欲しいが、無理だった時、避妊に失敗した時、せめて諸外国のように薬局ですぐ緊急避妊薬・経口中絶薬を買えるようにすべきだ。薬の承認さえすれば、女性自身の命も助かるのだ。
処方箋なしの販売を承認しない理由は何だろうか? 女性の体を守る以上に、大切な理由があるだろうか? 中絶手術の儲けや、手術できずやむなく産む子どもが目当てなのだろうか? 女性が子を望まない理由を考えただろうか? コンドームをしない男性が増えるリスク? 私はあまり無いと思う。今まできちんとコンドームを装着してきた男性なら、薬局に緊急避妊薬があろうと装着するだろう。避妊効果が100%ではない薬で、相手を妊娠させたくないだろうから。緊急避妊薬が簡単に手に入らないのにコンドームをつけたがらず、中絶させる男性が大勢いるリスクを、まず考えて欲しい。
承認を拒むのは、産める体の女性が減るばかりか、海外流出が増え、外国人の来日が減る一因にもなる。たとえば私は若い頃、望まぬ妊娠を恐れて、一人での留学や海外業務、国内旅行やクラブ、飲み屋に行くなどは想定外だった。
もし薬局で処方箋なく緊急避妊薬が買える国を知っていたら、旅や留学や移住の候補国にしただろう。すぐに買えない国など、完全に行き先対象外だ。速やかな緊急避妊薬の処方箋なしの薬局販売は、少子化対策だけでなく、経済、インボイス等の向上にも直結している。
それでも承認反対の方々は、想像してみて欲しい。ご自分が、いきなり悪い大男に無理やりお尻を掘られて種つけされたら! その結果、ラグビーボール大の赤子を、肛門を裂きながら(麻酔なしで)血まみれで産むしかない世界に生きていたら! 中絶したくば菜箸やハサミを突っ込まれ、運が悪いと死ぬ世界にいたら! 緊急避妊薬をドラッグストアで、処方箋なしで、買いたくなるはずだ。
以上が友人からのメールだ。全くもって同感だ。異次元の少子化対策をするなら、まずは経口中絶薬をドラッグストアで。女性の人権を尊重するところから始めていただこう。そして、旧統一教会との決別をしたなら、同性婚と夫婦別姓もすぐさま導入していただきたい。